第536話『無謀と勇気。俺は虚無』
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俺は宇宙人を脅すためだけに、炎、雷、氷魔法を披露する。まるでマジックでもやっているかのような注目を浴びているが、ただの見せしめである。もし逆らうなら魔法で容赦なく攻撃するぞと言うようにな。……俺の大嫌いな”あいつら”がよくやってた事だ。
『ひ、ひぃぃ……あいつ、やべえ、やべえぞ!』
『聞いてないぞ! この惑星の住民がこんな面妖な術を使えるなんて!』
宇宙人は、ありえない現象を起こす俺に恐れをなして、一人残らず後退した。騒がしかった玄関口は静寂に包まれた。
『道は空いたな』
『進もう』
俺は毎度お馴染みの探知魔法を発動しながら宇宙船の中を捜索した。中はグランドベース号と構造はほとんど同じで、面積だけはその2倍ほど違う。どうやら、この船が豪華に見えたのは外面だけで内面は普通の宇宙船と特別大きな変化はない。普通の宇宙船なんて知らんけど。
『撃て撃て!』
進んでいくと、俺達に挑む恐れ知らずも出てくる。ずっと中にいて俺達の事を知らない奴かもしれないが、後退していった奴等の様子から、俺達の異様さは伝わっているはずだ。にも関わらず、立ちはだかる。
ナワバリ意識が強いのかな? 勇敢なのは結構だが、勇気と無謀は違うぞ。
『はぁ、出来れば無血で行きたかったが、しかたねえか』
俺は一思いに、名も知らぬ宇宙人を剣で刺して終わりにした。あまり褒めたくはないが、この綺麗な宇宙船を血で穢してしまった。
『大した実力もないくせに』
他の宇宙人達は、そそくさと奥へ逃げていく。俺という脅威に怯えながら。
だが、俺は忘れてない。宇宙人が予知夢の中でこの星の住民をゴミのように踏みにじったことを。グランドベース号に奴隷が居たことから、おそらく他の星にも同じように蹂躙してきたのだろう。
今は魔力を温存しておきたいだけで、手を出さないだけだ。この戦いが終わった後は、覚悟しておくことだな。
『そろそろ奥か。そこにこの船の船長がいるのか?』
『ああ、間違いないだろうな』
そういうセオリーだからというわけではない。一番奥の部屋からとても強い力を探知したのだ。おそらくそれがこの船の艦長だ。しかも、それ以外にも艦長の次に強い力が2つと、力はあまり強くないが、数え切れないくらいの軍勢がいる。
その艦長の強さは、これまで戦った中でも相当強い。下手をすればファースト・ドライヴやセカンド・ドライヴでも勝てないかもしれない。
『シャイ、恐らくここから先は苦しい戦いになるかもしれん。正直今の俺でも勝てる自信がない』
『ほう、だからどうした?』
『怖くないのか?』
『怖いは怖いさ。だがそんな理由で逃げる私ではない。それだけだ』
シャイの目はまっすぐだ。勇敢な戦士のように、少年漫画の主人公のように、穢れのないとても澄んだ目をしている。
だけど、今の俺はそんな目が嫌いだ。何故なら現実にそんな奴はいないからだ。
俺がいた現実は誰も彼も、そして俺も自分の事ばかりだ。少なくとも俺が見てきた人間の中で、とても人の為に行動しようなんて奴はほんの一部しかいない。
ただ、そういう連中を悪いとは言わない。大抵の人間はそうであるからだ。もし、自分の幸福を願ってくれる恋人や友人と会えたならそれは奇跡としか言いようがないが。
ゲームとは違って、俺以外全員NPCというわけじゃない。この世全ての生物がプレイヤーなのだ。誰もが最高のエンディングを見るために日々を生きている。
だからこその現実。故に理想のような主人公などいるわけがない。
シャイが嫌いなわけじゃないけど、今の俺はどうしても彼女の言葉が嘘っぱちに聞こえてしまう。
――だが、それでもシャイの意志、思いは確かにそこにある。たとえ世界の洗礼を受けていたとしても、俺がその人格を否定していいわけがない。
シャイはシャイだ。彼女には真実を言わずに、できるだけこれまで通りに接しよう。それが俺にできる精一杯だ。……ちょっと辛いけどな。
『そうか。分かった。じゃあ行こう』
『あ、ああ……』
俺達は無言のまま、奥へ奥へと歩いて行った。すると、またしても恐れ知らずなしたっぱが立ち塞がるが、容赦なく蹂躙する。その度に近くにいたしたっぱは奥に逃げていく。
そうしている内にいつの間にか奥の部屋の前までやってきた。
『ここだな』
他にも部屋はいっぱいあって、どれも銀色の扉だったが、この部屋だけは金の装飾が縁にある赤い扉だ。明らかにここが一番重要な部屋だということを表してあるかのようだ。
『ここだけ豪華な扉ね。まるでここにボスがいますよーみたいな雰囲気……ちょっとあからさま過ぎない?』
ここにきて喋り方を変えるシャイ。いちいちツッコむのも面倒なので、それは無視するとしよう。
彼女はこの扉の装飾に違和感があるようだ。おそらくこの部屋にはボスはいなくて、俺達をおびき寄せる為の罠ではないかと疑っている。
確かに罠自体はあるかもしれないが、ここにボスがいるのは間違いない。信用第一の探知魔法先生がそう言っているのだ。そこに狂いはない。
『探知魔法で見ているが、他の部屋はほとんど雑魚ばかりで、この部屋だけ力が集結してる。ここに艦長がいるのは間違いない』
『なるほど、貴方がそう言うのなら信じるわ……いや、信じるぞ』
喋り方が変わってる事に気付いた彼女は、恥ずかしそうに口調を戻した。
気を抜くとそうなるんだな。俺には分からない感覚だが、気を張り続けるのも大変なんだろうな。
『それじゃ、扉を開けるぞ。準備はいいな?』
シャイは剣を構えながら頷いた。どうやら扉を開けた瞬間に斬撃でも飛ばすつもりのようだ。
確かに扉の先のすぐ近くに宇宙人が待ち伏せしている。俺達が扉を開けた瞬間、銃でも撃つつもりだろう。
シャイも何となくそれに気づいたから、逆にこちらも不意を突こうというわけか。なるほど、悪くない。
『3、2……1!』
――扉は開かれた。案の定、待ち伏せしていた宇宙人共がそれぞれ銃を放とうとするが、その前にシャイの斬撃が命中し、弾丸の代わりに宇宙人の青い色の血飛沫が噴射することとなった。
『なっ!?』
『バカな!?』
『待ち伏せ作戦が見抜かれていただと!?』
不意を突くつもりが、すっかり虚をつかれた宇宙人達。俺もシャイもその隙を逃さず、それぞれ攻撃をし続ける。
『全員葬ってやる』
気がつくと、集まった戦力の8割を難なく削ることができた。この調子で残りの2割も倒していきたい。
だが、玉座に座っている艦長だけは――
『騒がしい』
そう言って、艦長はいつの間に俺の目の前に現れた。
あまりの速さに俺は反応できない。ただ彼女の姿があまりにも可憐で華奢で――
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