第540話『羽を伸ばした怪物』
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ブリュンヒルデ・ワルキューレは全力で拳を振るったことがない。もし、彼女が本気で何かを殴ろうものなら、星一つが壊滅的な状態になってしまうからだ。
故に羽を伸ばせず、常に鎖を巻かれているような、確実に加減をしなければならない状況に置かれていた。
ただ、それを受け止められる相手がいるなら話は全く違ってくるが――
彼はいくつもの剣を生成して、宙に浮かせては使い魔のように操り、1本1本順番に彼女へ送り込んでいる。
いくつもの刃物の視線が彼女を差す。剣と剣の間には差があるが、1本が来たら1秒も経たずに2本目が来るくらいの僅かな間だ。それが15本やってくる。
まずは1本目がやってくる。それは的確に彼女の心臓を狙うも、回避される。
続いて2本目。これもあっさり回避される。
3本目、4本目も同じく。
5本目でとうとう避けきれなくなるが、刺さる前に蹴り上げることで、回避する。
すぐに6本目と7本目が来るが、先ほど蹴り上げた5本目が回転しながら彼女の胸くらいの位置まで下がってきており、それをそのまま拳で6本目と7本目ごと押し出す事に成功した。
次に8本目がすぐに襲ってくる。今回は回避することも蹴り上げる時間すらない。
なので、真っ向から拳で吹き飛ばした。僅かに刃は刺さってしまったが、反対方向に向かった剣は、これからやってくるはずだった13本目を道連れに落ちていった。
これを見た彼女は瞬時にひらめいた。先ほどと同じように剣を殴ってから剣先を変えさせれば、それが全て彼の元へ行くのでは、と。
早速彼女は、落ちていった13本目を除く9本目〜15本目を全て拳で返し、さらに刃先を相手に向けさせるように調整して、あとは2発目の拳で押し出す。
『なに……?』
自分が使い魔のように放った剣が、自分に殺意を向けて帰ってきた。彼女の計算し尽くされたコントロールにより、刃先は全て心臓に向かっている。
『そんなのありかよ……!』
彼は重力魔法を発動し、向かってくる剣を殺意と共に落とした。
『剣が落ちた……? それも貴様のよく分からん能力か』
『ああ、よく分からん能力だ』
『いや、貴様は分かってないとダメだろ。何言ってるんだ?』
『お前に能力の詳細を伝えたら対策されるだろ』
『まあ、それもそうか。仕方ない、戦いながら推測するとしよう』
『そうしてくれ』
ブリュンヒルデは宣言通り頭を回しながら、拳を構え、勢いよく彼に解き放つ。
『反射魔法』
ブリュンヒルデはまたしても吹き飛ばされ、自分で自分へダメージを与えてしまった。
『おいおい、学習しなかったのか? 普通に攻撃しても反射するだけだぞ』
ブリュンヒルデは立ち上がると、不敵な笑みを見せる。
『な、なんだよ?』
彼は彼女の狂の部分を感じ取り、少しだけ恐怖を覚えた。
あれだけのダメージを受けて、五体満足で立っていられるだけでも十分に化物認定できるが、それどころか笑って、まだ戦えるとなると、もはや化物を超えた怪物である。
『ククク……いや、なあに。戦うのが楽しくてな』
『うわぁ、戦闘狂かよ。引くわー』
『ダストは違うのか?』
『俺はただ、大切な物を守りたいから戦うんだ』
『そうか、私には理解できないが、それも一つの強さなのだな』
『ああ』
『ならば、ますます本気で戦わなくてはな……この星を滅ぼすほどの力を解放しよう』
『なんだと?』
ブリュンヒルデが力むと、船が揺れ、大地も地割れを起こしている。
このままでは本当にこの星を壊してしまう勢いだ。
『これはまずい……! おい、やめろブリュンヒルデ! この星を滅ぼす気か!』
『さあこい!!! 私はダストと本気の戦いをしたいんだ!!! でなければこの星を破壊するぞ!!! 嫌なら私をとめてみせろ!!! アハハハハハハハハハハハハハ!!!』
彼女は本来の目的を忘れ、私利私欲の権化に成り下がった。もはや、彼女を止められる者はいないだろう。ダストを除いて。
『言われなくてもとめてやるよ!!!』
彼は分身魔法で自分を増やし、剣術部隊、魔法部隊、防御部隊、狙撃部隊を作り出し、それぞれチームで補い合いながら戦う戦術が完成された。
『幻覚……というわけではなさそうだな。確かに感じるからな』
まず魔法部隊が、剣術部隊と狙撃部隊に筋力増加魔法を、防御部隊には防壁魔法を与える。
剣術部隊が前に出て攻撃しつつ、盾を持った防御部隊に守ってもらう。
つまり、ブリュンヒルデが攻撃しようとすると防御部隊が前に出て、攻撃をやめた瞬間、攻撃部隊が素早い動きで一斉攻撃する。それと同時に狙撃部隊も彼女に向けて、弾丸を放つ。
魔法部隊も攻撃魔法を次々と放つ。
攻撃の連続だが、ブリュンヒルデはその全てを見事に防御しきった。しかし、ダメージは受けており、傷跡が至る所に発生している。衣服も原型が見えない程に傷んでおり、破れかけた下着も丸見えだ。
だがブリュンヒルデは、そんな自分の状態など目もくれず、ひたすら破壊兵器級の拳を繰り出す。
すると、防御部隊の一部が崩れ、攻撃部隊も続々と攻撃を受けてしまう。
『……どうした? この程度では私を倒すことは……できない』
本人はそう言い張るが、ダメージは痛みとして満遍なく伝わっている。
『とはいえ……ふむ……痛みを感じたのは実に久しいな…………』
彼女は呼吸が安定せず、今倒れてもおかしくない状態になった。
一方で勇者ダストは、多少魔力が減って疲れを感じる程度で済んでいる。
『チェックメイトだ。愚かな侵略者ブリュンヒルデよ。なかなかに楽しめたぞ』
彼は水魔法でハンマーよりも重い激流を作り、彼女の頭から全身にかけて、見事な一撃を喰らわせた。
『ガハッ……………………!』
宇宙最強を誇る女戦士は此れにて敗北。意識を失い、宇宙一の称号は剥奪された。
『これで少しは頭を冷やせ』
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