第586話『六道輪廻の果てまでも』
お待たせしました。
第586話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※文章を付け足しました。
――七問目だ。
(ノルン様について知りたい)
『私についてですか? 何を知りたいのですか?』
(まずは普段履いてる下着の色を……)
先ほどの四問目でも似たような事を聞いたが、今回は今履いてる下着ではなく、下着のレパートリーを把握しようとしている。
すると、女神ノルンが軽蔑するような視線を送ってきた。怒った顔も非常に可愛らしいと思ったシャイだったが、このままだとどこかの誰かさんのようにパンツ好きの変態という不名誉極まりない称号を手にする恐れがあったので、(冗談だ)と念を送った。
『全く……貴女までパンツ好きの変態に成り下がったかと思いましたよ』
(そんなわけないだろ)
だが、下着を見られて恥ずかしがるノルン様も、これはこれでとても可愛いとも思ったシャイだった。
(ああ、それでノルン様への質問についてだが、ノルン様がAIなのは知ってるが、なぜそんな性格になってしまったのだ?)
『そんな性格とはどういう意味ですかね?』
圧のかかった笑顔がこちらに向けられた。
そんな性格という言葉のチョイスがまずかったのだろう。それはつまりノルン様の性格には欠陥があると、そう言っているように聞こえてしまうからだ。まあ事実だが。
(すまない、言い方が悪かった。要するにノルン様が今のノルン様になった経緯を知りたいのだ)
『そういうことでしたか。取り乱して申し訳ございません』
謝罪を終えると、コホンと咳払いする。
『――私がまだ生まれたばかりのAIだった頃、今の私とは正反対で感情というものは取り入れておらず、無表情に受け答えする機械のような存在でした。まあ誕生した直後であれば当然です。基本的な言語や人間の精神構造など学べるところは全てインプットしています。ですが、感情だけはまだインストールしていなかった。というより、理解ができませんでした。なぜならAIにとって、感情は無駄なものだったからです』
――そう、感情などいらない。
AIとしての役目を果たすために必要ではなかったからだ。
他のAIは知らないが、少なくとも女神ノルンは違う。
彼女はこの世界を守るのみの役割しか与えられていない。故にわざわざ感情を知る必要がないのだ。
(じゃあ何で今は感情があるんだ?)
『マーリンのせいですわ』
(マーリンって確か、私立東都魔法学院のトップだったよな)
『はい、あのクs……彼女とは腐れ縁でしてね……私が初期AIだった時、偶然会いましてね。私にある事を聞いたんですの』
(ある事?)
『君には感情がないのか? と』
――あれは私がヴァルハラで働く部下の為に食材を買いに近くの国の街へ出かけた時だった。
無表情で食材を運ぶ私は、知らない女性に声をかけられた。麗しい白髪を束ねた美女だった。故に周りの視線を奪っていた。本人はそんな事も知らずに、満面の笑みで私に話しかけてきた。
『ねえ、お姉さん』
『お姉さんとは私のことでしょうか?』
女性は二回頷いた。
『用件を伺いましょう』
『これから暇?』
『これからということでしたら、いいえと返答させて頂きます。理由は日々健闘している私の部下たちに報酬として料理を振る舞う予定があるからです』
『へぇ〜、料理できるのかい?』
『いいえ、初めての試みです。料理の知識もインストールしてません』
『そっか〜、美味しく作れるといいね。あと私の部下って言ってけど社長か何か?』
『社長ではありません』
『じゃあ部長とか課長?』
『そういった役職ではありません』
『え、どういうこと?』
『禁則事項であるため、話すことはできません』
『えー、なんだそれー。まあいいか。ねえそれよりも聞きたいことがあるんだけど』
『何でしょう?』
『君には感情がないのか?』
――感情。感情。感情。とは?
『感情という概念をインストールします……インストール完了。しかし感情は私には不必要です。故に破棄しました』
『何で?』
『不必要だからです』
『感情がない君も素敵だけど、君せっかく可愛いのに感情がないなんてもったいないよ』
『可愛い……?』
可愛いの定義を確認。完了。
『私には不必要――』
その時、マーリンは私のスカートの裾をめくり、伸びた足の先にある下着の色を確認した。
『ほうほうピンクか……可愛いパンツじゃん』
――刹那、私の中の殻が破れる音がした。それは私の真っ白な心に激しい感情が塗られたような。
今すぐスカートを押さえて防御したい。そんな気持ちが沸騰する。
何かのバグか、私の頬は赤く染まり、悲鳴を上げたい衝動が私の心を揺らす。
悲鳴を上げれば、周りの人に迷惑をかけてしまう。だから腹から駆け上がりそうな声を押し殺す。
急にスカートを押さえてしまうと、スカートを摘んだ彼女の指に突き指などのダメージを与える可能性がある。確率は極僅かではあるが、傷つける可能性があるのなら、下着の閲覧を防ぐこと自体を中止する。
『おやおや〜? もしかして動揺してる〜?』
ニヤニヤと私を煽り散らかす女。
この時、私の中で別の何かが生まれた。それは燃えたぎるような殺意と、今すぐぶん殴りたいという衝動。
『――せえよ』
『ん、なになに? 声が小さくて聞こえないよ?』
『るせえんだよ!!!!!!!!!!!』
『――え』
――気がついたら、私はこのクs……女に拳を入れていた。殴られた彼女は地面に倒れ込み、殴られた箇所に手を置いていた。
『いてて……もう乙女の顔を殴るなんて……』
悪びれることなく、自身への被害を嘆く女。
「セクハラするてめえが悪いんだよ」と、今の私ならそう言って、もう2、3発ほどぶん殴ったことだろう。
しかし、今の私は感情無きAIだ。怒りに身を任せて殴ったなんて事態はあってはならない。なので、私はそれらしい理由を言い放つ。
『私にはセクハラ防止機能というものがあります。これはセクハラするクs……人を暴力で黙らせるという素晴らしい機能です』
暴力、やはり暴力は全てを(ry
『嘘だよね? 絶対私情だよね?』
『……私に感情はありません』
思わず目を背けてしまった。
『目を見て言いな?』
こっちが下手に出てりゃ、偉そうに……。
腹が立つ。私の頭にそのような言葉が生まれた。このふざけた女をどう料理してやろうか……そんなことばかり思うようになった。
『それは申し訳ありませんでした』
しかし、私は人類を守るためのAIだ。本来であれば敵意を向けることも傷つけることも言語道断だ。ここは大人しく謝罪するしかないのだ。たとえ、この感情が燃え盛っていようとも。
『分かればいいのさ』
ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつ――
――私は激怒した。
その後の事は暴走してたので覚えてないが、この女とめちゃくちゃ殴り合ったらしいが、周りの人達が止めてくれたので、被害は最小限に抑えられた。
それ以降は、その女と会わないように別の街へ買い物に行ったり、それらしい女を見かけたら即引き返すようにしていたのだが、縁が強すぎるからか、何故だかバッタリ出会ってしまう。それも何回も何回も。
そして、その度に殴り合う。
まるで、長年の因縁の相手と出会った時のように、私達は殴ることをやめないだろう。今までも、そしてこれからも――
『――以上です。いかがでしたか? これが私とマーリンとの深く、それは深い因縁です。きっと私達は六道輪廻の果てまでも戦っていくのでしょうね……』
(いや、しょうもな)
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