第589話『三位一体』
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ここで半永久的に暮らすだって?????
意味が分からなかった。あまりにも理解できなかったので、私の言語理解能力が急低下したかと思った。
『意味が分からないと思ってますね?』
はい。
『――説明しましょう。そもそも私は別に貴女に償ってほしいわけではありません。なぜなら貴女はダークの命令に逆らえる選択肢がなく、生きるためには従うしかない立場にあったからです』
確かにその通りではあるが、それでも罪を犯していい理由にはならない。仲間を襲う人間など危険以外の何者でもない。さっさと消すべきだろう。
『大丈夫ですよ。オーガスト・ディーンさんには強くなるために、常に緊張感を持ってもらわなければなりません。どうやら彼は少し先の未来で一度やる気を失くしてしまうみたいなので、偶にはこういう出来事があったほうがいい刺激になるんです』
上司より酷くないですかね? いくら超絶かわいいノルン様でも、パワハラが過ぎるのでは?
『いいえ、パワハラではありませんよ』
当然のように心を読み、笑顔で私に圧をかけるノルン様。
『そ、そうですか……』
元々反論するつもりはなかったが、気圧された私はこれ以上何も言えずに、ひたすら肯定クローンになったのだった。
次にノルン様は真面目な表情を変えて、
『ですが忘れないで下さい、貴女に罪がないわけではありません。先ほどはああ言いましたが、私の仲間を襲った事実は変わりません。だからこその措置です。もし、勝手にここから抜け出そうものなら、貴女を敵と見なして、容赦なく攻撃します』
厳しい視線を送りながら、冷酷に見下ろす。
この時、私は恐怖を覚えた。
ノルン様に嫌われることよりも、本能がこの御方に逆らってはいけないと告げている。もし逆らえば地獄が待っていることは確定だろう。だが、逆に言えばノルン様の命令さえ守っていれば、生涯安泰な暮らしを約束される。
分岐される二つの道の先は天国と地獄とはっきりと分かれている。あえて地獄を行く理由はなく、よほどの愚者でなければわざわざ地獄を選ぶ理由はない。
一生ノルン様に従おう。それしかない。いや、それがいい。そもそも私はノルン様を推している。彼女の喜ぶことをしたい。彼女の思い通りに動きたい。駒扱いされても構わない。多少パワハラされても構わない。ノルン様のお役に立てるのなら、私はダーク様だって殺してみせる。
『ノルン様、私は一生貴女についてきます!!!』
少し鬱陶しかったのか、険しい表情だったノルン様は少し引き気味になった。
『そ、そうですか……それは結構なことです。これから宜しくお願いします』
動揺してるノルン様もかわいい!
『あは、ははは……』
こうして私は、このヴァルハラの住人として一生遊んで食っちゃ寝生活を余儀なくされたのであった。ニート万歳。
――そして、今に至る。
『確かにノルン様は、ああ言って下さりました。ニート生活最高です』
『おい、言い方』
まあ確かにニートか、とヘラクレスは思った。
『ですが、本当にこのままでいいのか、と最近思い始めまして……なんというか……』
『あぁ、なるほど。労働のない環境に飽きたんだな。そういうことならバレスに頼める仕事があるぞ。例えば城の掃除とか森の整備とか、料理が出来るなら、わかなさんの手伝いとか、色々あるぞ』
『そんなバイトがあるんですか!?』
料理もできますよ、と付け加えた。わかなさんほど美味しくはできないが。
『お、おうあるぞ。バイトとは呼ばれてないが。というかバイトなんて言葉知ってたのか』
『クローンですが、世間の言う常識は一通り把握してます。ニート生活も一つの夢ですが、バイトをするのも密かな夢でした』
わたし、実は夢が多すぎる。普通の人間ならば当たり前のように隣にあるものだが、私のように組織の中で飼われるだけの人間には縁のないものだった。
『そ、そうだったか。分かった。ちょっと、ヒルドとわかなさんと相談して、バレスの仕事持ってきてやるよ』
相談するメンバーの中にノルン様の名前は挙がらなかった。雇用の問題には社長も加えるのは当然のはずだ。
だが今は、まともに話せるほど体調が優れないのだ。どうやらノルン様の許可が必要なことは一部ヘラクレスさん達に権限を渡しているそうだ。
私の仕事を持ってきてくれるのは嬉しいが、寂寞感が邪魔して、心が満たされない。
『ノルン様はまだ具合が悪いんですか?』
そう聞くと、ヘラクレスさんは眉を下げ、悲しそうな表情になりながらも、答えてくれた。
『そうだな、まだ体調が優れない様子だ』
『ご病気なんですか?』
ノルン様の事情を知らない私は質問した。
『いや、そういうわけじゃない。ちょっと頑張りすぎたんだろうな。ここのところ働き詰めだったからな』
確かにノルン様が弱るまでは、基本的に朝から晩まで自室で仕事をこなしていた。あまりの多忙故に一食分の食事を抜くこともあった。もちろん休日もあったが、緊急事態の時は休日返上で仕事をした。
このように、なかなかブラックな環境にいれば体調不良になるのは当然だ。いくらノルン様が女神とはいえ、身体は人間と同じだ。このまま衰弱死することだってあり得る話なのだ。
しかし、それだけでは無い気がする。本当は病気でヘラクレスさんが嘘をついているのなら話は別だが、本当に病気じゃないのにここ最近ずっと寝込んでいるのは不自然だ。
よほどの疲労なのか、いや、それにしたって回復が遅すぎる。ノルン様の身体が特別弱いなんて話も聞いたことがない。
ということは、安易に明かせない秘密があるのだろう。それが何なのか分からないが、私にできることはその秘密を暴くことではなく、少しでもノルン様が過ごしやすくなるように、私がこのヴァルハラで働くことだ。もちろん自分の働きごときでノルン様の御身体が治るなんて思っていない。ただ居ても立ってもいられないだけだ。
『それなら尚更私に仕事を下さい。ほんの少しでも力になりたいんです』
私は頭を下げる。
『おう、任せろ』
ヘラクレスさんは私のお願いを改めて聞き入れてくれた。
『ありがとうございます!』
その後、幹部たちの会談により、私も従業員のように働くことが決定した。所属先は調理場だ。料理ができる人材は貴重らしい。ならば必然的にそうなるだろう。
上司は料理長のわかなさんだ。料理人でありながら歴戦の戦士のような貫禄があり、その外見通りの高い戦闘能力も備わっている。
勝手なイメージで、多少のスパルタ教育を覚悟していたが、怒鳴り散らす場面は一切見られず、それどころか私を気遣ってくれた。娘さん含む従業員の皆さんも優しくて、泣きたくなる。
それでも労働であることには変わりない。大変なこともあるけど、私は幸せだ。
――だが、その幸せも長くは続かなかった。今から近い未来で起こる破滅が私達を引き裂き、私を引き合わせるのだった。
第589話を見て下さり、ありがとうございます。
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