第554話『いない方がいい』
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橋本ルカの影の中でカレンは、発生した淀みを修正した。
淀みとは、カレンの邪な感情のみを抽出した人格である。
元々ただの人形でしかないのに、人格が誕生するという事象は奇跡でもあり、歪みそのものでもある。
ただの人形を生物のように動かす魂など本来あってはならぬものだ。しかし、ルカを助けたいという思いが彼女を動く人形へ変化を遂げたのだ。
だが、実はそれは進化などではなく、無理やり理を捻じ曲げたに過ぎない。そうなれば世界のバランスが崩れ、ダメージを受ける。それが歪みである。
それ故に彼女自身の魂も不安定となり、今回のような“ルカちゃん大好きちゅっちゅっちゅ♡”の化身が新たな魂として影の中に顕現してしまったというわけだ。
『全ク……困ッタモノダ』
自分自身の邪な心に呆れながらそう呟いた。
『今回ハ無事ニ駆除デキタガ、今後マタイツ淀ミガ生マレルカ分カラヌ。モシ淀ミガ外ニ出テシマエバ、ルカチャンニ迷惑ガカカル』
カレンは手で影を取り込むようにナイフを出現させた。
すると、刃先を自分に向ける。まるでこれから自決すると言わんばかりに。
『………………』
カレンはルカを守る為に自分は存在してるようなもの。しかし、自分自身がルカにとって脅威となってしまう可能性もある。
そうなれば自分の存在意義が無くなるどころか、いない方がいいだろう。
ならばそうすればいいのだ。ルカに迷惑はかからず、このままどこか遠くに去ってしまえばいいのだ。
どうせ名前すら呼ばれない程度だ。いなくなったところで誰も気づかない。ルカですら。
ルカがカレンを親友と言ったのは、あの頃のルカにとってカレンだけが唯一のまともな話し相手だったからだ。しかし、この世界に来てからその相手が増えた。
故にわざわざカレンを話し相手に選ぶ必要がなくなったのだ。
それは同時にルカにとって幸せな人生への一歩であり、本来歩むべき道なのだ。
『私ハモウ必要ナイ』
カレンも多少戦力になれるとはいえ、他のメンバーと比べれば力不足だ。むしろ足手まといにしかならない。
『私ハ消エルベキダ』
カレンは影の力で筆記用具と紙を用意し、愛するルカ二人へのメッセージをそれぞれ書き記した。
『ヨシ……』
カレンはまた影の力を使用し、その紙をそれぞれの部屋の机に置いた。幸いにも今は深夜なので、二人共気づいていない。
『アトハ……』
そしてカレンは影の中から出ようとすると――
『ちょっと待つイヌ』
犬の姿をした聖剣が影の中を覗き込んだ。
『何カ用カ、黄昏ノケルベロス』
『何で君が出ていこうとしてるイヌ?』
『私ハ必要ナクナッタカラダ』
『うーん、本当にそうかなぁ?』
『ソウダ、私ガコノママ居レバルカチャンニ迷惑ガカカル。オ前ナラ何トナク察シテイルンジャナイノカ?』
『確かに僕は人の思いを受け取りやすい特性を持ってるよ。だから、それが分かった上で言ってるんだよ』
『コノママ、私ノ淀ミヲ許シ続ケロト?』
『その程度の淀みなんて、この世界は許容どころか気にしてすらいないと思うよ』
『仮ニソウダトシテモ、今サッキ私ハ自分ノ弱イ部分ヲ生ミ出シ、ルカチャンノ大事ナ人ヲ殺ストコロダッタノダゾ?』
『君ですら倒せる程度の奴が、あのダストを殺せるわけないじゃん。もちろんルカちゃんも僕も十分対応できるし、君がたとえ淀みを逃したとしても、どうってことないよ』
『貴様ハ淀ミヲ甘ク見テイル。コレハ一度対処スレバイイトイウ単純ナ話ジャナイ! 私ガ人間ラシクアル限リ、無限ニ湧イテクルモノダ。場合ニヨッテハトンデモナイ化物ヲ生ミ出ス可能性ガアルノダゾ!』
『あくまで可能性でしょ? 直接見たわけじゃないのに何でそんなことが分かるの?』
『可能性ガアルカラ問題ナノダ! 絶対ニルカチャンヲ危険ニ晒ス訳ニハイカナイノダ!』
『ルカちゃんを舐めすぎじゃない? どんな化物が来ても簡単に倒せるほど弱くない』
『黙レ……トニカク私ハ……ルカチャンカラ離レル。邪魔ヲスルナ』
無機物の眼で睨みつけるカレン。
黄昏のケルベロスはそれに屈することなく、話し続ける。
『本当にそれでいいの?』
『アア、ルカチャンノタメダ』
『ルカちゃん悲しむイヌよ?』
『悲シムモノカ、ルカチャンハモウ友達ガイッパイイル。私ガイナクトモヤッテイケルハズダ』
カレンは影の力を自身に纏い、黄昏のケルベロスが追う間もなく、この家を去っていった。
『行っちゃった。全く、犬の話を聞かないんだから』
――翌朝、橋本ルカとルカ・ヴァルキリーは机の上の手紙を見ると血相を変えて、カレン捜索隊を結成した。
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