???『黒い光』
これはとある男の嘆きである。
そして、復讐である。
俺には何の取り柄もなかった。
だが夢があった。
俺は小説家になりたかった。
だから勇気を持って、最初の一歩を踏み出した。
自分に才能があると信じて。
しかし現実は非情だ。
俺の小説はとある小説投稿サイトに全世界に公開したのだが、反応が悪く、誰も俺の小説に興味を持った者はいなかった。
一体何がダメだったのかが分からない。
ただ知名度が低かったのは分かっていたので、書き続けること、更新し続けることで徐々に知名度を上げ、読者を増やしていくものなんだ。
そう信じて、俺は筆を取った。
残念ながら信じた俺が馬鹿だったと後に知ることになるが。
俺は何をすればいいのか分からなくなった。
誰にも応援されず、賞賛も批判もされない。
もはや作品の存在自体が元々無くなっているのではないか。
あるいは誰かが俺の作品が世に広まらないように細工しているとしか思えなかった。
なぜ俺には才能が無いのか。
夢が叶わない。
俺は価値がないままだ。
幼い時からゴミクズみたいな扱いを受けてきた俺はあの頃から時が止まったままだ。
俺は何をやってもダメ。
ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ。
お前には才能が無い。
…………………………。
なぜだ?
なぜ俺は才能が無くて、虐げられなければいけないのだ?
……もういい。
俺は一旦筆を置いた。
こんな荒れに荒れた精神状態では何も手がつかないからだ。
俺はとあるゲーム会社に入社した。
そこで俺はあまり良い成績を収められぬまま、後輩に抜かされ、むしろ尻拭いをさせられる。
あまりにも惨めで哀れな俺に、誰も慰めの声をかけてくれない。
唯一話す相手といえば上司のみ。
しかも話す内容も、
『お前は成績が悪いからもっと頑張れ。見ろ、お前より後に入ったあいつはすごい成果を上げてるぞ? お前だけ遅れてるんだよ。価値のない人間をここに置いておけるほど社会は優しくないぞ。分かったらさっさと働け。給料泥棒と言われたくなければな』
は?
は?
は?
は?
は?
は?
は?
は?
は?
は?
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……。
もう知るかよ。
その日から俺の目から光が消えた。
未来が真っ暗。
きっとこの先も何やっても打ちのめされるのだろう。
毎日そう思いながら、常に自決を視野に入れながら日々を過ごしていると、会社にとある女が新入社員として入ってきた。
そいつは美女だった。
俺が入社した時とは反応が正反対で、男どもがハイエナのように群がり、上司すら獣の視線で女を視た。
その女は誰よりも愛想よく、気品も備わっており、さらに仕事も完璧にできるときた。
俺とは対極の存在。
同じ空間にいても、俺と全く関わることはないのだろう。
そう思っていた。
ある日俺は何の因果かシナリオ担当に抜擢された。
と、言っても俺一人ではなく俺を含めた十人だ。
どうやら十個のシナリオの中から投票で一つを選ぶらしい。
数があれば当たりを引きやすいという目的もあるんだろうが、わざわざ無能な俺を選ぶあたり、見せしめもあるんだろうと俺は思った。
本当にそんな意図だったとしても会社に逆らえる度胸もない俺は、仕方なくシナリオを書いた。
すると、どういうわけか涙が止まらなくなった。
形は違うが、一度は置いた筆を取った時、俺の魂は再燃したのだ。
諦めたくない。
俺は小説家を諦めたくない。
そうして俺は本気でシナリオに取り組んだ。
会社の業務など適当にやってきた俺だが、初めて本気で執筆したのだ。
そして、ついに発表の時――
最下位という最低な結果だった。
わずか一票のみだった。
9位からは十票以上は獲得していたのに、俺だけがこのような無様を晒してしまった。
本気で挑んだのに、文章の添削だって何度も調整したのに、面白くなるように工夫も惜しみなくやってきたのに……。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜなぜなぜ?
なぜなぜなぜなぜなぜ?
なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ。
他の社員の連中は、俺を嗤いもせず、嫌味も言わず、ただいつも通り距離を置かれるだけだった。
もはや上司すら何も言わず、俺を放置した。
やはり期待などされていなかった。
抜擢したのは本当に数に入れたかっただけ。
犠牲になる兵士に俺を選んだだけだったのだ。
…………………………。
俺は絶望した。
やはり俺に才能はない。
さっさと夢を諦めて、会社の壊れた歯車として道化を演じるしかないと。
そう思った時、新入社員の女が俺に話しかけてきた。
『あの佐藤さん?』
俺は数ヶ月ぶりに誰かの口から自分の苗字を呼ばれた。
それだけで人生に色がついたような気がした。
『……はい』
気のない返事をする。
『実は私、あなたのシナリオに一票入れました』
そう告白する新入社員。
確かに一票だけ入っていたが、よりによってお前だったのか。
何かの間違いで一票入ったのかと思っていたから、俺は少し唖然した。
『そう、ですか……ありがとうござ――』
『素晴らしいシナリオでした!』
新入社員は俺の手を握った。
『え?』
『希望を持った主人公が最後には生まれない方が良かった邪悪な存在だったなんて最高のエンドじゃないですか! 私、すっかり読み耽ってしまいましたよ!』
俺の書いたシナリオは、主人公は魔王を倒すために勇者となったが、実は魔王よりも邪悪な存在であり、最終的には仲間に倒されるというバッドエンドな話だ。
今時ただ悪を倒すだけでは何の面白みもないと思ったからバッドエンドという斬新さを取り入れた。
残念ながらウケたのはこいつだけだったが。
『どんな形でもいい! ぜひ、もっとシナリオを書いてみて下さい!』
彼女はキラキラとした純粋な目で俺を見た。
今俺は初めて期待された。
初めて絶賛された。
俺はようやく存在価値を見出した。
この女がいたから。
そういえば彼女の名前は何て言うんだっけ?
ああ、そうだ。
思い出した。
こいつの名は秋本春奈。
俺は後にこの器用な美女と手を組み、徐々に会社を乗っ取り、最終的には二人だけの組織となった。
――そして異世界移住後、秋本は特別な力を持つ少女の一人、ダークとして潜入し、俺に情報を与えてくれる優秀な部下となるのだ。
――俺の計画を完遂させるにはまだまだ実験が必要だ。その為には秋本……いや、ダーク。貴様の力を借りるぞ。
彼の境遇はどうあれ、
これ以上、彼らの好きにさせてはいけない。




