第555話『カレン、放浪の旅①』
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《街の中》
一つの影が地中を泳ぐように夜の街を駆ける。
既に日は跨いでいる故に出歩いている人間は極僅かだ。そんな中で影が蛇のように動いてもほとんど気づかれないだろう。
『……』
――街の外に出た。そこは雄大な自然だ。モンスターも存在するが、影であれば何者にも目に止まらず、仮に見つかっても夜の闇の中に溶け込んで逃げ出すことも可能だ。
『……』
闇に覆われた森を駆け抜ける。
緊急時以外ほとんどルカの影の中に籠もっていた人形は、まるでかごの外に解き放たれた鳥のように自由だ。
しかし、目的もない今の彼女には自由という広大すぎる海は渡っても渡りきれない。
自由なはずなのに実は迷宮に迷い込んだような矛盾を感じつつ、前へ進む。
森を抜けた次は隣の街だ。
ルカが住んでる街と大差なく、ただ住民と地形が異なるだけのごく普通の街だ。
そろそろ日が昇る時間だ。絶景ではあるが、それは同時に労働者に労働を告げる残酷な光景でもある。
それに比較すると、カレンは自由だ。
人形である故に生きるための栄養を必要としない。人形が五体満足ではなくなるか、魂が滅ばない限り、無限に生けていける。
『…………』
しかし、一つの道を離脱した彼女の前にいざ無数の道が広がると、動けない。
彼女にはルカを守る以外にやりたいことがない。ルカの幸せが自分の幸せ。
既にルカは幸福だ。自分の役割は果たした。今はもはや淀みを生み出すだけの怪物。
そんな怪物にできることは、幸せなルカの元からできる限り離れることだ。
『デキルダケ遠クニ……』
ルカの所在地から一番遠い所を目指したいが、その場所がルカもお馴染みのヴァルハラだ。
知り合いが多すぎる場所に行っても強制送還されるだけだ。特に何でもありのチート女神ノルンがいるのなら、どんなに影として動いてもすぐに捕まってしまうだろう。
『イヤ、アノ女神ハ、タダノイザコザニハ、ナルベク関ワラナイハズダ。マアデモ、ルカチャンモヴァルハラニ行ク機会ハイクラデモアル。ドノ道見ツカルノモ時間ノ問題カ』
なので、最終的な目的地はヴァルハラより一歩手前くらいの国あるいはその周辺地域となった。
『ヴァルハラ程デハナイガ、カナリノ長旅ニナリソウダナ』
カレンは少し愚痴を言いつつ、その場所へ向かった。
長く続く大地を駆け抜け抜けると、雄大な海が見えた。影であってもこの先を渡ることはできない。
『モウ昼カ』
今頃、ルカ達は学校へ向かい、いつもの日常を過ごしているはずだ。自分の存在など気にもせずに。
『……行コウ』
海を渡る船に忍び込み、出発の時を待つ。
カレンが人間ならば乗船料を払わなければならないが、怪物は影に潜む人形でしかないので払う必要はない。
『本当ハ、オ金ヲ払ッテ、ルカチャント旅行ニ行キタカッタナ。マアソレデモ私ハ人扱イサレナイダロウカラ結局私ノ分ハ払ワナイカモシレナイガナ』
そんなことを思ってクスッと笑うカレン。
『ダガ、ソンナ時ハモウ来ナイ』
カレンは頭の中のもしもの世界をくしゃくしゃにして、新たに真っ白なキャンパスを置いた。それは未来を描く為の道具だ。そこに何かを描かなければ永遠に彷徨ったままだ。
『コノ先ニ何ガ待ッテイルノカ』
そう呟く頃、汽笛が高らかに響いた。
『ソロソロ出発カ』
見送られる者達が船の上から、それぞれ見送る者達に向かって手を振っている。
無論だが、カレンの知り合いはそこにいない。故に手を振る動作も必要ない。
カレンは船の中に入って、目的地の到着まで待つ。
目的地の国の名は“ロンドディウム王国”。かつてダスト達魔王軍が平行世界にて赴いた王国であり、ルシウス・ペンドラゴンが正義に狂わなかった世界線の国名である。
『聞イタ事ガアル国名ダト思ッタラ、ルシウストカ言ウ男ノ国カ。ルカチャンヤ私ハ行ク機会ガナカッタガ、オーガスト・ディーン曰クズイブン栄エテル国ラシイナ』
平行世界のではあるが、カレンが持っている情報だけならかなり印象の良い国だ。怪物の心は安心感を覚えた。
『コノ世界デハドンナ国ナノダロウナ。楽シミダ』
カレンは誰にも気づかれずに船内を楽しそうに駆け回った。
『ン? ナンダ?』
ちょっと近くから喧騒がカレンの耳に入った。
『様子ヲ見二行クカ』
泳ぐようにその場所へと向かった。
すると、二人の少年が強面の男に殴られている場面に遭遇した。
人通りが少ないからか、ギャラリーはいない。だから男も気兼ねなく少年を殴っているようだ。
『このガキ共! 俺の財布をパクリやがって!』
男が財布を持っている。どうやら少年達が男の財布を盗んだようだ。
『くそっ……! もうちょっとだったのに……! その金でみんなに毎日飯を食わせてやれるのに!』
一人の少年は涙を流しながらそう言った。
どうやら財布を盗んだのには深い訳があったようだ。
『なに訳の分からねえ事言ってんだ!』
男は少年の腹に蹴りを入れた。
『ぐはっ……ごほっごほっ!』
『フラン!』
蹴られた少年に、もう一人の少年が駆け寄る。すると、そのもう一人の少年も程なくして同様に蹴りを入れられた。
『がはっ……!』
一人は倒れ、起き上がれずにそのまま這いつくばっている。
『てめえらのせいで俺はむしゃくしゃしてるんだ』
男は少年の髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。
『警察に突き出されたくなけりゃ、しばらく俺のサンドバッグになってもらうぞ』
男は被害者のわりに嬉しそうにそう言った。
財布を盗まれた側とはいえ明らかに過剰な行為だ。もはや男が加害者と言ってもいいだろう。
『仕方アルマイ』
カレンは影の中から男に軽い光魔法で少年を掴む手を弾く。
『おおっ!?』
『モウ一発ダ』
2発目で軽傷になる程度に男を吹き飛ばした。
『ぐおおおおおっ!!!』
7メートル程離れたところで、
『今ダ!』
カレンは男がこちらに来ない内に、少年二人を影の中に匿った。
『くそっ……あいつら……俯いたフリして魔法を放ちやがって……ってあれ……?』
男が戦闘復帰する頃には、少年二人は既に消失していた。
『どこ行きやがった!』
男はこの後くたくたになるまで船中を走り回った。
『一生走リ回ッテイロ』
そう吐き捨て、影の中に戻った。
意識朦朧の少年と意識消失してる少年を影の中で浮かせている。というか重力という概念がないので、このまま浮いてもらうしかない。だが、それでも睡眠はできるので、そのまま眠ってもらった。
『手当クライシテヤロウ』
カレンは医務室まで移動し、こっそりと医療道具を拝借し、二人に応急処置を施した。
『トリアエズコレデイイダロウ……。ツイ、保護シテシマッタガ、コレカラドウシタモノカ』
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