第549話『ウンディーネの日常』
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《ウンディーネ視点》
みんなでカフェで楽しくお喋りしたあと、アニメ映画を観に行ったり、カラオケで歌ってきた! 楽しい楽しい楽しい!!!
カラオケから出た頃には、空がオレンジ色になってたー! はるか先を見ると夜と星がこんばんわー! って顔を出してたよ!
はい、今日はもうそれはそれは、楽しい日でした。満足です。
最後にみんなで高級レストランに行って、おいしい夕食を頂いて、それぞれの家に帰りました。
解散すると途端に心が冷える。あれだけ騒がしかった日々が嘘のように静寂だ。
ヴァルハラに戻ると、ヒルドちゃんとヘラクレス君と一緒にノルンちゃんの書斎にお邪魔した。
色々話したいこともあったけど、生憎ノルンちゃんは多忙でそれどころではなかった。なので、お土産だけ渡して、退室した。
ここでヒルドちゃんとヘラクレス君もそれぞれの部屋に戻るので、最終的に私は一人となった。
私はベッドの上で体育座りをしながら、味気ない天井を見上げた。その天井に今日の思い出を映し出すように。
『楽しかったけど、寂しいなぁ……』
居ても立ってもいられない私は、ヴァルハラの外に出て、彼女に会いに行った。
『まだいるかな』
月が照らす美しい自然を通り、森の中へ足を踏み入れようとしたが、探していた彼女がちょうど森からヴァルハラに戻るところに遭遇した。
『エフちゃん!』
『ウンディーネさん? どうしたんですか? こんな時間に?』
『会いたくなっちゃって』
『そうですか。そういえば今日皆さんとお出かけされたそうじゃないですか。どうだったんですか?』
『うん、楽しかったよ』
『その割には浮かない顔ですが』
『寂しくなっちゃったんだ。楽しかった日々があっという間に空虚になっちゃってさ……』
『なるほど……楽しかった後って確かにそうなりますよね。わかりました。今日は私もウンディーネさんの部屋で一緒に寝てもいいですか?』
『いいの……?』
『ええ、いいですよ。ちょうど私もウンディーネさんのお土産話を聞きたかったところです』
『エフちゃん〜〜〜!!!』
感極まった私は思わずエフちゃんを抱きしめた。
『ちょ、抱きつくのはダメです〜〜〜!!!』
それから私の部屋に移動して、エフちゃんはワンピースの寝巻きに着替えてきた。可愛い!
『さっきはいきなり抱きついちゃってごめんね』
『ああいえ、お気になさらず。私もビックリしてつい叫んでしまいました』
エフちゃんは、少し恥じらいながら頭を下げた。
『今日はね、みんなでカフェでお喋りしたり、映画観たり、カラオケ行ったり、レストランに行ったり、すごく楽しかったよ〜。でもカラオケで、ダスト君がすごく音痴でみんな困惑してたあの空気だけはちょっと本当にどうしようかと思ったけど』
その時を思い出し、今再現するように苦笑いする私。でもそんな時すら愛おしい。私の最高の記憶。
『こんな日がずっと続けばいいのになぁ……あ、このセリフ確か“フラグ”ってやつなんだっけ? やっぱなし! 撤回!』
私は両手でバツを作り、セリフの撤回を示した。
『ふふっ……なんですかそれ』
クスッと笑うエフちゃん。なんて愛らしい笑顔なんだろうと私の心はくすぐられる。また抱きしめたら怒られるかな。
『ねえ、エフちゃんは外に出たことないの?』
『あります。というか私は元々外から来ました』
『そうなんだ。どこから来たの?』
そう質問すると、エフちゃんは表情をこわばらせて、強く口をつぐんでいる。
聞いちゃまずかったかなと私は察して、話さなくていいよと口にしようとする前にエフちゃんがこう話した。
『実は私、とある国の紛争地域に生まれた孤児なんです』
――その刹那、時が止まるような感覚に襲われた。代わりに私の脳だけはこことぞばかりに動き出す。
彼女のその言葉だけで、私はありとあらゆる想像を脳に映し出した。
――重い。
泣き叫ぶ幼子の声、生暖かい血の臭い、今も尚聞こえる戦争の音――
そこにあった日常は、全て瓦礫の山に替えられた。
――雨が大地を差す。
まるで流された血を洗うように、打ちのめされた人を嘲笑うかのように、残酷に雨は降り続ける。
一人の少女がいた。純粋無垢で同世代の子供たちと楽しい時間を過ごしているだけの少女だった。
――雷が大地を穿つ。
まるで我々の怒りを再現しているように、あるいは神が廃墟となった町を取り壊すかのように、奪うように降り注いだ。
――時は動き出した。
私は彼女の言葉に対して、何を言えばいいんだろう。大変だったね、辛かったね。言うのは簡単だ。だが、そんな薄っぺらい言葉だけでは彼女の心情を表すのは侮辱するも同然だ。
私は知っている。その感情を、戦場の跡に立たされた少女の姿を。
だって、そこに私もいたから。
だから私は、
彼女をそっと抱きしめた。
すると彼女はすごく困惑した顔をしていたけど、私は手を振りほどくつもりもなく、ただそのまま私は、
『大丈夫。私はどこにも行かないから』
そんな保証はどこにもない。でも私はこのエフという普通の女の子を放ってはおけなかった。この娘はかつての私だから。
今、彼女はどんな表情をしているだろう? 私には分からない。見ることもできない。
だって、きっと同じ顔をしているはずだから。
――気がついたら朝になっていた。
二人揃って最悪の寝相で布団が乱雑になっている。
エフちゃんはまだ眠っている。毛布をまともに纏っていないので、風邪を引いてしまうかもしれない。今更手遅れだが、私はエフちゃんの掛け布団をかけ直した。
『うわっ、目真っ赤……』
洗面台の鏡を見ると、明らかに涙を流した跡の顔が映っていた。
『これは隠さないとね……』
ヒルドちゃんやヘラクレス君に心配はかけたくない。ノルンちゃんにはバレちゃうかもしれないけど。
あとでエフちゃんにも化粧をしないとね。彼女もこのまま仕事したくないだろうし。
あれだけ悲しい事を思い出したのに、辛かったのに、今はスッキリしている。まあでも今後またフラッシュバックしちゃう可能性もあるけど、それでも今はそれをかき消せるくらいの幸せを集めに行こう。
『ね、エフちゃん』
呼んでみても、彼女はまだ起きない。仕事もあっただろうに私の話に付き合ってくれたし、その分疲れてるのかも。
でも、彼女の寝顔はとても幸せそうだった。
第549話を見て下さり、ありがとうございます。
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