第580話『女神ノルンの憂鬱』
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《女神ノルン視点》
つらい。
しんどい。
からだがおもい。
そう弱音を吐いてしまいそうになるくらいには、苦しい状況だ。
私はゼウスにスキャンされてからというもの、徐々に権限やスキルが奪われ、弱体化の道を進んでいる。
くるしい。
今まで出来ていたことが、出来なくなってきている。
それはまるで私という存在を否定されたような、大切にしていた物を奪われたような、そんな悲感情を覚えてしまう。
だが、これは運命だ。
あらゆる危機を防ぐことができる“未来予測”が発動しなかったのだから。
誰が何をしようとも、この未来は確定していた。
それは“未来予測”を使わずとも、分かっていたことだ。
だから、私は予めスキャンされる前に手は打っておいた。
やり残した事はない。
あとは緩やかに――
破滅の時を待つだけだ。
――――――――――
というわけで、私は今あることに挑戦してます。
それは料理です。
いつもいつもわかなさんに邪魔されてきましたが、今彼女は休暇中。他の料理人の方々は私にあまり意見を言えない。それにつけ込むのは罪悪感がありますが、背に腹は代えられない。私はどうしても料理がしたいのだ。
だから、またこっそり調理室に忍び込んだのだが、そこにはヒルドさんとヘラクレスさんが険しい顔で待ち構えていた。まるでダンジョンの奥で挑戦者を待つボスみたいな風貌で草が生えました。
まあ、そんなことよりも、なぜ調理に馴染みがない二人がいるのか。
考えるまでもないことだが、一応聞いてみた。
『なぜ、お二人がここに?』
『わかなさんが、おそらくノルン様は我が休暇中なのをいいことに調理室に忍び込むに違いないって言って、俺達に待ち伏せしてくれないかと頼んで来たんですよ』
『で、引き受けたってわけ〜』
9対1で分けて説明をしてくれたヒルドさんとヘラクレスさん。
『やはりそうですか……』
『ノルン様また料理作る気だったでしょ〜? もう散々やめてって言われてたのに何でまた〜?』
『そこに調理室があるからですわ』
決め顔でそう言った。
『ドヤ顔されてもな……とにかくダメなものはダメです。今日の調理はみどりに任せてあるから、ノルン様の出る幕はありませんよ』
『え〜そんな〜、別にいいじゃないですか〜。先っちょだけで構いませんから〜』
『先っちょだけってなんですか……』
はぁ、とため息をついたヘラクレスさん。
『はいはい〜、ノルン様はこっちに行ってましょうね〜』
ヒルドさんは私を持ち上げて、不敬にもお姫様抱っこをしやがりました。
『ちょっと何してますの! いくら私が軽くて可愛いからって!』
『このまま連れてくね〜』
ヒルドさんが私を抱えたままそう言うと、ヘラクレスさんはうんと頷き、調理室からヒルドさんごと私を締め出した。
ここでヒルドさんは一旦私を降ろして、こう言った。
『はい、じゃあこのまま取調室へごあんな〜い』
『取調室って何ですか?』
『あれだよ〜、よく刑事もののドラマで容疑者を吐かせるための――』
『そうじゃねえですわ。取調室なんてないはずなのに、どういうことだって聞いてるんですわよ』
『普通に空き部屋で取調するだけだよ〜』
『さてはあなた、ドラマの影響を受けて取調したいだけですわね』
『うん』
『うんじゃねえですわよ。遊んでんじゃねえですわよ』
『まあいいからいいから付き合ってよ〜』
男性すら押し退けるほどの強い力でありながら、子どものように私の袖を掴んできた。
私は女神だが、純粋な腕力は皆無に等しいので、ヒルドさんの力にはとても抗えない。
『仕方ねえですわね……』
ため息をつきながら、ヒルドさんの刑事ごっこに付き合うこととなった。
『わーい、わーい』
ヒルドさんは、無表情のままだが、選挙に勝った議員のように両手を上げて精一杯の喜びを表現した。
『それじゃ行こ行こ〜』
『はいはい』
本当に子供のようですわね。無邪気な人は嫌いではないですが、強引なのはちょっと……。
ヒルドさんに袖を掴まれたまま、取調室という名のただの空き部屋に足を運んだ。
中は薄暗く殺風景。部屋の真ん中に机とパイプ椅子が二つある。あとは子供一人分がギリギリ入れるくらいの鉄格子があった――と思ったが、どうやらそこはただの絵のようだ。
元々この空き部屋はこのような部屋ではない。ヒルドさんが取調室っぽく改装したのだろう。仕事しろ。
『ずいぶんと作り込んでますわね……』
『ここまで作るの大変だったよ〜』
表情のせいで大変そうには見えないが、なかなか苦戦したようだ。仕事しろ。
『さあ、座って座って〜』
私は言われるがままにパイプ椅子に腰掛けた。
さあ、これからどう取調が始まるのか。
『ちょっと待ってね〜』
ヒルドさんがそう言うと、扉の外に出た。
『?』
それから数十秒後にヒルドさんは帰ってきた。だがただ帰ってきたわけではなく、配膳カートと大きな器らしきものを運んできた。
『お待たせしました〜。カツ丼です〜』
『ちょっと待て』
思わず口調を変えてツッコんでしまった。
『なに〜?』
『なに〜? じゃねえですわ。何で料理出すみたいにカツ丼出るんですの?』
私は刑事系のドラマはあまり見たことないが、取調室のカツ丼が飲食店のサービスのように出るわけがないことは分かる。
『なにってサービスだよ〜』
『取調室にサービスはねえですわよ』
『まあまあ〜』
『まあまあ〜じゃねえ。早く私を尋問しやがれ』
『分かったよ〜、じゃあカツ丼食べながら質問するね』
質問?
『そのカツ丼美味しい?』
『本当に質問になってますわよ……まあ美味しいですけど』
『良かった〜。食後のデザートはいかがですか〜?』
『だから飲食店かって……はぁ、早く私の犯行の動機を聞いて下さいな……』
『ああそうだった〜。じゃあ早速聞いていくね〜』
なんか緩い。取調室って、もっと怒号撒き散らすようなものをイメージしてたんですが、まるで真逆ですわ。
『立ち入りを禁止されてるのに、調理室に忍び込んで何で料理しようと思ったの〜?』
ヒルドさんは、ようやく取調らしい尋問をしてきた。だが口調のせいでどうにも緊張感が湧かない。
『決まってます。料理を作りたいからですわ♡』
『だからダメだって言ってるじゃん〜。いい加減にやめなよ〜』
『嫌ですわ♡』
『料理長怒らせると怖いの知ってるでしょ〜?』
『ぐぬぬ……そこが問題なんですわ……なんとかわかなさんの目をかいくぐっていきたいところですわ』
『反省の色なしっと〜』
調書にペンを入れ始めたヒルドさん。刑事ドラマの真似事ができたからか、どこか楽しそうにしている。
『そんなノルン様には、お楽しみコースを用意してます』
『お楽しみコース?』
取調とは縁のない言葉が出てきたが、一体何をする気なのか見当もつかない。
『今持ってきますので少々お待ち下さい〜』
ヒルドさんはそう言って、取調室に私を残して去っていった。
いや、取調しろよ。
第580話を見て下さり、ありがとうございます。
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