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第539話『平和主義の勇者と実力主義の美女』

 《勇者ダストの回想》


 似たような状況はあった。あれは俺とフーがようやく突き止めた魔王城に向かっていた時だった。


 その道中、とてつもなく身体能力の高い敵が現れた。そいつは魔王軍幹部で、魔王に次ぐ実力者だった。


 その幹部は身長5メートルを超える大男だ。魔法を使わないが、巨大ドラゴンすら殴り殺せる程の身体能力の持ち主だ。


 普通に炎魔法や雷魔法を放っているだけでは、効かない。拳で弾かれるか、強靭な肉体に押し負けるだけだ。もちろん物理攻撃も全てダメージがほとんど発生しない。


 まるでモンスターのような奴に、俺もフーもはかつてない程の苦戦を強いられた。


 だけど、俺には秘策があった。どんなに身体能力が高くても全てを覆せる程の魔法(おおわざ)


 そのおかげで俺は、その幹部を一撃で倒すことができた。


 その魔法とは――



 《現在》


 大地を震わせる程の力を込めた拳が彼に迫る。少し近づいただけでも、硬直して動けなくなるほどの空気振動が発生する。


 しかし、彼は表情一つ変えることなくその場に立ち尽くす。無論、動けないわけではなく、あえて回避しないのだ。ここで拳を受け止める気だ。


 ――彼は小さく早くこう口に出す。


『反射魔法』


 拳はとうとう彼の肌に触れた。これによって、彼の身体は骨や臓器ごと引き裂かれ、人の形を保てない凄惨な姿となるだろう。本来ならば――


 しかし、今の彼にはそのような様子はない。ただ拳が彼の鳩尾に置かれているだけ。身体も四散していないどころか、傷一つすらついてない。むしろ――


『なに……?』


 攻撃した側のブリュンヒルデに異変が発生した。彼女の鳩尾が透明な何かに押し出され、向こうの壁に衝突するまで吹き飛ばされた。


『ぐはっ……!?』


 血を吐く程のダメージを受けた彼女だが、倒れずに一旦膝をつかせて、呼吸を整えた。


 彼女は口周りについた血を拭うと、何事もなかったかのように立ち上がった。


『アレを喰らって、まだ立ち上がるか』


 アレとは反射魔法の効果だ。この魔法はその名の通り、相手の攻撃を受けずにそのままお返しする防御魔法の一瞬だ。


 つまり、ブリュンヒルデは身体が四散する程のダメージを自分で受けたのだが、一応五体満足である所を見ると、見かけによらず強靭な肉体であることが伺える。


『これは何だ? 貴様、一体何をした?』


 ブリュンヒルデは訳も分からず、彼に説明を求めた。


『なあに、ちょっとした細工だ。原始的なお前たちでは到底理解できないものだ


 魔法の対策をされないように具体的な説明はせずに、大まかに話した。


『原始的だと? ずいぶんと舐められたものだな。宇宙船の一つも作れない文明風情が我々を見下すか』


 原始的という単語が地雷を起爆させてしまったようで、ブリュンヒルデは少しだけ怒りの感情を声に乗せた。


『作れるさ。俺の世界ではな。だが、わざわざ宇宙へ行く理由がないから作らないだけだ』


『理由がないだと? 理解不能だ。それでどうやって資源を回収するのだ?』


『資源なら住んでる星にあるので十分だ。確かに他の星には、こちらにはない物があるかもしれないが、わざわざ取りに行くほど飢えちゃいねえからな』


『余裕ということか、いやあるいは楽観視しているだけか……まあいい。どちらにせよそんなことも考えられなくなる。我々がこの星を支配するからな!』


『全宇宙最強だか何だか知らないが、お前の実力は知れた。俺のテリトリーに足を踏み入れた事を一生後悔するがいい』


『フン、私に攻撃を一回当てただけで調子に乗るな。私はまだまだ本気を出してはいないぞ』


『分かっている。それを見積もった上での確信だ』


『慢心はいけないな。貴様の敗因が見えるぞ』


 ここで二人はイキリ会話(バトル)を止める。あとは拳と拳で決着をつけるために。


 ――場は静寂に包まれる。


 重症を負った幹部たちは、なんとか自分で応急処置を完了させているが、特に何もせず、彼とブリュンヒルデとの戦いに集中している。シャイも手負いの幹部を始末するよりも先に二人の戦いを見守ることにした。


『私の名はブリュンヒルデ・ワルキューレ! 貴様の名は何だ!』


『俺はダストだ』


『ダストか……貴様の名を覚えておこう。私にここまで戦わせた強者としてな!』


『俺の方こそお前の名前を覚えておこう。俺に敗北した者の名としてな!』


 ――刹那、彼の背後にブリュンヒルデが瞬時に回り込んだ。


『貰った!』


 ブリュンヒルデはすぐに拳を突き出すと、彼は無駄のない動きで身体を右に傾けることで攻撃を回避し、その後すぐにビームのような光魔法を放った。


『なっ!?』


 ビームは確かにブリュンヒルデの肩を貫いたが、そこから流れ出るはずの血が全く垂れておらず、徐々に身体がすーっと消えるように薄くなる。


『残像ってやつか』


 それに気づいた頃には、既に本物は後ろから拳に力を貯めて、ビームを超える威力の攻撃を放とうとしている。


 反射魔法を発動したいところだが、反応が遅れたせいで、唱える前に攻撃が当たるだろう。


『喰らえ!』


 拳から放たれる風圧が彼を襲う。


 巨大な竜巻に巻き込まれ、彼は大きなダメージを負う。


 その後何もできないまま風に翻弄された後は、まるで飽きて捨てられるように放り出され、床に叩きつけられた。


 だが、すぐに血まみれの身体を起こして、ブリュンヒルデを見る。


 骨折はもちろん、臓器の1つは壊れているはずだが、本人は特に痛がっている様子はない。


『………………』


 彼は無言のまま、自分の胸に手を当てて、


『治癒魔法』


 すると、瞬く間に血が引っ込むように消えて、彼へのダメージが無かったことになった。


『完全回復か……ほう、()()()使えるのか』


『ああ、何度でもな』


 厳密には魔力が無くなるまでだが、彼の魔力は本来の人格のダストよりも無尽蔵で果てない魔力なので、実質何度でもという表現は正しいと言える。


『面白い、そうこなくてはな……!』


 ブリュンヒルデは不敵な笑みをしながら、身体中に力を貯め込むと、それを解放した。


 すると、彼女の周りから衝撃波が飛んできた。それは常人ならば軽く10メートルは飛ばされるような力だ。


『うわああ!』


 シャイや幹部達は少しだけ飛ばされてしまったが、何とか立ち止まった。


『……』


 一方、彼はそれを受け止めても尚、表情を崩すことなく1ミリも後退しなかった。


『私はさらに力を開放するぞ。まだまだやれるよな、ダスト』


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