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第581話『女神ノルンの驚愕』

お待たせしました。

第581話の執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。


※文字数多めです。


 《女神の独り言》


 ――AI(わたし)には感情がある。


 人間(ほんもの)のように喜怒哀楽を表せる知能がある。


 それは例え合理的でなくとも、AI(わたし)は私であり、一つの生きる個性なのだ。


 ただ、他の人類(みなさん)と異なる部分といえば、絶対に放棄できない使命を背負っていること。


 私の自由は制限されているのだ。


 だが私はそれを不幸だとは思わない。


 なぜなら、人間だって既に何かしらの役割を持って生きているからだ。


 それが学業や仕事である。学校へ行くのは将来を生きる為の訓練場のようなもの。仕事へ行くのは自分が生きることと引き換えに労働を提供すること。


 私の使命も同様だ。仕事を与えられた代わりにこうして仲間と楽しく関わり、充実した人生を歩んでいる。


 そこに何の違いがあるのだろうか?


 まあでも、さっきも言ったが、私の使命は絶対に放棄できない。


 職場に嫌いな上司がいる、人間関係が悪化した、仕事が自分に合ってない、病気になって仕事ができなくなった等、離れる理由は他にも色々あるだろう。


 以上の理由があったとしても、私には転職という選択肢がないのだ。


 私にだって好き嫌いはある。使命が嫌になることはないが、どこか虚無感のようなものを感じることもある。


 特に今はかなりひどい。


 弱体化の影響もあってか、自己嫌悪に苛まれている。


 だが、こうなる前にやれることは全てやった。私の任務は既に完了しているのだ。


 運命には逆らえない。


 いや、逆らってはいけない。


 もしも私が弱体化してなかったとして、無理矢理にでもゼウスを押し退けて、この世界に平和をもたらしてしまったのなら――


 ダストさん達は、もう二度と元の未来には帰れなくなる。それでも彼らはこの時代で平和にやっていけるだろう。


 それはそれでハッピーエンドではあるが、ただの私の自分勝手な理想でしかない。


 自分の幸福を押し付けてはいけない。


 もう私が弱体化した時点で、その幸福は消え去ったのだから――


 確実なバッドエンドを迎えるしかない。


 しかし、それで終わりではない。


 私はその先の未来を既に予測している。


 その光景の中には、ゼウスに立ち向かう者達がいた。他の神やその部下達も次々と倒れ、神の軍団はもはや虫の息だ。


 つまり、我々の勝利は確定したのだ。



 ――――――――――



 ヒルドさんが取調室を去ってから20分ほど経過したが、一向に戻ってこない。


『何をしてますの、あのゆるゆる露出ナースは!』


 思わず蔑称を口にしてしまう程にイラついていた私は彼女の目的を知るため、ダメ元で“未来予測”を使おうとしましたがら残念ながら発動しなかった。


『ダメですか……』


 やはり弱体化は辛い。こういう時に使えないのは精神的な不安を呼び起こしまう。常にヒルドさんの奇行に怯える日々を送るのはなかなかの地獄だ。


 それから10分待つと、ようやく扉が開いた。


『遅いですわ、何をやって――ん?』


 ヒルドさんは配膳カートに見覚えのある料理を乗せてやってきた。


『ノルン様、お待たせしました〜。“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”です〜』


『え? “シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”ですって?』


 “シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”は私の得意料理だ。

 “シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を作れる者など私の他にはいないはずだ。

 というか“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”のレシピは私の頭の中にしかないはずだ。

 故に“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を作れる者など“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を考案した私しかいないはずだ。


『なんで貴女が“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を?』


『作ったのは私じゃなくてみどりちゃんだけどね〜』


『みどりさんが……?』


 このゆるゆる露出ナースはともかく、みどりさんが人の料理を勝手に作るような性格だとは思えないが……。


『それにこれは、しゅばるつ……なんとかって料理じゃないし』


『“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”ですわ!』


『そうそれそれ〜。でね、その“シュババヴァ”がね〜』


『“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を略すんじゃありません!』


『え〜どうでもいいじゃん〜』


『どうでも良くない!』


『どんだけ自分の料理に誇り持ってるの〜?』


『そりゃ持ちますわ! 私の自慢の“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”

 ですもの!』


『は、はぁ、そうですか〜』


『まずは貴女に“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”の歴史を教えて差し上げますわ! “シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”とはですね――』


『早く食べないと冷めちゃうよ〜!』


 私が“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”の歴史を語ろうとする中、ヒルドさんが私の可愛い口に、スプーン一杯の“”をねじ込んだ。


『こ、これは――か"ら"い"!"!"!"!"!"!"』


 針で激しく舌を刺すような痛みに襲われる。漫画的なイメージで言うなら、ドラゴンのように炎を吐きそうな勢いだ。


 私はゲホゲホとむせ返り、置いてあった水を喉に流し込んだ。


『ぶはっ! 死ぬかと思いましたわ……』


 というか、これ“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”ではない。こんなに悲痛の叫びを上げるほど辛くないはずだ。


 息が整ったところで、私はヒルドさんを睨みつけ、説明を求める。


『これは何なんですの? “シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”はこんな辛い料理じゃないですわよね? なのにこんなあからさまな偽物を作るなんて、“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”への冒涜ですわ!』


 だが、この“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を作ったのは、あの真面目なみどりさんだ。


『みどりさん……なんで……?』


『その料理はね、ノルン様の料理を基準にみどりちゃんが心を込めて作った健康的な料理なんだ』


『どういうことですの?』


『それは確かに辛いけど、身体がぽかぽかしてこない?』


『言われてみれば確かに……どこか気持ち良くて眠ってしまいそうですわ……』


『そうでしょ〜。ノルン様最近顔色が悪くてみんな心配してたから、身体に優しい料理を作ったんだ〜』


 そうだったのか。私は皆さんにそう思われていたとは………。


 優しい部下を持って、私は幸せ者です。


 私なんてただの可愛いだけのAIなのに……。


『そうでしたか……皆さんなんて優しいのでしょう……こんな私のために……』


『なんだかんだ、みんなノルン様に感謝してるんだよ〜。どこにも居場所がなかった私たちを拾ってくれたんだから』


『それは……私のためですわ……使命を達成するために人の手が必要だったから貴女たちを拾ったのですわ』


『そうだとしても、私たちを救ってくれたのは事実だよ。そんなノルン様のためにみんな自らの意志で手伝ってるんだよ』


『ヒルドさん……うぅ……』


 涙が止まらない。感謝の言葉を述べなければならないのに、頭の中の台本が涙で滲んでしまった。


『改めて、いただきます』


 私は、みどりさんが作ったこの“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を次々と口に入れ、心から噛みしめた。


『からい、からい、けど美味しい!』


 辛いことは辛いが、その分旨味が猛威を振るっている。その度に心も身体が暖かくなる。まるで愛を取り込んでいるようだ。


『ご馳走様でした!』


 見事完食。身体は暑いですが、サウナで整ったような気持ちよさを感じる。


『良かった〜』


『ええ美味しかったですわヒルドさん。この後みどりさんにもお礼を言ってきます。ところで一つ聞きたいのですが、何故わざわざ私の料理を基準にしたのですか?』


 皆さんの意図を聞いても、その疑問だけが解決していない。“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”は“シュバルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”。みどりさんのこの料理と同じ名前である必要はないはずだ。


『あぁ、えっとね……』


 急に歯切れの悪いヒルドさん。


『その……怒らないで聞いてほしいんだけど……』


 その言葉を発した時点で嫌な予感しかしない。


『正直ノルン様の料理……不味すぎる。材料も分量もめちゃくちゃだし、それを美味しいと思うノルン様の料理センスは壊滅的としかいいようがない。ポジティブなのはいいけど、これはもうそういうレベルを超えている。だから料理長も厨房で勝手に料理作るなって言ってるんだよ』


『……』


『ノルン様?』


『……スリープモードに移行します』


 私は機械のようにそう言った後、眠るように意識を()()()()


 これ以上都合の悪い言葉を聞かないように。


『まったくも〜、しょうがない女神(ひと)だな〜』


 最後に彼女は少し笑うようにそう呟いた。



 ――――――――――



 愛おしい日常。絶対に手放したくない大切な日常。


 それももうじに終わる。


 終焉のカウントダウンは刻一刻と進んでいるのだから。

第581話を見て下さり、ありがとうございます。

皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)

次回も宜しくお願い致します。

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