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第49話『緑色の友情』

お待たせしました。

第49話の執筆が完了しました。


宜しくお願い致します。


※2022/07/15改稿しました。

 それから俺達先行組は迷いの森を抜け、ベンリ街の道へつながる緑の平地から、別方向の道の先の荒野を走っている。


 ベンリ街以外のルートを行くのは初めてなので、かなり新鮮味を感じる。


 この荒野はとにかく広い。どんなに目を細めて景色を見渡しても、大きな岩場やひび割れた大地くらいしか目に映らない。


 モンスターが蔓延る世界なので、当然モンスターも現れる。迷いの森に現れたモンスターよりも、やや強いモンスターが生息している。


 中途半端の強さを持つ初心者冒険者が舐めてかかって、命を落としやすい場所でもあるようだ。たまに骸骨がポツンと置いてあるのはそういうことか。


 その初心者冒険者よりもはるかに弱い俺なんかが1人で生き残れるような場所ではないことは明白。さっさと荒野を抜けたいところだが、この荒野にはなぜか不思議な力が働き、簡単には抜けれないようになってる。


 さらに夜になると、当たり前だが周りに一切の明かりが無いため、完全な暗闇になる。そんな中で移動するのは危険なので、必ず道の途中でキャンプをすることが必須となっている。


『うぅ……ぎもち悪いですぅぅ……酔いましたぁ……』


 みどりちゃんは、ク・ルーマの揺れに耐えられずダウンしてしまった。俺もどちらかと言うと酔いやすい方なので気持ちは分かる。うっぷ……。


『みどりちゃん、それにお兄ちゃんも大丈夫?』


 俺の心を読んだブロンズちゃんには、俺が実はク・ルーマに酔っていたことはお見通しだったか。


『気持ち悪い……』


『あー、私も疲れちゃったし、途中で休憩しようか』


『そうね、そうしましょ』


 アミさんは、苦しそうな俺とみどりちゃんに気を遣って休憩することを提案してくれた。


 その気遣い本当にありがたい。ブロンズちゃんも気遣ってくれたが、アミさんもすごい気遣い上手だ。どこかの偉大なる魔王様(笑)とは大違いだ。


『うぅ……助かりますぅ……』


 アミさんは道中の大きな岩石の側に、ク・ルーマを寄せた。


『よし、じゃあここで休憩しよう』


『はーい』


 ク・ルーマを止めると、みどりちゃんは途端に外に出て、心地よい風に当たり、次に地面に寝転んだ。


 猪の姿になっているとはいえ、自称美少女が何の躊躇いもなく寝転ぶなんて……さては、普段からよく寝転んでるな?


『ぐぅ……ぐぅ……』


『もう寝た!?』


 みどりちゃんは寝転んでから、その間わずか2秒程で入眠していた。よほど疲れていたんだろうか。


『空気が美味しいわね、良い天気だし……ここでお昼寝もできそうね』


 ブロンズちゃんはここの場所が気に入ったのか、大きな岩石に寄りかかり、昼寝する準備に入っている。


 今にも瞼を閉じそうなブロンズちゃんにつられて俺も眠気に誘われた。


『俺もちょっと昼寝しようかな』


 俺もブロンズちゃんと同様に岩石に寄りかかった。するとブロンズちゃんが、ニヤニヤしながら俺との距離を詰めてきた。


『ブ、ブロンズちゃん?』


『もっと私の傍に寄ってきてもいいのよ、私を抱きしめたいでしょ?』


 ブロンズちゃんは何の恥ずかしげもなく、俺の腕に絡みつき猫のようにすり寄ってきた。その際に女の子特有の良い匂いが、俺の鼻腔をくすぐった。


『ふふ、お兄ちゃんすごくドキドキしてるわね。分かりやすいわ。本当に女の子の耐性がないのね、それともへたれなのかしら?』


『否定はできない……』


 それにちょっとだけ幼いとはいえ、ブロンズちゃん程の美少女がこんなに距離を詰めてきたら、そりゃ誰だってドキドキするに決まってるだろ。俺の鋼の理性もすぐに崩壊するやもしれん。


『褒めてくれてありがとね、でも、ちょっと恥ずかしいわ……』


 さすがのブロンズちゃんも恥ずかしくなってきたのか、可愛らしく頬を染めた。


 そんなブロンズちゃんに、俺の心はまたしても貫かれた。もはや妹のような女の子として彼女を見ることはできない。俺はブロンズちゃんを完全に1人の女性として見てしまっている。


『ブロンズちゃん……』


『お兄ちゃん……』


 俺とブロンズちゃんは、まるで恋人同士のように見つめ合っている。心臓の鼓動もうるさくなってきた。


 このまま顔を近づけたらキスしてしまいそうな甘い雰囲気。――そんな時に空気を読まない某猪が呑気に邪魔をしてきた。


『あれぇ? 2人共どうしたんですかぁ? 見つめ合ったりしてぇ』


『み、みどりちゃん!?』


 さっきまで眠っていたはずだが、もう起きたのか。


『みどりちゃん、起きるの早くない?』


『はい、なんか早く起きちゃって』


 そんなレベルじゃない気がするが……。


 しかし、まだ寝起きで若干眠そうなみどりちゃん。俺とブロンズちゃんが見つめ合っているのは認識しているものの、甘い雰囲気になっていることまでは察せていないようだ。


 みどりちゃんに悪気はないとはいえ、これには俺もブロンズちゃんも、怒りを顕にした。


『ちょっとぉ、お2人とも何て顔してるんですかぁ、怖いですよぉ』


 お前の空気の読めなささの方が怖いわ。


『いやなんかな、みどりちゃんがぼっちの理由が分かったような気がしてな』


『えっ! 分かったんですか!』


 バカ猪女は、予想以上の食い付きで俺に迫ってきた。


 その際にみどりちゃんの牙が俺の皮膚にチクチク当たってる。牙のサイズは小さいけどそれでも痛い。みどりちゃん、自分の牙と相手との距離感分かってなさすぎる。自分が猪だってこと完全に忘れてるだろ。


『あの、とりあえず牙が痛いから、離れて』


『あ、ごめんなさい……』


 みどりちゃんは牙が俺に当たらないように、ちょっと後ろに下がった。それから息を呑んで、質問をしてきた。


『あの、なぜ私がぼっちだと分かったのでしょう?』


『話そうと思ったけど、まあどうでもいいか』


『どうでも良くないですぅぅぅ!』


 どうでもいい。マジで。


『私……もうぼっちだってディスされるの嫌なんですうううううう!』


 みどりちゃんはそんなに嫌な思い出があるのか、心が耐えられなくなって号泣した。


 サイズは小さいままなので、ドスンドスンではなく、ちょこんちょこんと、音すら聞こえないレベルの地団駄をしている。なんか可愛いな。


『同感よ、お兄ちゃん』


 ブロンズちゃんも、小さいみどりちゃんに可愛い小さいペットを見るような目を向けている。


『何がです!? 何か2人だけで通じ合ってませんか!? ずるいですぅぅ、私も仲間に入れて欲しいのですぅぅぅ!』


 みどりちゃんをからかってる俺がいうのも何だが、この世界来る前は俺もぼっちだったし、学校でもよく『や~い、ぼっち!』ってバカにされた事もよくあったから、みどりちゃんの気持ちは痛いほど分かる。


『お願いじまずぅぅぅぅぅ! 友達料払いまずがらぁぁぁぁぁ!』


 みどりちゃんは、ハブられるのが嫌すぎてとうとうお金をかけてまで友達になりたいと俺に突進してでも懇願してきた。


『痛い痛いやめろ、牙がまた当たってる!』


 またしても、みどりちゃんの牙が俺の皮膚に突き刺さった。縫い針が間違えて指に刺さった時くらい痛い。じゃあ大したことないじゃんと思うかもしれないが、それが一瞬ならまだしも、みどりちゃんの牙は敵を攻撃するためのものだから、痛みがなかなか引かないのだ。


『もう、友達の数でマウント取られるの嫌なんですぅぅぅぅぅ!』


『分かった分かった! 俺が友達になるから、後ろに下がれ! 牙が痛いんだよ!』


『え……私と、友達に……?』


 俺が友達になると言ったら、みどりちゃんは途端に泣き止んだ。


『そうだ』


『本当に友達になってくれるんですか? ドッキリとか罰ゲームとかじゃないですか?』


『ああ、本当だ、嘘じゃない』


 俺は本心からそう言った。みどりちゃんは確かに空気嫁なくて腹立つこともあるけど、悪い奴では無さそうだからな。それに共感できる所もあるし。

 

 そんな俺の思いが通じたのか、みどりちゃんの目から一筋の涙が流れた。


『お、おい、ど、どうしたんだ?』


『はっ!』


 涙を流している事に気づいたみどりちゃんは、前足で器用に涙を拭った。


『す、すみません。友達になってくれるなんて言ってくれた人、あなたが初めてで……』


『まさか、そんなに泣くとは思わなかった……ていうか、みどりちゃんから言い出した事だろうに……』


 和やかな雰囲気になると思ったら、しんみりした空気が漂ってしまった。俺の脳内シミュレーションでは俺が友達になろう! と言ってからの、みどりちゃんの『ありがとうございますぅぅ!』の感謝の言葉からの、ブロンズちゃんからの『お兄ちゃん優しいのね……見直したわ』と笑顔を向けてくれるという、最強の2コンボが発生するはずだったのに……。


『お兄ちゃん、なんて浅ましい考えなの……無理、一生悔い改めて』


 またしても俺の心を読んだブロンズちゃんに見下すような目を向けられた。


『ご、ごめんなさい』 


『――まあでも分かったわ。そういうことなら私もみどりちゃんの友達になるわ』


『ブロンズさんもですか! お2人共! ありがとうございますぅぅ!』


 みどりちゃんは学習能力が皆無なのか、俺にまた突進しようとしていた。


『だから、その牙痛いんじゃああああああ!』


 俺とブロンズちゃん、そして新たな友達のみどりちゃんと、しばらくここでじゃれあった。



 ――その一方、ク・ルーマの中でそんな3人を見守っているアミさんはなぜか涙を流していた。それは感動ではなく、悲しみだ。彼女の負の感情から溢れ出たものだ。


『……ねえ、ダストくん……いいかげん私のこと()()()()()()……』


 ――アミさんがなぜ泣いているのか……それ自体を知るのも、その理由(わけ)を知るのも、まだ先の話。


第49話を見て下さり、ありがとうございます。

次回は、13日か14日に投稿予定です。


宜しくお願い致します。

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