第568話『かつての自分』
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ルカの悲壮感を漂わせた背中を黙って見送ったフラン達は、凍ったダイアナを溶かす為に浴槽室まで運び、お湯の中に入れてじっくり溶かすことにした。
既に下着姿を晒していたとはいえ、最終的には生まれたままの姿を男達の視界に入れることになるだろう。その配慮として、ダイアナの事は女性のメイド達に任せることにした。
浴槽の外で待機する男性陣。少し前まで敵同士だったフラン達とアンドリューだが、今は仲間のように接している。
アンドリューが葉巻に火をつけようとしたが、フランとケンに視線を落とした後、黙って葉巻を懐にしまった。
『なあ、フラン、ケン』
『何だ?』
『何ですか?』
『お前ら、うちで暮らさないか?』
アンドリューがそう提案するのも、フランとケンの事情を聞いたからだ。
自分と同じボロボロの孤児院に住んでいて、今日を生きるための食料があるかどうか分からない毎日。あまりにも酷似している環境だが、フランとケンとは違って、自分はこの屋敷に拾われ、その瞬間から裕福な人生を送っている。だからといって決して楽だったわけではないが、フランとケンと比べれば、自分はずいぶんと恵まれている。
それを除くと、フランとケンを自分と重ねるには十分すぎる理由だろう。
かつての恩師がアンドリューにしてくれたように、彼も同じように子供を救おうとしている。
『いいのか……?』
『ああ、歓迎するぜ』
『でも、俺達この屋敷に窃盗しにきたんだぜ? そんな奴を簡単に信用していいのかよ』
一生対立してもおかしくない関係性。なのに家族同然のように扱うのは不自然だとフランは言う。
『確かにお前達は俺達の屋敷に侵入した。しかも俺だけじゃなくて、ダイアナも傷つけやがった。だがな、もし俺がお前らだったら、多分同じことしてたと思うぜ。いや、何なら人質取って屋敷爆破するくらいの事はやってたかもな』
ありもしない別の世界線の自分の未来を話しながら笑うアンドリュー。
『だとしても俺達の罪は消えない。俺達は勝手にアンタ達を外道だと決めつけて、ターゲットに選んだんだ。同情なんてされる理由はねえ』
フランは、あくまで自分達が罪だと分かってやった事だと反論する。
『確かに俺達は比較的クリーンな組織だが、それでもギャングと名乗っている以上、その存在自体が民衆を脅かしている事には変わりねえ。俺達も必要であれば暴力だって行使する。お前らが定めた通り、俺達は外道だ』
彼らの仕事には法に触れるような事も含まれている。その時点で世間的には真っ当な組織とはいえないだろう。
『では、何故王国は貴方がたに何もしないのでしょうか? いくら王城とは真反対の位置にあるとしても、さすがに存在自体は気づいているのでは?』
ここまであまり喋らなかったケンがようやく口を開いた。
『そりゃ、うちが大きな組織だから手が出せないんじゃねえか? 一応、世界一強いという称号を持ってる俺もいるしな』
王国の総力を以てしても“リベレーション”には勝てない。“リベレーション”は確かに犯罪組織だが、他の犯罪組織を潰している上に、一般の人間に手を出したことが一度たりともない。
王国はその点を考慮して、現状は放置していると推測できる。もちろん、“リベレーション”が何らかの理由で弱体化あるいは大きな隙を見せるようなら、容赦なく攻められるだろう。
『ああ、もしかしてうちが犯罪組織だから躊躇っているのか?』
『いや、そういうわけじゃない。というか俺達既に窃盗犯だろ』
『ああ、そうだな。じゃあ何故だ?』
『さっき言った通りだ。俺達がアンタ達にしたことがあまりにも大きい』
『アンドリューさんが良くても他の人達が許さないと思うんです。誘いは嬉しいのですが、彼らに合わせる顔はないと思うんです。だから遠慮させて下さい』
ケンが自分達の思いを話すと、頭を下げて断った。
『うーん、そうか』
『ああ、だから俺達を歓迎しようとするな』
『お前らはずいぶんと真面目なんだな。ま、嫌いじゃねえぜ。でも俺はどうしてもお前らを放っておけねえ』
なんとしてもフランとケンを“リベレーション”に引き入れたい。もう、あの孤児院であんな不便な思いをさせたくない、その気持ちが今のアンドリューを突き動かしている。
『なら提案がある。うちで働かないか?』
家族としてただ迎えるのではなく、従業員として働かせる方へとシフトした。
『は? 働く……?』
『俺達を雇うってことですか?』
『そうだ。そう言った』
『おいおい、さっきの話聞いてなかったのか? 簡単に信用するなと言ったはずだぞ』
従業員と経営者は信頼で繋がっている。盗人であるフラン達を雇うなど本来ではありえない判断だ。
『信用云々の話じゃない。脅すようで悪いが、お前達が侵入したせいで俺とダイアナは怪我を負い、俺の書斎の窓ガラスも破れちまった。だからその埋め合わせをしてもらう。もちろん報酬は渡すが、慰謝料を払い終わるまである程度は天引きさせてもらう。これならどうだ?』
ただ迎えるわけではなく、あくまで罪を償うために筋を通せと大義名分を用意した。
フラン達もこう言われてしまえば、逃げるわけにはいかず、大人しく働くしかない。
二人とも、納得したのか何も反論しなくなった。だが、少しバツが悪そうだ。
『悪いな、卑怯だよな。でもどうしてもお前達にはここに居てもらいたいんだ』
自分の想いを貫き通したアンドリューは彼らに頭を下げた。組織のボスが安易にやっていい行為とは思えないが、それほどまでにアンドリューからの想いは強い。
頭を下げる意味を知る二人は、アンドリューのまさかの行為に驚愕し、困惑していた。
どうしてそこまでして自分達を引き入れたいのか。その理由は分かっているが、まさかこれほどとは思わず、彼らの決心が溶け始めた。
『…………………………分かった』
フランがそう言うと、アンドリューは目を見開いて、頭を上げた。
『本当か!』
『ああ』
フランはすっかり折れたということだ。
アンドリューはケンにも視線を送り、フラン同様に受け入れたようだ。
『おお! フラン、ケン! これからよろしくな!』
アンドリューは笑顔でフランとケンを抱き寄せた。実質、訳ありの社員と社長という立場ではあるが、それでもアンドリューは今後とも家族のように彼らに接するだろう。
こうして、リベレーションに新たな仲間が加わった。フランとケンの孤児院だが、未だそこに残っている子供達も残らずリベレーションで世話することになった。もちろん彼らには犯罪には関わらせないつもりではいるようだ。
しかし、フランとケンに関しては、もしかしたら戦場に送られる未来があるかもしれないが。
『あの、ところでダイアナさんは俺達を雇うことについて何か思う所はありますかね?』
『ああ〜、まあ無いとは言わんが、俺が何とか説得してみせる。安心しろ』
『分かりました。宜しくお願いします!』
まだ少し先の話にはなるが、ダイアナの復活後、事情を話したアンドリューは、ちょっとだけぶん殴られたのであった。痛そう。
――あと1つ、フランとケンにはまだ悩み事が残っている。船で出会ってから今まで自分達と行動を共にしてきた。人形の事だ。
『カレン……』
人形は壊れたまま仲間に引き渡した。それから仲間と会話したわけでもなく、黙ってその場を後にしてしまった故に連絡先を知らない。
つまり、その後人形がどうなったか分からないのだ。
『………………』
今生の別れ。何もお礼も言えず自分達の元から去ってしまった。それだけが彼らの唯一の悔いだ。
『カレン……ありがとな。俺達がここまで来れたのはお前のおかげだ』
そこにはいない恩人に届くはずもない礼を呟くフラン。
『さよならは言わねえ。また会おう』
一時の別れを済ませたフラン。
もし3人また会えたのなら、今度こそ離れることはないだろう。人形とは短い付き合いではあるが、フランとケンは不思議とそんな気がしてるようだ。
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