第587話『五風十雨な世界であっても』
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――いよいよ八問目。これで最後だ。
シャイはこの時点で、この世界に関して、ノルン様に対しての疑問は……まあ解消されたといっていいだろう。完璧に理解していないだけで。
彼女の中ではまだ唯一残ってる疑問がある。それはとある人物について。
シャイとの面識はたくさん。互いの強さを競い合った関係でもあり、共に戦ったこともある。
(最後の質問だ。オーガスト・ディーンについてだ。あの男は何者なんだ?)
シャイはオーガスト・ディーンと過ごした時間はそれなりに長い。彼の素性は前々から気になってはいた。だが本人の為を思い、詮索したことはほとんどない。
しかし、今この場にはオーガスト・ディーンや他の生者はおらず、一番事情を熟知しているであろうノルン様がいるのだ。
彼について聞くのなら、今が絶好の機会といえるだろう。
『オーガスト・ディーンさんですか。確かにシャイさんからすれば謎多き人ですよね。世界の根幹に関わることなので、話せる範囲は限られてきますが、それでもよろしいですか?』
(構わない)
『分かりました。まずはプロローグから語りましょう。彼は――』
女神ノルンはダストについて知っていることを、可能な限り話した。
そのどれもが信じがたい真実だった。いくらファンタジーの世界といえど、理に反するレベルの事象を引き起こしていたのだから。それを静聴できるほどシャイは冷静ではいられなかった。
だが、異質の存在であるオーガスト・ディーンならば……と彼を見てきたシャイは少し無理やり納得した。
『――以上です』
長い説明を終えた女神ノルン。
『はぁ……はぁ……』
ここに入ってきた時のように息が上がり、苦しそうな表情をしている。
(おい、大丈夫か?)
『大丈夫です……』
本人はこう言ってるが、次第に呼吸が荒くなっていく。やがて座ることすら困難になり、冷たい床に倒れ込む。
(ノルン様!)
寄り添いたい気持ちはあるが、魂は自らの意志でビンの中から出ることはできない。助けることはおろか、声も出せないので助けを呼ぶことすら叶わない。
他の魂もどこか荒ぶっているように見える。それぞれの魂が、倒れたノルン様に何を思っているのか分からないが、ビンの中から出たそうにしている。
(くそっ……!)
女神ノルンが弱っていく様を見ることしかできない。そんな自分を恨み、呪った。
身体さえあれば……。
肉体があったとしても、シャイに医療知識はないので正しい処置はできないだろうが、少なくとも患者を医務室へ運ぶことくらいは可能だ。
だが、今はこのザマだ。
画面の中のキャラクターのピンチを眺めることしかできない視聴者のように、ただその光景を観ることしかできない。
(何もできない自分が憎い! 誰かノルン様を医務室へ運んでくれ!)
その願いが通じたのか、扉が開かれ、暗い霊魂室に光が差し込んだ。
タイミングがタイミングだったので、まるで救世主が現れたように思えた。
『ノルン様、見つけた〜』
やたら露出の激しい看護婦であるヒルドが現れた。
こんな時でも無表情の彼女だが、弱っている女神ノルンを見て、すぐに彼女を運び出し、霊魂室をあとにした。
その後は静寂だけがこの空間を支配していた。時が経つにつれて、魂はそれぞれのタイミングで落ち着きをみせたが、そもそも音を立てることがないのでどちらにせよ静寂ではあるが。
(……)
女神ノルンの予言通り、八問目で終了した。体調が悪化することも読んでいたのかは定かではないが、見事に予言的中させたのはさすが女神だと、感銘を受けた。
これで聞きたい事は全て聞けたのだが、一つだけ新たな疑問が生まれた。
結局ダストはどこから来たのかだ。
この世界にやけに馴染みがあるようだが、もしかしたら今の時代とほぼ変わらない世界線から来たのだろうか。その方がしっくり来るが、どうやらそれはマーブルが魔王城で召喚される前であり、兄であるアクタのギルドが壊滅した後の話だ。
彼の始まりの話は、勇者になってフーと旅をしたところからだ。それから魔王を倒したら、世界が滅びて別の世界線を転々したわけだ。
じゃあ、勇者になったそれ以前は?
彼が勇者ダストになる前、彼は何をしていた? どういう人物だった? 今と同じ教師か? それともまだ子供だったのか? そもそも女だったかもしれない。
というか彼はその記憶を保持しているのか。
まだまだ聞きたいことが山程あるが、シャイにできることは女神ノルンの無事を祈ることか、考察することくらいだ。
(……ここで待つしかないな。ノルン様、どうかご無事で)
その後、ヒルドの適切な治療により、女神ノルンの容体は安定し、ひとまず元の生活に戻れたのだが、根本的な解決には至らなかった。
しかし彼女がどれほど回復していようと、世界の破壊は免れない。どの道全員滅びるのだ。
もはや猶予はない。とはいえ女神ノルンの任務はほぼ完了している。
――あとは来たるべく“破滅の日”に最後の任務を遂行するだけだ。たとえ五風十雨な世界であっても、確実に“その時”は近づいているのだ。
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