EPISODE1『セカンド・ドライヴの災難①』
お待たせしました。
まだ新章の構成は終わってませんが、かといって何も投稿しないのも寂しいので、5.5章として何かしらの投稿はしたいと思います。
宜しくお願い致します。
――神ゼウスによって世界は滅びた。消えた人類達及び資源は次の世界を創るまで“時空の物置き”に保管されているようだ。
俺はその直前、ノルンから管理者権限の一部を頂戴し、違う時代に送ってもらった。
ノルンの権限だった改造システム。普通の人類の限界を容易に超えることができる禁忌の技だ。
ノルンからは、
“まあ、セカンド・ドライヴさんなら大丈夫でしょうが、くれぐれも私欲の為に使わないように”
と、強く釘を刺された。当然だ。発動するだけで世界を破壊しかねない代物だ。無闇に使えば、ゼウスが何かする前に世界が滅びてしまう。
もはや力と呼ぶには、あまりにも大規模な権限だ。無論関係者以外には口を滑らせてはいけない。この力を無意識に使わないように、基本的に俺の力だけで困難を乗り越えるつもりだ。
そして、俺は今この困難を目の当たりし、唖然としていた。
『なんだこれは?』
飛ばされた先は、真夏のプールだった。幸い水とは少し離れた休憩所だったため、衣服を濡らさずに済んだが、ここは俺にとって見知らぬ土地の存じ得ぬ場所である。さすがの俺も状況を整理するのに時間を要した。
自分なりに調べてみた結果、近くに知り合いらしき者はいない。時代はほとんど変わらない現代。だが、見渡す限り誰も魔法を使っていない。まだこのプール場しか目にしていないので、偶然魔法を使う者がいないだけかもしれないが、なんとなく感じるはずの魔力の香りというものが、鼻腔に一切入ってこないので、少なくともここら周辺は誰も魔法を使っていない。
なるほど、この時代はもしかして魔法がない時代なのかもしれないな。時代というか世界線と言うべきか。
ゼウスが創り出した次の世界なのか、その次か、あるいはもっと先なのか。
『それはあまり重要ではないな』
『何が重要じゃないのー?』
『ん?』
休憩所に長居していると、赤いビキニ姿の美女が現れた。髪にサングラスを引っ掛けており、布面積は小さい。それに対し、胸部は大きく、ほぼ裸体同然の姿を晒している。
『ねえねえお兄さん、水着着てないのに、こんなところで何やってるのー?』
プールなのに水着を着ない俺に興味があるようだ。
『俺は自分のやるべき事を模索しているだけだ』
具体的ではないが、素直に答えた。
『ふーん、よく分かんないけど、要するにスタッフさんってこと?』
スタッフとは、このプールの監視役といったところか。
『違う』
『え、じゃあ何しにきたの? もしかして水着の女の子をナンパしたいから、その見定めをしてるってこと?』
『もっと違う』
『えー、じゃあ何でここにいるの?』
水着も着なければ、スタッフでもない。さらにナンパでもないなら、なぜここにいるのか?
それは俺が聞きたいところだ。
この時代に俺を送ったのはノルンだ。ノルンに聞いてほしい。
……そう答えるわけにはいかないか。そもそも世界の極秘情報をここで明しても真に受ける者などいないだろう。百歩譲って信じたとしても、こんな力のない娘に何ができる。むしろ余計な不安を背負わせてしまう可能性がある。
ここは嘘を口にするしかあるまい。
では、どう答えるのか。
日差しが肌を焼く季節の中、水着にも着替えず、ただプールの休憩所で下着同然の女達を眺めるこの状況。
どう考えても”水に滴る女を見ていた”以外の回答が思いつかない。諦めてそう答えてしまえば、先ほどのナンパじゃないという回答に矛盾が生じてしまう。
このままでは俺は怪しまれるばかりか、プールの端で女を漁るナンパ男という不名誉な称号まで得てしまう。
――そうだ、いい妙案を思いついた。いっそこうしてしまえばいいんだ。
『すまない。分からないんだ』
『分からないって、どういうこと?』
『実は俺は、記憶を失くしているようなんだ』
無論、嘘だ。忘却などできるものか。俺の中に溢れる、この思いは――
『えー! 記憶喪失!? それマ?』
『マ、とは何だ?』
『マジでってことだよーってそれより、記憶失くしてるって大変じゃん!』
この女は、やけに見ず知らずの俺の話に耳を貸してくれる。単純に善人なのか、それとも俺を騙す為に演技をしているのか。後者であることを前提に話すとしよう。もしそれで善人であれば、俺の杞憂だったと思い直せばいいだけの話だ。
『待っててね、今――』
助けを呼ぼうと踵を返そうとした直後、女の動きは止まった。
『どうした?』
『えっと……こういう時ってどうしたらいいんだっけ?』
助ける側であるはずの女は、俺に知識を求めてきた。
常識で考えるならば、病院へ連れて行くのだと思うが。
記憶喪失になる事自体そうそう無いとはいえ、自ずと分かるものではないのか?
俺は呆れながら『病院に行くのではないのか』と伝えた。
『そうだ、病院だー!』
クイズで正解したようなリアクションを取ると、すぐに俺の手を掴み、病院へ連れて行った。
そこで俺は大きな失敗をしたことに気づいた。記憶喪失は真っ赤な嘘だ。つまり、このまま病院に行って診断されれば、記憶喪失が嘘だとバレてしまう。そうなれば、ますます信頼を失い、俺への詮索を進め、“偽りの記憶喪失男捜査本部”が設立されることだろう。
大事になる前に、ここから逃げ出す必要がある。それも不自然ではない方法で。
とは言ったものの、全く思いつかない。人とのコミュニケーションを怠ったつもりはないが、こういう場面で出す言葉がわずかでも捻出されないのだ。
うむ、かなりベタではあるが、こう言うしかあるまい。
『すまないが急用を思い出した。俺はここで――』
偽りの理由で立ち去ろうとしたその時だった。
『強盗だ!!!!!!!』
たまたま病院の透明な自動ドアの先を覗いた老人が、衝撃的な光景を目にして、そう叫んだ。
確かに自動ドア越しに、拳銃やナイフを持った覆面の男三人がナースや患者を縛り上げていた。奴らはそれに夢中になっていたおかげか、先ほど老人から出た叫び声が聞こえていないし、我々の存在に気づいていない。
『え、うそ? 強盗?? 銀行じゃなくて病院に??? そんなことある????』
俺を連れてきた女もかなり困惑しているようだ。
俺はこの女や叫んだ老人のように、表情や声には出さないが、僅かに愕然としている。
さて、どうしたものか。
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




