第571話『弱体化』
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港に謎の怪物が現れた。
青ざめた顔をした目撃者の群れが危険を報せに国中を駆け回る。まるでこの世の終わりを告げる怪物が現れたかのような光景だ。
この騒ぎはロンドディウム王国の王にも知れ渡った。すぐに騎士部隊による討伐隊が結成された。アンドリューやダイアナには劣るが、それでも多少強いモンスターを討伐できる程の軍事力がある。
意気込む隊長を筆頭に港へ向かう一同だったが――
既に怪物の姿はなかった。
戦闘の跡もほとんど残ってないが、僅かに硝煙の臭いが鼻腔をくすぐった。
ただ怪物が居たであろう場所には黒くて丸い影が置いてあり、そこから闇の瘴気が煙のように舞い上がっている。
訳の分からない状況に騎士達は呆然とこの異様な光景を見つめている。
――ここで一体何が起こったのか。それを説明するのに、さほど時間は要さない。
まずファースト・ドライヴが光魔法で編み出した鎖で怪物を縛り、次にヒルドの銃撃でダメージを与え続けた。
以上だ。
それだけで怪物は粘土が溶けるように原型が崩れ、最終的に丸い影のようなものが地面にこびりつくようになった。
あとは女神ノルンが遠隔操作で怪物からカレンの魂を回収し、五人は船に乗ることなく速やかにヴァルハラへ直接送還された。
そして、それから討伐隊が到着したのは十分以上後のことだった。
――――――――――
《ヴァルハラ》
ロンドディウム王国から飛んできた五人は、女神ノルンの元へ足を運んだ。
『皆さん、お疲れ様です』
女神ノルンからの労いの言葉をみんなに与えたところで、早速本題に入った。
『カレンさんの魂ですが、こちらにあります』
渦巻き状の光の塊のようなものが女神ノルンの掌から常に浮かんでいる。
『それが、カレンちゃん……?』
『はい、彼女は器を失っただけで、生きてますよ』
カレンの生存を聞いた橋本ルカとルカ・ヴァルキリーはシンクロしたかのように同時に涙を流し、その場でへたり込み、『良がっだよおおおおおおおおおおおおおお』と思いを叫びに変え、お互いを抱きしめた。
保護者の三人組は泣き叫ぶ二人を覆うように暖かく包み込んだ。
『それでこのカレンさんの魂ですが、霊魂室に保管しようと思ってます』
『霊魂室?』
隣りにいたヒルドが霊魂室の説明をしてくれた。
『へぇ〜、魂を保管する所か〜。そこならカレンちゃんの魂が歪まなくて済むってこと?』
『はい、私が作った霊魂室は優秀ですからね! 私が作った霊魂室ですからね!』
フンスと鼻息しながら自分の偉業を強調する女神ノルン。
『すごいすごい!』
機嫌が良い橋本ルカとルカ・ヴァルキーは大きな拍手を送った。
女神ノルンの頬は緩み、誇らしげに手を後頭部に添えるポーズを取った。
『いや〜それほどでもねえですわ〜』
オホホホホとお嬢様のような笑い方をすると、ファースト・ドライヴは『あ、これずっと調子に乗るやつだ』と苦い表情をしながら呟いた。
『あ、でもカレンちゃんの魂を霊魂室に保管するってことは、私達もうカレンちゃんに会えないってこと?』
橋本ルカは不安げな表情で質問した。
『会えますよ。ただそれには器……つまりまた新たなドール人形を用意しなければなりません』
『じゃあドール人形があればカレンちゃんは――』
『ええ。人形に移したあとはカレンさんの意志次第ですが、意識を取り戻すことができるでしょう』
意志次第。ここが一番大きな課題なのだが、ルカはそれについて深く考えず、ただ親友の復活可能宣言に歓喜するばかりだ。
『ただ肉体の再生には時間がかかるので、しばらくお待ちいただければと思いますが、大丈夫ですか?』
本来ならば、肉体の再生にはそれほど時間を要さないため、ヒルドとファースト・ドライヴが疑問を持ち、否定しようとすると女神ノルンが『しーっ』と人差し指で口元を押さえる仕草を取った。
それを見た二人は全てを察して、何も反論することなく、黙って見守った。
『大丈夫だけど、どれくらい時間かかるの?』
『それは分かりません。その時によりますから』
女神ノルンにしては、ずいぶんと曖昧な回答を出した。
『そっか、とにかく時間がかかるんだね。寂しいけどまた会えるなら、待つよ!』
橋本ルカは女神ノルンの不自然な答えに何も怪しむことなく、そう言った。ルカ・ヴァルキリーも表情こそ不安気だったが、特に何も質問することはなかった。
それから、ルカ二人とあおいは転移魔法で帰るべき家へ送還された。
残された三人のうち、ヒルドが口を開いた。
『それでどうするの〜?』
『どうするもなにも、カレンさんを説得するしかないでしょう。魂を馴染ませても本人にその意志がなければ蘇生できませんからね』
これ以上ルカを悲しみに染めたくないと考えた女神ノルンは、ルカには内密でカレンの説得作戦を企てるのであった。
『そうなんだけど、どう説得するの〜?』
『そうですね……ちょっと考えてみます』
顎に手を乗せて、長考宣言のポーズを披露した。
『今日のところは解散ですかね?』
今すぐ結論を出せないだろうと踏んだファースト・ドライヴがそう言った。
『………………』
しかし、女神ノルンの耳には通っておらず、ひたすら頭を回している。
『ねえ、聞いてる〜?』
『………………』
ヒルドからの問いかけもスルー。
『ねえ、ねえねえねえねえねえ!』
『………………………………』
声量を上げて話しかけても、女神ノルンは反応しなかった。
『これは……相当集中してますね。ヒルドさん、私たちはこのまま黙って退室しましょう』
しかし、ヒルドはファースト・ドライヴの提案に乗らず、女神ノルンの応答を引き出す作戦に出た。
まず座ってる女神ノルンのスカートを持ち上げて、下着の色を確認した。それでも尚、女神ノルンは反応しなかった。
次にすぅぅぅと息を吸って、
『早く返事してよ! またピンクパンツ履いてるノルン様!』
ようやくヒルドの声が耳に入った女神ノルンは、途端に頬を赤くして、スカートを押さえた。
『いつパンツ見たんですか!!!』
『ノルン様が集中している間にこっそりスカートをめくって見ました!』
ヒルドはバカ正直に答えた。
『まったくもう……でもまあヒルドさんは女性だから許しますわ。ですが、今後は無断でスカートをめくるのはやめて下さい』
『無断でってことは、許可を取れば見せてくれるってこと〜?』
『言葉の揚げ足取るんじゃねえですわ! やっぱお願いされても見せませんからね!』
女神ノルンは両腕を組んで、そっぽを向いてしまった。
二人のしょうもないやり取りにファースト・ドライヴは横槍を入れた。
『あの、ノルン様。今日のところは解散でよろしいでしょうか?』
一番聞きたかったことをようやく質問できた。
『ええ! 早急にそうしてくれやがれですわ!!!』
気品も欠片もない態度でキレるように命令した。
『何か日本語おかしくない〜?』
『黙らっしゃい! 話の脈絡バグってる奴に言われたくねえですわ!!!』
女神ノルンは怒り狂う怪獣のように目を見開きながら、ヒルドに指を指した。
ここでヒルドがまた何か言おうとしたが、ファースト・ドライヴに口を塞がれた。
『すみません! すみません! 解散ってことなので、我々は失礼しますわおほほほほ!』
ファースト・ドライヴはヒルドの口を押さえながら、無理やり退室させた。女神ノルンは一人でしばらくブチギレていた。
それから冷静になった女神ノルンが作戦を考えている間、ヒルドとファースト・ドライヴはお互いに覚えていた違和感について話し合った。
それは、普段の彼女ならあり得ない。
そもそもルカにアドバイスをした時点でおかしいと思うべきだった。
ヒルドとファースト・ドライヴは気づいたのだ。
女神ノルンが弱体化していることに――
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