第576話『復讐と傷跡』
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《魔王の悔恨》
この時代に来る前、魔王城におった儂らはゼウス、プロメテウス、それから何故か後方に待機しているヘラと対面していた。
数では圧倒的に儂らの方が上だったが、守護神との戦力差が顕著に現れていた。
歯が立たなかった。
力、頭脳、戦闘センスのどれに置いても、勝っている部分が何一つ無かった。
ゼウスに関しては、どのような攻撃も全て無効化され、ただ蹂躙されるのを待つしかないという絶望だけがそこにあった。
あとから加わったアクタ団長やルシウス・ペンドラゴンですら、神相手に大苦戦を強いられていた。
何故かアクタ団長とアミさんだけはゼウスに攻撃を与えられたが、それでも大打撃にはならなかった。
続々と他の仲間達が斃れていく中、儂はゼウスに命を奪われた。
あっという間だった。
ただほんの小さな光が雷に変わって、儂の心臓を貫いたのだ。
痛みはない。気づいたら精神世界をマーリンに乗っ取られて、今この様だ。
生き残ってる仲間達は大丈夫だろうか?
アクタ団長とルシウスがなんとか抑えている状況だが、正直時間の問題だろう。
何か決定的な打撃を与えない限り、ゼウスとプロメテウスには勝てない。
せめて死ぬなら一矢報いてからにしたかった。
ダメだった。
儂はゼウスに傷一つすらつけられなかった。
これが神か。さすが全人類を管理しているだけはある。桁違いの力だ。
そんな神が、なぜ儂の居場所を奪うんだろう?
なぜ儂の家族が痛い思いをしなくてはならないのだろう?
ゼウスよ、儂らはあなた達に何かしたのか?
神なら何でも壊して言いというのか?
だとしたら、何故お前達が神なんだ?
儂らを蹂躙して何が楽しいのだ?
そもそもお前達の目的は何だ?
許さない。
よくも儂の家族を傷つけたな。
よくも儂の居場所を壊してくれたな。
殺してやる。
待っていろ。必ず儂は元の時代に戻って、お前を討つ。救世主を連れてな――
――――――――――
《現在》
マーリンによってこの時代に派遣された儂は、皇帝陛下であるマーブルと同じ身体を共にして生きていくこととなった。
記憶を完全解放した儂は、通っている学園で何故かオーガスト・ディーンと名乗るダスト君を見つけた。
クラスメートの前島志保と共に跡をつけるも、見つかってしまい、今に至るというわけだ。
そこで儂は再会したあおいちゃんとダスト君と会話を交えることとなったのだった。
あおいちゃんには色々と聞きたいことがあるし、儂は彼女を家族の一員として、その罪を赦すつもりだ。
悪いのは、あおいちゃんを操った犯人である秋元夏美だ。ゼウス共々貴様の事も殺してやる。
そして、あの男もだ。
――――――――――
魔王があおいちゃんと話したいともちかけてきた。もちろん俺も交えて三人で思い出話に花を咲かせ……たいところだが、暗い話も覚悟して聞かなければならないだろう。
『そっか、あおいちゃんも魔王城に来る前にやられちゃったんだね』
今はあおいちゃんがここに来る前の話をしている。当然ながら悪いことばかりだったので、本人は涙ながらに事を語るのであった。
『はい……しかも操られてしまって……ダスト様に酷いことを……うぅ……私は人類史上最低最悪の裏切り女です……』
案の定、あおいちゃんのネガティブモードが極まってしまった。
まあ、俺があおいちゃんの立場でも自分を責めるしかないだろうから、無理もない。何なら誠意ある態度であるとまで言える。
『あおいちゃんの自分を責める癖は変わってないんだね。そんなに気にしなくていいんだからね。むしろあおいちゃんがそうなっていた事に気づかなかった儂の責任だよ』
あくまで魔王の責任だと魔王は言う。
『魔王様にお気を遣わせてしまいました……私は幹部失格です! 罰としてマヨネーズ一気飲みしてきます!』
どこまでもネガティブなあおいちゃんは、本当に冷蔵庫からマヨネーズを取り、キャップを外して丸ごと口の中に流し込んだ。
『何やってるの! そんなことしたら……胸焼けするでしょ!』
そこなの? 俺はマヨネーズ苦手であまり味わったことはないから分からんけど、胸焼けの他には胃が悪くなるとか太るとか、というかそれ以前に身体にめっちゃ悪いとか色々言えることはあるだろ。
『いいんです! 私なんて胸焼けして大炎上してしまえばいいんです!』
何言ってるの? 胸焼けでは不快な発言をしたSNSのアカウントみたいに燃えないよ?
『大炎上したら鎮火するのに時間がかかるでしょ!』
こいつら電車が高速道路に乱入するくらい話脱線するやん。何の話やねんこれ。
そうか、あおいちゃんと魔王だから、ツッコまないとどんどん話がおかしな方向へ進もうとしているんだ。
今この場で二人にツッコめるのは俺しかいない。だが、俺が止めたところで、こいつらが止まるとも思えない。
暴走機関車と暴走機関車。誰にも止められない戦いが今始まろうとしている。
いや、始まるんじゃない。
『二人共、少し落ち着こうか』
そう宥めようとするも、あおいちゃんと魔王は聞く耳を持たない。それどころかさらに話をおかしな方向に持っていこうとする。
『魔王様のバカ! 何で分からないんですか! 私はクズでゴミでカスで変態女だってことを!』
『だからクズでもゴミでもカスでも無いって! 変態は少し合ってるかもだけど』
変態の件は確かに、赤髪ちゃんの身体に憑依した時にとても口にできない事までやってたもんなぁ……。
『ほら! 私は変態なんです!』
そうですね。
『赤髪ちゃんの血を引いてるもんね! さすが姉妹だよ!!!』
赤髪ちゃんもあおいちゃんに負けず劣らずの美少女狂いだもんなぁ……。
『そうです! 私とお姉様は赤い血のように運命の赤い糸で結ばれてるんです!』
ちょっと何言ってるか分からない。
『そこまで言ってないけど、本当にそう思うよ!!! 赤い血のようにって意味が分からないけど!!!』
『でもお姉様がスーパーウルトラハイパー素敵な人すぎて、私なんかじゃ釣り合わないと思ってます!!!』
『そんなことないよ! あおいちゃんも美少女だし、自信持ってもいいんだよ!!!』
『地震……? やっぱり私は不吉な女なんだ! 私なんていなければいいんだ!』
『その地震じゃない! 何でそうなるの!?』
『私が最低でクズでゴミでカスで変態女だからです!』
おや?
『だから最低でもクズでもゴミでもカスでも無いって! 変態は少し合ってるかもだけど』
さっきも同じような事を言ったような?
『あおいちゃんの自分を責める癖は変わってないんだね。そんなに気にしなくていいんだからね。むしろあおいちゃんが悩んでいた事に気づかなかった儂の責任だよ』
ループしてね?
『魔王様にお気を遣わせてしまいました……私は幹部失格です! バツとしてマヨネーズ一気飲みしてきます!』
さっきも飲んだだろ。というかまだマヨネーズ手に持ってるだろ。気づいてないんか?
『あれ、マヨネーズがない! マヨネーズ買い忘れたぁぁぁぁぁぁぁ!』
と言いながら、空のマヨネーズの容器を持っている。
『今さっき、あおいちゃんが飲んだでしょう?』
俺は堪らずツッコんだ。
『ああ、そうでした。うぅ、なんだか胸焼けしてきました……あと胃がなんかムカムカします……』
そりゃそうだ。
『ほらぁ! だから言ったでしょ! マヨネーズ飲むのはほどほどにって!』
魔王はお母さんのようにそう注意した。
『いや言ってねえし、そもそもマヨネーズ飲むな』
やれやれ、このしょうもないやり取りはいつまで続くのだろうか……。
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