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第544話『そんなしょうもないことで無限ループするな』

 ノルン様から招集がかかった。俺はヒルドさんに連れられ、わがまま女神の元に赴いたのであった。


 ノルン様の部屋には、既にウンディーネが優雅に紅茶を飲んでいる姿があった。ノルン様も楽しそうにスイーツを口に運んでいる。


 普段はアレな2人だが、こうして見ると上品なお嬢様に見える。


『あ、ダストくーん!』


 ウンディーネは入室した俺に気づくと、笑顔で手を振った。


 一方でノルン様は緩んだ表情から鬼の形相へ一変しながら、スカート部分を押さえている。


『俺、なんかしました?』


『何でもないですわ』


 そう言いながら、まだ俺を睨みつけている。絶対何かしたやつじゃん。


『じゃあ何でまだ俺を睨んでるんですか?』


『貴方は乙女の敵だからですわ』


『は?』


『は? じゃねえよこの変態が。二度と淑女の下着を拝めない身体にしてやろうか?』


 それは困る。困ります。


『いや、マジで何言ってるんですか?』


 確かに俺は過去に何回もラッキースケベを発動してしまったことはあるが、最近はあまりそういうイベントは無かったはず。あまりに俺が憎すぎて、ついに冤罪を吹っかける行為に出たのか……?


『とにかくお前だけはぜってえ許さねえですわよ。歯を食いしばって私の料理をご馳走されろ』


『ほほう、遠回りに死ねと申すのですね』


『ほうほう、お前私の料理を兵器扱いしやがりましたわね?』


『し、しまった……!?』


『もう遅せぇですわよ』


 ――気付いた時には、俺はベッドの(ry


『もう何度目だ!!!』


 まるでタイムリープをしたかのような展開だが、時計の針は確かに進んでいる。


 意識を失う前に覚えてる事といえば、俺がうっかりノルン様の料理を兵器と遠回しに告白してしまったが故に、暴君を目覚めさせてしまった。それで、俺はあの忌々しい料理を食わされて――


『うっ……!』


 フライパンで思いっきりぶん殴られたような頭痛がした。


 これ以上は思い出すなと、本能が警告を出しているようだ。


『うん、これ以上の深追いはやめておこう』


 ノルン様の料理(ごうもん)の件は記憶の底に封印した。


 そして、もう一つ問題がある。


 俺の隣で誰かが頭から池に突っ込んだような体勢で潜り込んでいる事だ。めくれたスカートが白い下着の存在を強調している。本来ならばそちらに釘付けになるが、それよりも物騒な事件が起こっている可能性を危惧した俺は、探偵のように女性の身体を調べ上げる。べ、別にいやらしいことをしたいからじゃないんだからね!


 上半身を見る為に布団をめくってみると、そこにはヒルドさんの可愛い寝顔があった。


 案の定ではあったが、やはりヒルドさんだった。ただ、こんな格好で寝てるのは前代未聞だが。


『……これは、ツッコミ待ちってやつか?』


 だが、当のヒルドさんは本当に眠っているようだ。パンツを見られているとも知らずに夢の中でエンジョイしてるんだろうな。


『はぁ……』


 俺はこの光景を見なかった事にして、こっそりベッドから出ようとすると、ヒルドさんの足が俺を挟んで、そのまま離れない。


 俺は必死にヒルドさんの足を解こうとするが、俺の力では1ミリも動かせない。


『ヒルドさん! 起きて! 離して下さい!』


 意外にもこの一声だけで、ヒルドさんは目を覚ました。


『うん〜?』


 ヒルドさんは起動したての脳で状況を把握する。


『……あれ何で私、こんな格好してるんだっけ?』 


『とりあえず早く足を離して下さい!』


 ヒルドさんはハッとして、すぐに足を離した。


『ごめんね〜。私すごく寝相悪かったね〜』


 手と手を合わせて、申し訳ない気持ちをジェスチャーするヒルドさん。


『まあいいですけど、それより何で逆向きにベッドに入ってたんですか?』


『いつもと同じ光景じゃ飽きると思って、逆向きに寝てたんだよ〜』


『なんじゃそりゃ?』


 ヒルドさんの思考が理解できない。そもそも飽きる飽きないの前に人のベッドに潜り込むな。


『新鮮だったでしょ〜?』


『確かに新鮮だったけど、あの体勢のせいでパンツ見えてましたけどね』


『え、あ、またパンツ見たな〜。もう〜見ちゃダメだよ……』


 無表情ながら少し動揺したのか、スカートを押さえて、恥ずかしそうにもじもじしている。可愛いけど、アホとしか言えないな。


『で、ノルン様の様子はどうですか?』


 俺はノルン様を怒らせてしまった。冷静になってくれればまた話ができるかもしれないが……。


『うん〜、相当怒ってたね〜。当分口聞いてくれないだろうね〜』


『そうですか……』


 ウンディーネの処遇とか聞きたかったけど、どうなるんだろう?


『だから私がノルン様の代わりに今後の方針を説明するね〜』


 なるほど、ヒルドさんを橋渡しにしたのか。俺の失言のせいで余計な仕事増やして申し訳ないことした。


『えっと、まずあの……ウンディーネちゃん? の事情は全部聞いてね、今後彼女にはこのヴァルハラに住んでもらうことになったよ~』


 そうきたか。確かにヴァルハラに居てもらった方が、色々と都合がよさそうかな。ただの異世界人ならまだしも、精霊界の先祖となると、話は全然違うだろうしな。


『あと、そっちで見つけた方のシャイちゃんだけど、同一人物が肉体を持って同じ時間軸で存在してるのは色々マズイらしいから、魂のまま霊魂室で保管することになったよ〜』


『霊魂室?』


『あれ、話してなかったっかな? どういうわけか肉体を失った魂がたまに別の世界線から湧いてくる事があるんだ。そのままにしておくと悪霊になるかもだから、必ず捕まえてヴァルハラの霊魂室に保管してるんだ〜。そこにいれば悪霊にはならないから〜』


『へぇ、初耳ですね』


『ちなみに、ダスト君の分身であるファースト・ドライヴと師匠の魂も元はそこに保管してたんだよ〜』


『ああ、なるほど』


 言われてみれば、魂はどうやって持ってきたんだとは思ってたが、そういうことだったのか。


『でね、次が一番重要な話なんだけど』


 ヒルドさんは真面目なトーンで話し始めた。


 ここからシリアスな話が始まるんだな。 


 ヒルドさんは人差し指を曲げる動作を繰り返して、耳を貸してほしいとジェスチャーした。どうやら周りに誰もいなくても余程小さな声で話さなければいけないほど秘匿性の高い話のようだ。


 俺は恐る恐る耳打ちできる距離まで顔を近づけた。


『あのね……その……ノルン様がね』


 緊張感で固唾を呑む。一体どんな話なのか。


『ピンクのパンツを履いてた』


 ――それを聞いた瞬間、俺は全てを思い出した。そう――千里眼持ちのウンディーネにノルン様のピンク色のパンツが見られていたことを――


『って、重要な話ってこれかよ!!!』


 いや、確かに貴重な情報だけど!!!


 モヤモヤしてた記憶が浮き上がってきたけど!!!


 ていうか、これのせいで俺は気絶させられたのか。なんてしょうもない。


 ――いや、待てよ、これを聞いてしまったということは――



 ――そして、またベッドの上に。


『いい加減にしろ!!!!!!』

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