第537話『俺TUEEEEEEEEEEになったかといって必ず無双できるとは限らない』
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『貴様は、私の何だ?』
俺の前でそう呟いた後、人型の美女は美しく長い黒髪を靡かせた。同時に嗅いだことのない香が鼻腔をくすぐる。
(こいつは何を言っている?)
そう口に出す前に、美女は俺の鳩尾めがけて拳を突き出したが、防壁で防いだ――と思ったら、既に何十、何百発も防壁を殴っていた。
(速すぎて見えない……!)
もし、防壁が無ければ、あの拳に殺されていたかもしれない。そう考えると足が竦んでしまう。なんて思っている暇もない。
防壁にヒビが入った。
『なっ……!?』
ありえない。攻撃を通さない無敵の壁にヒビが入るなど……いや、あるわ。“ダストの記憶”を探ると、攻撃を受けすぎた防壁にヒビが入る事もあった。
こういう時の対処法は……防壁を逆にこちらから押し出して距離を置く。
『喰らえ!』
俺は防壁をぶん殴り、その先にいる美女を押し出した。
『ほう』
しかし、美女は見えない壁に押し出されても尚、表情一つ変えずに、
『伝わったぞ。お前の怒りを』
美女も拳を振り上げて、防壁を押し返した。
『なっ……!?』
――壁が迫っている。今まで俺を守ってくれた壁が、恩知らずな俺に復讐を遂げにきた。
ふざけるな。今までお前を守ってやったのに。労るどころか殴って吹っ飛ばすとは何事だ。
そう言われたような気がした。
(あぁ、そうだったな。最近聞いたばかりなのに、すっかり忘れてた。魔法にも意思が宿ることを)
防壁は力いっぱい俺に衝突し、俺は宙に飛ばされた。
『オーガスト・ディーン!!!』
空中で舞っている俺が地面に叩きつけられる前に、未だ止まらない防壁はさらなる力を持って俺を吹き飛ばした。それを部屋の端の壁に衝突するまで繰り返した。
あぁ、痛いな。硬い壁にぶつかればそりゃ痛い。それを故意にやってるのだから、普通の人間なら複雑骨折、最悪死ぬ。いや、もう死ぬわこれ。
洒落にならない量の赤い血が口から飛び出る。もう痛いというレベルじゃない。意識が飛びそうだ。息ができない。
何か魔法を発動しなければいけないのに、今の俺ならこの状況をどうにかできる魔法があるはずなのに、何も考えられない、身体が動かない。魔力がうまく操作できない。
自分でも思う、なんて脆い身体なんだろうか。どんなに力はあっても、凡人が死ぬレベルの攻撃であっさり死ぬ。そうならないように防壁魔法といった防御手段があるのだが、対策されればこの有り様だ。
防壁のない俺など、攻撃力だけが異常に高くて、防御力だけが弱いようなアンバランスなステータスを持ったギミック系の雑魚だ。
とはいえ、この美女強すぎるだろ……。今の俺に勝てる奴なんて数えるくらいしかいないと思ってたのに……やれやれ、上には上がいるってことか。
――はぁ、もう終わりだ。俺の旅もここまでだな。
今まで死ぬ寸前あるいは死んだ後に何かしらの助けがあったから、生きていられたが、今回はどうなんだろう。お得意の“主人公補正”は発動するのだろうか。
まあいいや。別に発動しなくても。どうせ俺はもうこの世界への特別な感情はもうほとんど死んでいる。
まあでも、未練自体はある。今まで会ってきた仲間や生徒たちが心配だ。俺がいなくなったら、彼らはどうなる? 下手をすれば神に消されてしまうかもしれない。
『……』
死なせたくないな。
あぁ、そうか。まだ俺の中ではそう思えるんだ。真実を知っても尚、誰かを守りたいという気持ちが、まだ残っていたんだ。
まだ諦めるには早いかもな。
でも、今の俺はまともに身体を動かせる状態じゃない。魔力もうまく使えない。
今の俺にはこの状況を打破する策は思いつかない。このままお花畑に足を踏み入れるだけだ。
だが、俺には“ダストの記憶”がある。人の人生を歩むには溢れるほどの経験がある。そこに解決のヒントがある可能性は高いだろう。
俺は死に際に記憶の海にダイブする。状況が状況なだけにまるで走馬灯を見てるようだが、ここで死ぬわけにはいかない。
頼んだぞ、過去の俺――。
――その必要はない――
聞いたことのある声だ。それも誰よりも近くて、俺の事を知っている。親しみのあるその声は――
――そうだ。俺は過去のお前だ――
過去の俺……?
またすげえトンチキな展開来たな。こういう超常現象系の展開はもう慣れたもんだが、過去の俺が心の中に現れるという発想はなかったな。
――勇者と呼ばれていた頃の俺だ。フーと旅をしていた時だ――
なるほど、つまり過去の俺が現在の俺の心にタイムトラベルをしてきたと。それか自分自体が概念的なものから生まれたとか?
――後者だ。俺は自分の言う“ダストの記憶”の権化のようなものだと思ってくれ。ありえない話だと思うかもしれないが、何分時間がない。今は聞き入れてくれ――
分かってる。自分を信じるよ。何せ俺自身だもんな。
――さすが俺だ。話が早くて助かる――
それで、俺がヒントを得る必要がないってどういうことなんだ?
――ああ、自分はもうこれ以上戦う必要がないということだ――
このまま死ねってわけではないだろうが、言ってる意味が分からない。何が言いたい?
――つまり、俺とお前と入れ替わるということだ――
俺の代わりに自分が意識を取り戻して、あのラスボス美女と戦うってことか?
――そうだ――
でも、今俺の身体は動けないし、魔法も使えない。いくら勇者だった頃の俺でも、どうにもできないのでは?
――俺ならどうにでもなる――
うーん、まあ分かった。そういうことなら自分に任せる。どの道今の俺が浮上したところで何もできないし、俺はここで様子を見るよ。
――うむ、よく見ていろ。勇者の戦い方をな――
そして、もう一人の自分は俺の代わりに上へ上がっていった。意識の底に沈む俺を置いて。
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