第590話『ニ度目の正直』
お待たせしました。
第590話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※今回は文字数多めです。
《霧の女神ミスト視点》
――私は一度死んだ。
魔王城にゼウスとプロメテウス、そしてヘラが襲撃し、味方が次々と倒れていく中、私はプロメテウスの攻撃によって命を落とした。親友のファントムちゃんを置いて。
死後、私はふわふわとした不思議な空間でマーリンと対面し、一万年前の過去で“ある人”に向けた伝言を届けてほしいと頼まれた。
その“ある人”の名は、白鳥黄金。一万年前のゴールドちゃんである。
どうやら彼女には一万年間記憶を保持した状態で、オーガスト・ディーンことダストの手助けができるように動くように言われているようだ。
ゴールドちゃんは、よく魔王城であちらこちら動き回っていたと赤髪ちゃんから聞いたことがあるが、その時に色々と細工をしていたのだろう。
そして、ダストを追い詰めて殺したのも一万年前へ飛ばすため。
任務とはいえ、心苦しかっただろう。彼女にとっても愛おしい人を亡き者にするのは、精神を壊しかねない。
しかし、彼女はそれでも尚平然と動いていた。まるで人殺しをただの仕事だと割り切っているように、ポーカーフェイスを貫いたのだ。誰よりも感情が出やすい彼女がだ。
年端のいかない少女でありながら、鉄の心を持ち合わせている。もはやただの料理上手な超絶美少女ではない。平和を勝ち取る為に勇敢に立ち向かう戦士のようだ。
『すごいね……あの娘』
私はゴールドちゃんの勇姿に惹かれてしまったと同時に嫉妬心を覚えた。それはそうだろう。だって、勇気があって料理が上手でめっちゃ可愛くて、一度彼女を視界内に入れれば、そこから視線を外すことができない。まるで天性のアイドル。
まあ、本当にアイドルになったのは妹のブロンズちゃんの方だけどね。
この時代のだけど、最後にゴールドちゃんに会えて良かった。
この世界はもうすぐ滅びてしまうから……。
そうなれば、当然私も死して、霧の女神ミストではない別人として生まれ変わってしまう。
マーリンにはそのように言われた。
私はもう霧の女神ミストとして、みんなに会うことはない。また死んだら今度こそ霧の女神ミストは消滅するからだ。
『あーあ、長いようで短い人生だったなー』
寂しいとは思うが、悲しいとは思わない。
個人差はあるが、人間は若ければ若いほど死する事に恐怖を覚えるが、私達は女神になった時から、人間としてではなく、女神としての価値観にアップグレードしてるのだ。女神は死を恐れない。輪廻転生を受け入れる心を最初から持ち合わせているのだ。
まあ、それでも人間らしいところが残ってる女神もいる。特に性格の悪い地の女神アースや、欲望のままに突き進む闇の女神ダーク。こいつらは別格だ。
『はぁ……』
――今でも後悔している。脅されていたとはいえ、ゴールドちゃん達に牙を向いてしまったこと。
時の女神が住む“世界の果て”に霧魔法を浴びせてしまった。
仲間のファントムちゃんと一緒に撤退した後は、ダークに『貴女達は、まだまだ使い道があるので待機していて下さい』と言われた。
見捨てられる方がマシだった。だって、それはまるで道具箱に仕舞われる一つの道具のような扱いだからだ。
壊れるまで私達はあの女の好きに使われるのだろう。
人権ならぬ神権がない。私とファントムちゃんはこのまま一生ダークの奴隷なんだああ!
『うわああああああああああああああああああん!!』
そう嘆いていた時、救世主は現れた。
私達の隠れ家に、時の女神が勝手に訪れた。
私達を嗤いに来たのかと思ったが、普段の彼女の性格を考えれば、そうではないとすぐに分かった。
では、何の用だろうか? 話を聞いてみると、『ダークを打ち倒す策がある。私達に協力してくれれば二人の無実を勝ち取れる』と交渉してきた。
『どうやって?』
『近い未来、とある組織ごとダークを葬るほどの戦力が集結する。だけど確実じゃない。だから二人にもそこに加勢してほしい。そうすれば勝率が上がる』
『話の内容は分かったけど、その戦力は今用意できてるの?』
『現時点ではまだ』
『なら、信頼できない』
私達は知っている。そうやって私達を惑わせて、光の女神シャイの殺害の濡れ衣を着させられたことを――
疑心暗鬼。今の私にふさわしい表現だ。たとえ悪心とは無縁そうな時の女神でも、信じることができない。いや、信じることが怖い。
『分かった。どうすれば私を信じられる?』
諦めるかと思いきや、今度は信頼される条件の開示を求めてきた。
『無理、何やっても信じない』
『無理?』
『無理だ』
『そう……』
普段表情には出さない彼女だが、今この時だけはどこか落ち込んでいるように見えた。もちろんそう見えただけで、本当にそうかは分からない。
くそっ、ポーカーフェイスが強すぎる。内心何を考えているのか推測すらできない。こいつババ抜きでジョーカー引いても眉一つ動かないんだろうな。
だから、なんとなく不気味っぽく感じてしまって、信頼感を得られない。そもそも時の女神とはあまり関わりがなかった。教室の隅でずっと一人で本読んでそうな奴だ。何を考えているのかも分からない。
そんなんで信頼しようって方が無理がある。
――だが、今の私には彼女以外取り付く島がないのも事実だ。ここで彼女からの提案を断れば、勝率とやらが下がって、結局このままかもしれない。だけど、ここで私達が協力すれば、ダークから解放されるかもしれない。
しかし、信頼することの恐怖が私の決断を邪魔する。
“嘘だったらどうする?”
“信頼に値する根拠は?”
“そもそも時の女神は何者?”
“何で今更話しかけてきた?”
“騙そうとしている”
あらゆる思考が私を惑わせる。
つまり、これは――ギャンブルだ。
二者択一で当たれば解放、外れれば引き続き地獄、下手をすれば死ぬ。そんなルーレットだ。
私の後ろにあるのは崖の下だ。もはや逃げ場などない。ならばここで時の女神に賭ける方が賢明なのかもしれない。もちろん信頼してるわけじゃない。やっぱり怖いし、うんと頷くには勇気がいる。
なので、私はある条件を出した。
『ただし、ある条件を飲んでくれるなら考える』
そう言うと、時の女神は表情こそ変わらないが、『おっ』と声に出すくらいには反応してくれた。
『条件?』
『ああ、もし時の女神が裏切った時――』
『ダジャレ?』
『真面目に聞け!!!』
――気を取り直して、私はこんな条件を提示した。もしも時の女神がミスト達を裏切るような行為をした場合は敵と見なし、ダーク側に寝返って時の女神の計画を暴露する。
『それは条件というより、脅し』
確かに、その通りだ。今の私は冷静じゃない。
『そうとも言うが、そんなことはどうでもいい。とにかく私達は切羽詰まってるんだ! これを飲めないなら私達はダーク側についたままだ!』
感情的に叫ぶ私は、獰猛な魔獣に送るような眼差しで時の女神を見る。要するに威圧を与えているのだ。
だが、目と目を合わせても、彼女は一切動じない。ただその宝石のような瞳には、私という敗北者が映し出されている。まるで私を見下しているように、格下の戯言を聞いている。
ダメだ。私では時の女神に勝てない。戦闘面でも精神面でも。
同じ女神なのに、こうも差が生まれるとは。
もはや悔しさを通り越して、呆れてしまった。自分に。
『分かった。それでいい』
交渉成立。それでも私は警戒心だけは残しつつ、時の女神の計画に乗ることになった。どちらにせよ選択肢はないみたいだし。
『話勝手に進めちゃったけど、ファントムちゃんは大丈夫かな?』
いつものことだが、一切口を開かなかったファントムちゃんを気にかけた。
『……大丈夫』
時の女神ほどじゃないが、ファントムちゃんも感情が薄いので、嬉しいのか不満なのか全然分からない。まあ、さすがのファントムちゃんも嫌なことは嫌だと言うだろう。口にしなくても最悪ジェスチャーくらいはすると思う。
全く、こいつらは……感情くらい出せ! おかげで何考えてるか分かんなくて喋りにくいんだよ!
なんだか急に腹が立ってきた。何でもいいからこいつらに一泡吹かせてやらないと気が済まない。
『ねえ、ファントムちゃんに時の女神』
『なに?』
『ババ抜きしよう』
このあと、めちゃくちゃババ抜きした。
結果、私の惨敗だった。
第590話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




