第569話『蠢く闇』
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《壊れた人形の想い》
――暗闇。
私の視界は全てが闇だ。
私はどうなったんだ?
身体が動かない。
感覚もない。
ただ意識だけが宙に浮かんでいるようだ。
『………………』
そうか、これは死か。
人形であるが故、死という概念がないものと思っていたが、器の損傷があまりにも激しいと魂は居られなくなる。
私は現世での役目を全うしたということなのか?
『………………』
フランとケンはどうなったのだろう?
アンドリューの部屋に残してしまったが、捕まって死刑にはされてないだろうか?
その前にあのイチゴ柄のパンツを履いた女にボコボコにされてないだろうか?
私はその女にボコされて死んでしまった。
それからの出来事を知る由もなく。
盗っ人とはいえ、子供相手だ。容赦してほしいが、相手は悪逆非道のギャングだ。
ただアンドリューはそれほど悪人には見えなかったし、あの女もケンに手をかけたとはいえ、愛する旦那を守るためだし、もしかしたら根から悪人ではないのかもしれない。
フランとケンの事情を聞けば、孤児院ごと組織で引き取ってくれる――
なんて、私のご都合主義の妄想だがな。
でも、そうならなくてもどうか無事でいてほしい。
『………………』
あとはルカちゃんだ。
私はフランとケンと話し合って決めた作戦があった。
その作戦の全貌はこうだ。
まず私とルカちゃんが対面する。
次に私がルカちゃんの前でわざと歪みを放出する。
そうなると、私はこの世界を脅かす化物になるはず。
その時、ルカちゃんが私にどう対応するのか。いくつか想定できるパターンがある。
私を倒すことにした場合。
パターン① 無傷あるいはちょっと本気を出して倒した。
パターン② 苦しい戦いだったが何とか倒した。
パターン③ ルカちゃん1人では倒せなかったが、味方の強力によって倒すことができた。
パターン④ 味方がいても倒せなかった。
もしパターン①ならば、私は何のわだかまりもなくルカちゃんの元に戻れる。
パターン②③は、オーガスト・ディーン達と相談して今後の付き合いを決める。
パターン④は、誰かの命を散らす前に自害する。
次に、私を倒さずに対話で済ませようとする場合。
パターン① 私が話の内容に納得できた場合はルカちゃんの元へ戻る
パターン② 私が話の内容に納得できなかった場合は、ルカちゃんに攻撃をしかけて、戦闘へ持ち込ませる。
パターン③ 話の内容が納得できるかできないかの判断が難しい場合は、保留。引き続き家出を決行して、またどこかのタイミングで会って再び話し合う。結論が決まるまで繰り返す。
そう考えていたのだが、私が対話できなくなったため残念ながらルカちゃんの前から去る以外の選択肢が叶うことはない。
結果的にルカちゃんを傷つけないのなら良かったが、せめて最期くらいはルカちゃんと話したかったという思いもある。
『………………』
それが本体の思いだ。
お前はどうなんだ?
私は目の前にいるであろうもう一人の私にそう問いかけた。
『ふははははは! 妙な事を問いかけるのだな! 同じ私なのだからもう分かっているのだろう?』
こいつは私の中から生まれた新たな歪みだ。私から見れば蛇のような蠢く闇に見えるが、今はこいつがこの身体の所有権を握っている。
つまり、本体は完全に乗っ取られたのだ。
『だが、あえて言おう。私は橋本ルカとルカ・ヴァルキリーを我が物する。そして、それ以外の者を皆殺しにするのだ……!』
全て手遅れだった。私が意識を失った時点でこいつは隙をついて主導権を握られた。
私にはどうすることもできない。
『私以外何も見えない貴様は観客ですらない。そこで大人しくしているがいい』
蠢く闇はそう言って、この場を後にした。
くそっ、こいつが出る前に自爆でもした方がマシだった。そうすればあのイチゴパンツ女に確かなダメージを与えて、こいつが出てくる事もなかったのだから。
これは私が、ルカちゃんに会いたいなどと願ってしまった結果だ。もし、本気でルカちゃんと遠ざけたいのなら、自爆しても良かったはずだ。
私自身に歪みがあることは分かっていたのに、私は愚かだ。ただの人形の分際で欲張りすぎた。
その結果、まずロンドディウム王国に災いが起こり、次は他の国――ルカちゃんにも迷惑をかけるだろう。
頼む女神ノルン、バグに気づいてくれ――
――もう気づいてますよ――
女神ノルンの声が聞こえた。どうやって私の心に声を届かせたのかは知らないが、助かった。
『気づいてるなら話が早い! 早く私を討伐してくれ!』
――そんなに焦らなくても……既に暴走したあなたをルカさん達が止めに入ってますよ――
『なんだと……?』
ルカちゃんが私の元に……? どうやって――いや、おそらく女神ノルンが手を貸したんだな。今こうして私に問いかけているということは、私の居場所など余裕で突き止めたのだろう。さすが女神と呼ばれているだけある。
『早く止めないと!』
――まあまあ落ち着いて下さい。別にカレンさんがどうこうしなくても、ルカさん達があなたを止めてくれます――
『でも……でも……ルカちゃんが……!』
――あなたはルカさんの何を見てきたんですか? 彼女はあなたよりも遥かに強い。それにもう一人のルカさんやあおいさん、ヒルドさんにファースト・ドライヴさんも協力してます。負けるはずがないでしょう――
『そ……それは……』
女神ノルンの力強い言葉。何でも見通せる彼女がそう言うのなら大丈夫なのだろう。
そうか、今回は味方がいっぱいいるんだな。しかもメンバーの一人一人が頼もしすぎる。
それに女神ノルンの言うように、ルカちゃんは日々強くなっている。醜い大人に苛まれてきたあの頃とは違う。
『あなたの言う通りだ……私はルカちゃんを好き過ぎるあまり、視野が狭くなっていたんだな……』
――とはいえ、カレンさんがルカさんを愛する気持ちは理解できます。だからあなたは彼女から遠ざける選択を取った。その気持ちは分かりますが、その結果、ルカさんはあなたと離れてしまい、どれだけ泣いて傷ついたと思いますか? あなたは気づかなかったかもしれませんが、ルカさんは誰よりもカレンさんの事を考えていましたよ――
『ルカちゃんが……私のことを……?』
――詳しくはこの映像を観て下さい――
目の前に映画のように大きい画面が現れると、ルカちゃんが私の手紙を見てからの行動から、私を助けるためにダイアナと戦い、勝った後の出来事までが隅々まで映し出された。
『ルカちゃん……』
もし私に涙腺があったのなら、きっと滂沱の涙が流されたことだろう。
そうか、ルカちゃんはまだ私を想っていたのだな――
『ごめんね、ルカちゃん……』
それから女神ノルンが何か喋ることもなく、私は誰もいない映画館の中で孤独に過ごした。
たった一つの光が差し込むまでは――
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