第588話『四面楚歌なクローン』
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《バレス弐号機視点》
私に名前はない。しいていうならバレス弐号機という。
私はバレスという人物を元に作り出されたクローンだ。しかもただのクローンではなく、より精密に作られた人間である。もはや人間と遜色のないレベルで機能も全てが完璧に揃っている。
たとえ慧眼魔法を持つ者がいたとしても、私がクローンであることを暴くことはできない。
まあ、普通にバレてしまったが。
事の経緯を説明すると、とある組織に所属していた私はダーク様の命令でバレスのフリをしてオーガスト・ディーンを暗殺しに行ったが、そのバレスが偶然その場に居合わせてしまい、私がクローンであることが露見してしまった。
偽物だとバレてしまえば、身内に情がある彼でも容赦なく私を殺しに来ると予想した私は、まともに対峙しても勝てる見込みはないと判断し、撤退を図ったが、ヒルドさんという美人だけど化物みたいな身体能力の人に簡単に捕まってしまった。その際に私は疲労で意識を失い、ヴァルハラの一室にて監禁され、今に至るというわけだ。
まあ監禁とは言ったものの、特に手足を縛られてるわけでもなく、監視カメラも見当たらなかった。
しかも、普通に部屋から出られるし、食堂に行けば硬貨や紙幣が無くとも美味しい料理を振る舞ってくれるし、図書室で本や漫画、ライトノベルなど読みたい放題。さらに娯楽室への出入りも自由だ。最近はメダルゲームにハマってる。
『いいんですかこれ』
たまたま娯楽室で居合わせたヘラクレスさんに、そう聞いた。
『何がだ?』
私の立場くらいは理解してる。敵組織であり、オーガスト・ディーンに危害を加えようとした張本人だ。死刑まではいかなくとも、拷問や監禁など、何らかの罰は与えるべきだろう。しかし、実際に執行されたのは真逆のものだった。
金を払わなくとも食事や娯楽を堪能できる。ヴァルハラ大陸内限定だが、どこにでも行くことができる。
誰もが憧れるであろう楽園に私のような犯罪者がほぼ無条件で入り浸っているのだ。唯一の条件は半永久的にこのヴァルハラで過ごすことだ。だが、実質自由に暮らせるこの楽園から一体誰が出ていこうと思うのだろうか。
仲間を殺そうとした私どころか、犯罪と縁のない立派な人間ですら憚れるような場所に私が居ても良いのか。そんな疑問を抱くことは至極当然のことだ。
『私は過ちを犯したのに、本当にここにいてもいいんですか?』
『ノルン様が許可してんだからいいんだよ』
私がここに滞在することは、組織のトップであるノルン様の決定だ。
組織である以上は、トップの決定を逆らうことはできない。なので、例えばヘラクレスさんが私を親の仇のように思っていても、お客様として扱わないといけないのだ。
私もダーク様の組織に所属していたが、とても上の決定に口を出せない。そう考えると、組織というものは善悪関係なく、トップの発言力が強いものなのだな、としみじみ思う。
『確かにノルン様と初めてお会いした時に言われましたけど……』
――あれは私がヒルドさんに連れ去られた日のことだ。
眠った私を抱えたヒルドさんが転移魔法でヴァルハラに転移して、そのままベッドの上に私を置いた。それから自然と目が覚めてから、私はヒルドさんに軽く説明を受けて、ノルン様の元へ足を運んだ。
――綺麗な人だった。
星の川のような白い髪、お人形さんのような汚れのない白い肌、モデルのようなスラリとした体型。まさに女神という高貴な存在にピッタリな人だった。いや、人ではないようだが、容姿は完全に人のように見える。
玉座についてお淑やかに紅茶を飲む姿は、まるでおとぎ話のワンシーンを観ているかのようだ。
『綺麗……』
思わずそう口を漏らしてしまうほどに、私の心はノルン様一色に染まった。
紅茶の入った容器を隣の丸机に置くと、私の方へやってくる。
表情すらお淑やか。歩く姿は百合の花。そんな美しい貴女が私に近づいてくる。私の心臓のリズムが早くなっていく。
そして、彼女は口を開こうとしている。私にどんな言葉を賜ってくれるのか。
『初めまして、私はノルン。このヴァルハラの統治者です』
――声すら美しい。一字一句全てが耳にしっかりと入っていく。まるで声優さんのような滑舌の良さ。
『あ、ああ、わ、私は、バババ、バレス……あ、でもバレスではなくて……そ、そその……えっと……あ、あぅぅぅ』
緊張というバグが私の脳内を駆け巡り、その影響でうまく自己紹介ができない。
私はクローンではあるが、人並みの感情がある。今までは無表情だったが、今の私はこれまで以上に人らしく感情を表に出している。
『大丈夫ですよ。貴女の事は把握してます。バレスさんのクローンなのでしょう?』
『は、は、ひゃい!』
噛んじゃった! 恥ずかしい……。
ノルン様はそんな私を見て少し微笑んだ。微笑むノルン様可愛すぎですか?
『さて、本題に移りましょうか。まず貴女の処遇についてですが』
刹那――私は天国から地獄に落とされるような感覚に陥った。
お客様のような扱いをうけていたから忘れていたが、私はこの人たちの敵だった。
未遂とはいえオーガスト・ディーンを暗殺しようとした。私の罪はとても消せるものではないし、仲間を想うのなら、ここで私を消しておくのがセオリーだろう。最悪死刑は免れたとしても、生涯牢屋に閉じ込められるくらいのレベルの刑を受けるだろう。
元々私に自由などない。ただダーク様に命じられるままに動くだけの操り人形だ。任務が成功しても次の任務に送られ、失敗すれば体罰を受けるだけだ。今の私はまさに四面楚歌状態だ。ならばここで殺されたとしても同じことだ。
そもそも私には生きる希望がない。
『なるほど、貴女はそういう風に考えるんですね』
『え……?』
『ああ、失礼致しました。実は貴女の心を読んでおりました』
『心を、読む……?』
『はい。信じられないかもしれませんが、私には人の心を読む力があります。それで誠に勝手ながら貴女の心を読ませて頂きました。申し訳ございません』
頭を下げるノルン様。
『あ、頭を上げてください! 私は別に心を読まれるなんて気にしてません!』
そう言うと、ノルン様は頭を上げて、会話を続行した。
『ありがとうございます。貴女の寛大な心に感謝致します』
再び頭を下げるノルン様。
感謝の意を示すと、ノルン様は一度脱線した話しを戻した。
『それでは貴女の処遇についてお話させて下さい。結論から言いますと、貴女への罰は――世界が終わるまでここで暮らしてもらいます』
『――え?』
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