EPISODE1『セカンド・ドライヴの災難②』
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銀行強盗ならぬ病院強盗。金が目的ならば銀行ではなく、わざわざ病院を選ぶのは不自然だ。何か他の動機があるに違いない。
『マジ〜? これ警察呼ばないとヤバくない?』
至極当然だ。しかも今の俺達は強盗に気づかれていない。今のうちに通報しておいた方がいいだろう。
『ああ、早く呼んだほうがいい』
『そうだねスマホスマホ――って、あれ?』
女はバッグの中やポケットの中を漁るが、スマホの姿はどこにもなかった。
嫌な予感しかしない。
『ごめん、更衣室にスマホ忘れてきたっぽい! 悪いけど、お兄さんのスマホで連絡して!』
『俺はスマホを持ってない』
『ええ〜!? どうしよ……って、ああさっきのおじいさん――っていないし!』
強盗現場第一人者のご老人は、いつの間にか忽然と姿を消した。どうやら、恐れをなして逃げたようだ。
『えー! どうしよ!』
原始的な手段としては、ここから警察に届くレベルの大声で叫べば、この場に駆けつけるかもしれない。
おそらくこの病院は防音になっている。だから俺達が多少大きな声で叫んでも、病院内には届かない。が、それでも限度がある。この町全てに轟かせる程の声量であれば、さすがに強盗に気づかれるかもしれない。
もし、強盗に気づかれでもすれば、中の人質に危害が及ぶ可能性もある。それを考慮して慎重に行動を起こさなければならない。
残念ながら、警察を頼ることはできない。
なので、次は武力的な手段を考えた。
俺の力であれば、速攻で強盗共を一網打尽にできるが、俺の力の余波が病院ごと粉砕するかもしれない。もちろん多少手加減はするが、それでもロビーを破壊するくらいの出来事は起きてしまうだろう。
やれやれ、筋力を強くしすぎてもその分加減が難しくなるから考えものだな。こんなことになるなら、力加減の修行でもするんだった。
嘆いていてもしょうがない。この状況を覆す方法を考えなくては。
『――はい、お願いします!』
隣の女から、誰かに頼む声が聞こえた。誰と話してるんだと思ったら、なぜか所持してないはずのスマホを持っていた。
『スマホは持ってないんじゃなかったのか?』
『ああ、そこの人に借りた』
通りすがりのサラリーマンだった。冴えない顔をし、なぜかペコペコと頭を下げている。
『なるほど、最初からこうすれば良かったのか』
正直、その発想はなかった。
『よし、これで警察が来るまで大人しく待とう!』
『ああ』
俺達は強盗に気づかれないように、柱の影に隠れて、強盗現場を見守った。
『なぜ俺達はここに隠れているんだ?』
俺達は警察じゃない。ただの一般人のはずだ。国家権力から守られる立場ならば、むしろ安全の為に、ここから離れるべきだろう。
『だって、捕まってる人達は逃げられないのに私だけ逃げるわけにはいかないじゃん』
『何を言っている?』
『お兄さんこそ何言ってるの? 逃げることは恥なんだよ?』
本人は至って真面目に答えた。逃走行為そのものを否定するとは、軽薄そうに見えて、ずいぶんと勇敢な性格をしている。
『なるほど、つまりお前は逃げることが悪だと言うんだな』
『うん、もちろん』
女は澄んだ瞳で即答した。まるで恐れを知らない戦士のように。
『勇敢なのは結構だが、お前にあの強盗を退治できるだけの力があるのか?』
『それは……』
この女は一般人だ。それも魔法という概念すら知らないどころか、護身術すら会得してるか怪しい。そんな奴が真正面から強盗に挑めば、人質と仲良く縄に縛られるだろう。最悪殺される事もあり得る。
『残念ながら、今のお前が何をしようとこの状況が覆るわけじゃない。むしろお前が余計な事をすることで、これから駆けつける警察の足を引っ張るだろう』
『……でも、それでも……』
女は悔しそうに拳を強く握っている。自らの非力は理解しているようだ。しかし、それでも尚この女は一歩も引かない。
『なぜだ?』
『?』
『なぜお前は逃げない? 一体誰がお前をそうさせたんだ?』
そう聞くと、女はハッと頭を上げた。その直後唇を噛むと、俺の身体に密着した。
『何のつもりだ?』
はたから見れば恋人同士にも見える光景だが、この女が俺を好いているわけでもない。確かに俺の容姿は良い方ではある。この女が話しかけてきたのも、それが目的だと思っていた。
しかし、だからといって会ったばかりの人間を抱きしめるだろうか?
その疑問が頭に浮かんだ瞬間から、女が小さい針を持っていた事に気づいた。その先端は明らかに俺の背中へ向いていた。
攻撃が目的ならば小さい針だけでは事足りない。せめてもっと鋭利な刃物を用意するはずだ。
なのに、あえて小さい針を用意する理由は一つだ。あの針に毒薬か眠り薬でも入っているのだろう。
美女に密着されれば、どんなに屈強な男だろうと魅了される。個人差はあるだろうが、少なくとも困惑させることはできる。だから、その不意を突くことができる。といったところか。
『――ごめんなさい』
刹那、針は俺の皮膚に触れ、そのまま吸い込まれるように沈む。
『うっ』
微弱な痛覚が俺を襲う。それから何かを注入されたような違和感を覚える。
『これは――』
『――今は大人しく眠って』
彼女は言葉を言い残すと、俺は瞼を閉ざし、身体を預けて、後の成り行きを見守ることとなった。
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