第564話『■■■、放浪の旅?』
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《壊れた人形の想い》
私は何故生まれてきてしまったんだろう。
私はただ世界を静観するだけの存在だった。
私はただ主人の遊び道具でしかない。
それなのに奇跡的に意志が生まれ、動けるようになってしまった。
私は世界の理に歯向かってしまったのだ。
ならばバグでしかない。
だけど、私の中のこの感情もバグなのか?
私は私であるだけで罪なのか。
一人の女の子に恋をしてはいけないのか。
そんなの辛すぎる。
ならば、いっそ消えた方がいい。
苦しいのは嫌なんだ。
もう、消えてしまいたい。
――――――――――
ダイアナの手刀がカレンの首元を貫くまであと1秒足らず。反撃どころか防御も回避もできないこの状況では命を諦めるには十分だ。
抵抗してこない人形は、もはや収穫される果物や野菜同然だ。
手刀が人形の首元を貫くまであと0.5秒。爪の先が布部分に触れた。
――ちょうどそのタイミングで、フランとケンに介抱されるアンドリューが現れた。その光景だけ見れば和解したと受け取れるだろう。
アンドリュー達は何やら声を上げて、ダイアナを止めようとしているが、彼女の耳に入る前に人形の首元は貫かれるだろう。
遅かった。間に合わなかった。散らさなくていい命を散らせてしまった。
誰もがそう思った。このまま人形はダイアナによって処刑されると。――ただ一人を除いて。
――その少女は勇者の剣を持っていた。
その少女は必死に声を上げながら、ダイアナの手刀に向けて剣を槍のように投げた。
『カレンちゃああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!』
真っ直ぐに投げられた勇者の剣は空気を裂くように宙を駆ける。そして見事にダイアナの手刀に命中する。
『ぐっ……!』
手を貫かれたダイアナは人形から手を離し、刺さった勇者の剣を抜こうとする。
『カレンちゃん!!!!!!!!』
少女は人形の元へ走った。大切な家族をもう二度と離れないように。
少女は綿むき出しの人形を抱きかかえた。むき出しの綿を血と例えるなら、ずいぶんと凄惨な状態だが、痛みという概念がない人形だ。裁縫さえまともに行えれば修復も難しくはない。
『カレンちゃん…………!』
『……』
人形から返事がない。
完全に魂と人形が分離したわけでもないが、ピクリとも動く気配がない。
『ねえ、カレンちゃん……返事してよ……!』
涙を流しながら、人形に返事を求めるルカ。しかし、壊れた人形が口を開くことはなかった。
ヒビの入ったプラスティックの眼に映るルカは泣いているというのに、一番大切な人がそこにいるのに。
『……手紙見たよ。カレンちゃんはいつも独りでいることが多いから、もしかして独りが好きなんだとおもってずっと声をかけなかったんだよ。だから、どこかで機会を作ってお話できたらいいねって思ってんだよ。それなのに……それなのに……! 勝手にどこかに行って、独りで抱え込んで……私を置いてかないでよ! カレンちゃんの悩みを背負いたかったし、私まだカレンちゃんに話したいことも相談したいことも沢山あるんだよ! だから……目を覚ましてよ!!!』
秘めた想いを言葉にするルカ。その想いは虚しく人形には届かなかった。相変わらず動きもしない。
『ルカちゃん!』
勇者の剣は既に黄昏のケルベロスに変身しており、ダイアナから離れていた。
『痛いじゃないの……!』
血まみれの左手を放置したまま、フラフラとルカに近づいている。
手負いだが、殺意はまだ溢れている。しかも先程よりも理性が保てず、この世の全てを破壊するような雰囲気を醸し出している。
『やめろダイアナ!!!』
アンドリューが彼女を止めに声をかけるも、聞く耳を持たず、足が止まらない。
『くそっ……! このままじゃ……!』
人を殺めてしまう。それを危惧したアンドリューは何としても止めようと、フランとケンの介抱を抜けて、彼女に近づこうとしている。
『ダイアナ……待て……待てって……聞いてくれよ……俺こいつらと和解することにしたんだ……だからもう戦わなくていいんだ……!』
いくら言ってもダイアナの戦意は削がれない。もはやアレは人ではない。人を殺す為に生きてきただけの破壊兵器だ。
『殺す……殺す……許さない……アンドリューを傷つける者、全部殺す!』
ダイアナはルカに向かって大きく拳を振りかざす。
『ルカちゃん!』
黄昏のケルベロスの声掛けでルカはハッと顔を上げて、すぐに戦闘態勢に入った。
『ケルちゃん!』
ルカは黄昏のケルベロスの身体に人形を乗せた。
『まずはカレンちゃんを安全な所に!』
『分かったイヌ!』
黄昏のケルベロスは指示通りに動いた。
ルカは魔法のように見せた精霊の力で水を呼び起こし、ダイアナに水弾を連射した。
『水魔法なんて私には効かないわよ!』
そう豪語するダイアナだが、手刀で弾き返せずにそのまま攻撃を受けて、尻もちをついてしまった。
『うっ……なにこれ……水魔法じゃないの……?』
水魔法に耐性のあるはずのダイアナは、何故か水魔法が効いてしまった事に混乱している。
ダイアナが隙を生んでいる内に、黄昏のケルベロスが戻ってきた。
『カレンちゃん、彼らに預けてきたよ!』
『彼らって、あの人たち?』
先程からこちらを見ている三人組。ルカはまだ彼らの素性を知らない為、大切な家族を預けるほど信頼に値する人物なのか分からない。
『そうだよ』
『本当に大丈夫なの?』
『剣を持ってみれば分かるよ』
そこで、黄昏のケルベロスは剣に戻り、ルカの手元に収めると、記憶が共有され、彼らの事情をある程度理解した。
『なるほどね。そういうことだったんだ』
ルカは人形の方に目を向けた。今はケンによって看病されている。
『うん、大丈夫だそうだね』
ルカは改めて剣を持ち、ダイアナに向けた。
混乱していたダイアナだが、今はもう受け入れて、ずぶ濡れのまま指をボキボキと鳴らす。
『覚悟はできてるわね?』
『いつでも出来てるよ。あなたこそ覚悟してね。私の家族を傷つけた罪は重いよ』
『お嬢ちゃん、それはこっちのセリフだわ』
互いに睨み合い、二人は激突する。
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