第53話『赤く光る宝石』
お待たせしました。
第53話の執筆が完了しましたので、宜しくお願い致します。
※2022/08/05改稿しました。
※2025/07/15改稿しました。
――朝起きて、気づいたら周りには誰もいなかった。
俺と一緒に居たはずの、ブロンズちゃん、アミさん、みどりちゃん、バレスさんの姿が見えないのだ。しかもキャンプしてた形跡までもが消えていた。
俺は焦りと不安を覚えながらも、辺りを捜索した。しかし、どこを探してもやはりどこにもいない。
――いや、異常なのはそれだけではない。
『風が来ない……?』
偶然、風が全く吹かないのかもしれないが、あまりにもその気配を感じない。まるで時が静止してるかのようだ。
『……また変な夢でも見てるのか?』
夢だとしたら、ダークネスといううるさい奴がいると思うが……現れる気配がない。
『じゃあ現実か……?』
こういう時に最もメジャーな夢の確か方である頬っぺたを強くつねってみることにした。
『普通に痛い……』
痛みは感じたということはやはり現実か?
いや、よく考えたらこれまで見た夢だって痛みも疲労感も覚えたし、関係ないか。
『うーん……じゃあなぜ、俺はここで一人置き去りに……?』
考えられるとしたら……。
①ブロンズちゃんによるドッキリ企画。てってれー!
②寝てるときに何者かにさらわれたが思ったよりうまく運べなくて、途中で落とした。
③やっぱり夢。爆発オチならぬ夢オチなんてサイテー!
④誰かが俺に変な魔法をかけた。
『……うーん、分からん』
俺は頭に思い浮かべた推論を捨てて、他に何か手がかりはないか、昨日の夜の事を思い返してみた。
昨日はブロンズちゃんと眠くなるまで雑談をしていた。その果てにブロンズちゃんは俺に寄りかかり、先に夢の世界へ行ってしまった。その後は多分俺もいつの間に眠ったんだろうけど全く覚えていない。美少女が俺に寄りかかってきた事実に震えていて、それどころじゃなかったからな……。
『とりあえず歩こう、誰かいるかもしれない』
俺はひたすら荒野を歩き続けた。何も無くても、誰もいなくても、例え今までの思い出が幻想だったとしても……。
『それにしても本当に何もないな、この荒野は……』
歩いても歩いても本当に何も無い。あるとしても、大きめの岩がその辺にあるだけ。
『岩……か』
この荒野は確かに何も無い……無いのだが、岩だけはあるのだ。荒野なのだから当然だと思うかもしれない。だけど藁にもすがる思いと言うやつかな。何でもいいから、手がかりが欲しい。
俺は試しに目の前にある大きな岩に触れてみた。
『……何も起きないか』
大きな岩の周りを一周して観察しても、特に気になるものもない。
『他の岩も見てみよう』
俺は視界に捉えた全ての岩を、徹底的に調べては移動し、また岩を調べてを繰り返した。
『はあ……どの岩も何も気になる所は無いなぁ……』
そろそろ精神的に辛くなってきた……だけど、俺は諦めずに幾多の岩を調べ続けた。すると、他の岩とは明らかに違う岩を見つけた。
『なんだこれ?』
表面に赤く光る宝石が埋め込まれている。岩の中に赤い宝石という妖しさを醸し出している。
『やけに熱いなこの岩……この宝石のせいか?』
俺は宝石に触れようとした……その時だった。
『それに触れるな!』
突然、どこかから女性の怒鳴り声が聞こえた。明らかに知り合いの声ではない。
『誰だ!?』
俺は内ポケットから杖を取り出し、後ろを振り返った。
『……あれ? 誰もいない』
『ここだ』
声のする方へ振り返ってみると、中性的な美女が後ろにいた。
『いつの間に……!?』
その美女は、赤髪ちゃんの髪よりも濃い赤髪で髪型はポニーテール、外見はスポーツとかやってそうな、かっこいい系のお姉さんって感じだ。
『反応が鈍いな! お前、弱いだろ?』
出会って早々にディスられた。まあ、確かに弱いけどさ……。
『……否定はしない、あなたは何者だ?』
俺がそう言うと、美女は親指を自分に向けてこう言った。
『俺か? 俺は火の女神だ!』
『火の女神!?』
マジか、まさかこんな所で会うとは……でも、本当に女神なのか? 何でここにいるんだ? 火の国にいるんじゃないのか? 脳内でそんな事を考えている最中に、火の女神はさらに一方的に喋ってきた。
『俺がここに来たのはよ……お前を助ける為だ。』
『俺を……助けに……?』
『あぁ、お前に聞きたいことがあってな、ここで死なれちゃ困るんでね』
『聞きたいこと……?』
『まあ、後でゆっくり聞かせてもらうぜ、今はお前の状態をなんとかしねえとな』
『俺の状態……そうだ、俺は今どうなってるんですか?』
俺がそう聞くと、火の女神は岩に埋め込まれた宝石の方を見てこう言った。
『お前、昨日、この宝石触ったろ?』
『え? 触ってないですよ』
『そんなはずはねえよ! じゃなきゃ、何でお前は、意識乗っ取られてんだよ!』
『意識を……乗っ取る?』
『ああ、この宝石はな、悪夢の宝石と言ってな、触った奴は、眠る時に宝石に意識を乗っ取られるんだ! しかも永遠にな!』
『永遠……だと……!?』
永遠なんて……まさか、そんなことあるはずない。そもそも、その宝石に触った覚えもないし。
『でも、俺は本当にその宝石に触れてない……』
『あぁ!? じゃあ何でお前乗っ取られてんだよ!』
『知らねえよ!』
『そんなはずねえんだよ!』
『だから、知らねえって言ってるだろ!』
『知らねえわけねえだろ!』
『知らねえもんは知らねえんだよ!』
『知らねえもんは知らねえわけねえんだよ!』
ヒートアップしていく宝石触れてない議論。このまま感情に任せて議論しても埒が明かない。そう思った俺は火の女神に向かって、右手を前に張り話を遮った。
『このまま話しても埒が明かない! とりあえずここから脱出する方法を教えて下さい!』
『……そうだな……悪い熱くなりすぎた……』
火の女神はハッと我に返り、燃え尽きたかのように冷静になり謝罪した。
『俺の方こそ熱くなってしまってすいません』
俺自身も悪いと思ったので頭を下げた。お互いが喧嘩した時、どちらかが冷静になれば案外解決するもんだな。
『脱出方法だったな……まず、宝石に触れないように、この岩を破壊していくぞ』
『岩を破壊ですか?』
『おう、見てろ』
火の女神は宝石に触れないように慎重に、拳で岩を削っていった。
『拳で削ってる……すごい……』
『ほら、お前も見てないで手伝え』
『分かりました』
俺は岩の反対側にまわり、風の簡易魔法で岩を少しずつ削っていった。ほんの少しずつしか削れてないけど……。
『宝石には絶対触れるなよ、最終的にこの岩は全て砕き宝石のみを残すようにするんだ』
『分かりました』
――――
それから体内時計で一時間経過したくらいで、ついに岩を全て砕くことに成功した。すると宝石は無防備に地面に落ちていった。そして儚くも宝石は焦げ跡だけ残して消え去った。
『な、なんだ!?』
『この宝石は地面に落ちるとな、意識を取り戻せて、元の世界に戻れるんだ。どういう仕組みかは知らんがな』
『じゃあ、これで俺は本来の世界に戻れるんですね?』
『あぁ、そうだ』
周りを見ると、天に昇るように徐々に消えていく地面と岩。俺と火の女神も身体から光の粒が蛍の光のように群がっている。よく分からない状況だが、これから俺達は消えるのだろう。
『さっきお前に聞きたいことがあるって言ったよな? 今は時間がねえから後で火の国の地下道に来い』
『火の国の地下道?』
『そこに、お前達のよく知る魔王もいるぞ』
『魔王……!』
世界の終わりのように空も周りにある全てのものが消えようとしている。残ったのは俺の上半身と火の女神の上半身のみ。だが、その上半身も元の世界へ戻ろうとしている。
『おっと、そろそろ限界だな。絶対来いよ』
火の女神がそう言った瞬間、切り替わるように世界が黒く染まった。何も見えない。俺はどこにいる?
――――――――ちゃん。
ブロンズちゃんの声が聞こえた。俺は急いでその声がする方に向かって走った。
どうやら元の世界に戻れるようだ。良かった……俺は、置いてかれたわけじゃなかったんだ。
第53話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、仕事の都合上、早くて22日、遅くて24日には投稿していきたいと思います。
宜しくお願い致します。




