第46話『ずっと傍にいて』
※2022/07/01改稿しました。
お待たせしました。
第46話できましたので、宜しくお願い致します。
※今回は文字数いつもの倍以上あります。
ブロンズちゃんの言う狙われているとはどういうことなのか。赤髪ちゃんにパンチラを狙われているのか、それとも何者かに命を狙われているのか。
いずれにしても犯罪臭しかしないが、ブロンズちゃんの反応からして恐らく後者だろう。彼女は赤髪ちゃんに対してこんな怯え方はしないはずだ。
『狙われてるって……何があったの?』
『分からないわ……さっきから変な視線を感じるの……』
ブロンズちゃんは青ざめた顔をして身体全体を震わせている。変な視線というより殺気に近いものなのだろう。
『変な視線?』
『うん……』
俺もたまにあの例の視線を浴びる時があるが、それとはまた別物なのか?
『大丈夫?』
『……怖いよ』
いつもの態度とはまるで違うブロンズちゃんは、俺の服の袖を掴む。お化け屋敷で怖がる女子とはまるで違う、本物の恐怖。ブロンズちゃんの自身の本能が命を狙われていると感じ取っているのだろう。
『でも、お兄ちゃんも巻き添いになるのも嫌……』
ブロンズちゃんはそう言って、掴んだ袖を離し、俺から離れるように後ろへ歩く。
『ブロンズちゃん?』
『やっぱり、私1人でなんとかする! お兄ちゃんは、私から離れて!』
ブロンズちゃんは俺を危険な目に遭わせまいと、1人で森の中へ飛び出していった。
『ブロンズちゃん! 待って!』
ブロンズちゃんを1人にしておいたら危険だ! そう思った俺は、クラスで1番遅い足だが全速力で、ブロンズちゃんの後を追った。
『ブロンズちゃん!』
雑魚走者の俺はなんとかブロンズちゃんに追いつき、ブロンズちゃんの腕を掴んだ。
『離して!』
『いや、離さない』
ブロンズちゃんは俺の腕を振り払おうとするも、力ではさすがに俺の方が上回ってるため、振り払えなかった。
『お兄ちゃんを危険な目に遇わせたくないの!』
『俺だって、ブロンズちゃんを危険な目に遇わせたくない! 助けて欲しかったから、自分が狙われてるって俺に話してくれたんでしょ?』
『それは……』
『大丈夫、俺がずっとブロンズちゃんの傍にいるよ』
『えっ……』
俺がそう言うと、ブロンズちゃんは頬を染めてから、涙目にもなった。
なぜ頬を染めたのかは分からないが、涙目になった理由なら分かる。ブロンズちゃんは他の人が傷つくところを見たくないと思うほど優しい心を持った女の子だ。もしブロンズのせいでダストが巻き込まれたら、死ぬまで自責の年に苛まれることだろう。
心を読まずとも分かる。ブロンズちゃんが誰も傷つけたくない。誰かを巻き込むくらいなら自分だけが犠牲になると、でもそれを怖がってる面もある。そりゃそうだ。誰だって自分の身が危うければ誰かに助けを求めるなんて当然の行いだ。
そして複雑に感情が絡み合った結果、一度は俺に助けを求めるが、俺を巻き込みたくないからその場を離れた。
でも俺は、そんなブロンズちゃんを放ってはおけない。俺だってブロンズちゃんの傷つくところを見たくないからだ。それに赤髪ちゃんでもあおいちゃんでもゴールドちゃんでもなく、こんな1番頼りない俺に頼ってきてくれたんだ。逃げ出したい気持ちを優先して彼女にもしもの事があれば、俺はきっと一生後悔する。
『お兄ちゃん……』
『ブロンズちゃん……』
見つめ合う2人……端から見たら、将来を誓い合った者達の愛が爆発して唇と唇を重ね合わせる行為をする数秒前の光景にしか思えないだろう。俺自身もそうとしか思えなくなってきた。
『あらら、2人はまるで恋人同士ね』
突如、リア充(違うけど)の仲を割って入ろうとする声が横から聞こえた。
『誰だ――って、え……!?』
その声の主の姿を見て俺も本人も驚愕した。
その正体は、今、隣りにいるはずのブロンズちゃんそのものだった。
『え? ブロンズちゃんが2人!?』
キスしかけた方のブロンズちゃんと比べても、不適な笑みを浮かべている偽ブロンズちゃんは、顔も声も服装も全く同じだったが、雰囲気が本物のブロンズちゃんとかなり違っていたので、あっちが偽物だとすぐに分かった。
『え……私……?』
ブロンズちゃんも、この状況を受け入れられず、らしくなく混乱している。心を読んでもらおうと思ったけど、それどころでは無さそうだ。
『ねえねえ、お兄ちゃん?』
偽ブロンズちゃんが、本物のブロンズちゃんと同じ呼び方で俺に話しかけてきた。
『何だ?』
『私、誰だと思う?』
偽ブロンズちゃんが誰なのか、俺はなんとなく知っている。だが、今その正体を暴いたら、口封じのために俺達2人共始末されてしまう可能性がある。しかし、偽ブロンズちゃんは本物のブロンズちゃんに殺気を送っている。目的は分からないが、俺は俺よりもブロンズちゃんを助ける方を優先する。だって俺は――。
『……やっぱり、誰かに変装できる魔法を使ってるんだな』
俺は偽ブロンズちゃんの質問には答えず、話を逸らした。すると、偽ブロンズちゃんは、特にツッコむことなく、俺の質問に答えた。
『ええ、そうよ』
偽ブロンズちゃんからの舐め回すような奇妙な視線……その視線には僅かに殺気も感じる。そして……例の視線と同じものだ。
『君の正体は、もう知っている』
俺がそう言うとは思わなかったのか、偽ブロンズちゃんは、なぜそれを知っていると言わんばかりに表情を強張らせた。
『だからブロンズちゃんよりも、俺を狙った方が良いんじゃないか?』
『ちょっと、お兄ちゃん! やめて! お兄ちゃんを狙わないで!』
『黙れ! クソガキが! ぶちのめすぞ!』
偽ブロンズちゃんの突然の激昂と殺意に、クソガキ呼ばわりされたブロンズちゃんは怯えへたり込んでしまった。それほどまでにより強い殺意を浴びせられたんだろう。
さすがにこれではまともに話にならないと思ったのか、偽ブロンズちゃんは表情と口調を戻してこう言った。
『あらら、ふふ……まあいいわ。今は、あなたの方が気になるからね……』
『君の目的は何だ?』
『そんなことより、何で私の正体を知ってるの? そこの心が読めるクソガキから聞いたの?』
また表情がガラリと変わり、俺を激しく睨み付けた。
こいつの殺気……普通じゃない。
『ある男から聞いた』
『ある男? って、まさか……!』
偽ブロンズちゃんは、何か思い当たるようだった。もしかして、あいつの知り合いか……?
『ま、まあいいわ、今日の所は退いてあげる。ただし、お兄ちゃん……いや、ダスト! 私の正体は他の誰にもバラすなよ! そこのクソガキもだ! バラしたら……分かるな?』
偽ブロンズちゃんは俺に対しても激昂し、他の誰かにこの事を話したらただじゃ済まないぞと脅しをかけてきた。
『わ、分かった……誰にもバラさない』
『話が早くて助かるわ! じゃあ私そろそろ戻るね。私の大っきらいなお兄ちゃん。これからも皆の前では、いつもの私として接してね』
偽ブロンズちゃんは“いつもの自分”に戻るため、魔王城へと去っていった。邪悪な気配も完全に消えたので、俺とブロンズちゃんの緊張の糸が解けて力が抜けたからか、その場からなかなか足が動かなかった。
『ふぅ……ブロンズちゃん大丈夫?』
『……怖かった』
ブロンズちゃんは、ずっとアヒル座りで恐怖で震えながら、涙を流しながら俺の腕を両手で掴んできた。
『さっきも言ったけど、俺はずっとブロンズちゃんの傍にいるよ』
『お兄ちゃん……ありがとう。ずっと傍にいて』
『うん』
――それから1時間後……俺とブロンズちゃんはまだ魔王城へ戻らず、ずっと同じ体勢でその場に留まっていた。
『そろそろ魔王城へ戻る?』
と俺から言っといてなんだが、俺自身もあの殺意にはこれまでにはない恐怖を感じて、魔王城に戻りたくない気持ちが強い。
『……戻るの怖いよ……』
ブロンズちゃんは、より強く俺の腕を掴み、戻りたくない気持ちを現した。まあ無理もない。さっきのあいつが魔王城の誰かに変装してるなんて事実を知って、いつも通りにしてる方が難しいだろう。
『魔王城にいる間、極力俺がずっと傍にいるならどう?』
『それでも……怖いの……』
『そっか……』
これは、よほど心の奥にまで恐怖が浸透してるんだな。ブロンズちゃんは普段大人びているとはいえ年相応の女の子だ。ここまで怯えるのも不自然ではない。
『そうだ、俺とブロンズちゃんだけ、先に火の国に行くというのはどう?』
このまま魔王城に戻らないならいっそ、2人で駆け落ちでもしよう。大きな問題が立ち塞がることになるけど、ブロンズちゃんがこのまま怯え続けるよりかはマシだ。
『モンスターもいるのにどうやって火の国まで行くの? 1匹や2匹くらいならまだしも、私とお兄ちゃんじゃ、道中の全てのモンスターをかわしたり倒したりできるとは思えないわ。それにモンスターを全部倒せたとしても、結局火の国から帰る時は、全員一緒になっちゃうし……』
『まあ、そうなんだけどさ、心の準備はできるんじゃないかなと思って……でも、確かにモンスターがいるのが厄介だね……』
うーん諦めて、ここでブロンズちゃんを説得して、皆と合流するしか……。
『なら、私が先行組の君達についていくってのはどうだい?』
『ん?』
またしても茂みから誰かが現れた。邪悪な気配がしたさっきの偽ブロンズちゃんとは違う人物だ。
『アミさん!』
『よっ!』
アミさんは手を広げて挨拶した。
『何でここに?』
『ダスト君もブロンズちゃんも、どこにもいなかったから心配になってさ、それでブロンズちゃんの姿をした誰かが、君達に殺意を向けてたのを目撃しちゃってね……いざとなったら私が止めに入るつもりだったけど必要なかったみたいだね』
どうやらアミさんは、さっきの出来事を全て見ていたようだ。
『いや〜でもビックリしたよ、まさかあの魔王城の中に、君達に殺意を向ける奴がいるなんてね……』
『あの、アミさん、俺らについていってくれるって……』
『ああ、君達についていくよ。自分で言うのもあれだけど、私強いから』
アミさんは大きくて強そうな剣を掲げつつ、それを支える腕の筋力を見せつけてきた。
『ついていってくれるのはありがたいんですけど、アミさんは、それで本当に大丈夫なんですか?』
『大丈夫だよ! だって、さっきの君達を見てたら、放っておけなくてさ……魔王城にいる以上は、君達も家族だよ! 家族が困ってるなら、力になりたいじゃん?』
アミさんはキラーンと光るきれいな歯を見せながら、そう言った。
アミさん……マジ、良いお姉ちゃん過ぎる! これからは、アミ姉さんと呼びたい!
『お兄ちゃん、激しく同感するわ』
ブロンズちゃんは、俺の心を読んで何回も頷いてそう言った。
『じゃあ、私達は先に出発しようか。向こうはまだ準備中で時間かかりそうだし』
『そうですね……あ、でも皆には何て説明すれば……』
『私から言っておくよ……私が火の国の魅力を雄弁と語ったら、ダスト君とブロンズちゃんの逸る気持ちが抑えられなくなって、先に行っちゃったって言うから』
それはちょっと無理がある気がするけど、それで通すしかなさそうだ。
『お願いします』
『あの、アミお姉ちゃん……至れり尽くせりで申し訳ないんだけど、出来れば私の荷物が詰まったトランク、まだ部屋にあるから、持ってきて欲しい……』
ブロンズちゃんは小悪魔なつぶらな瞳でお願いしてきた。あざと可愛いなオイ!
この可愛さには、アミさんの心は奪われ、お願いを叶えざるを得なくなった。
『か、かわええ……あっ、お安い御用さ。今取りに言ってくるね。あ、あともう一つ。はい、これブロンズちゃん用の新しい武器だよ』
アミさんがそう言ってブロンズちゃんに手渡したのは銃だった。それもただの銃ではなく、魔力を込めることで、自分の思い描いた属性の弾丸を、発射させることができる優れものだ。俺もこういうの欲しい。
『ありがとう……アミお姉ちゃん……大好き!』
ブロンズちゃんは満面の笑みでアミさんに抱きついた。アミさんはブロンズちゃんのあまりの可愛さに、興奮した。
『ふおおおおおおおお! ブロンズちゃんホント可愛いな! よしよし! 何でもお姉ちゃんに任せとけ!』
『ホント? 大好き好き好き愛してる!』
『私も愛してるぞおおおおお!』
アミさんを見てると、ゴールドちゃんが、よくシルバーちゃんやブロンズちゃんに抱きついている時のテンションと酷似してる……というか、完全に一致してる。
『じゃ、じゃあ、魔王城の皆には説明したあと、荷物取りに行ってくるよ、あ、ダスト君の荷物も持ってくるからね!』
『あ、助かります、一応、俺もトランクには、既に荷物詰めてるので、ブロンズちゃんのと同様にそれを、そのまま持ってきてもらえればと思います』
『分かった! じゃあ、私が戻ってくるまで、ここに居てね! 森の中だけど、ここなら、モンスターも襲ってこないと思うし!』
あ、今、盛大にフラグを建てたような……。
『じゃあ、またあとでね!』
アミさんは、超スピードで魔王城に一旦戻っていった。
『……お兄ちゃん、さっきは、ありがとね』
『ブロンズちゃん?』
『もし私1人だったら、心が折れてた。でも、お兄ちゃんやアミお姉ちゃんがいたから、私、立ち直れた、本当にありがとう』
ああ、尊い……なんて可愛くて、美しい笑顔なんだろう……。
『もう、お兄ちゃん、あんまり褒めないでよ……私、心読めるんだからね!』
ブロンズちゃんは、俺のブロンズちゃんへの愛という名の心を読み、恥ずかしさで頬を染め目を逸らした。可愛い。尊い。
『ブロンズちゃん可愛いよ』
俺はどうせ心読まれるならと思い、口で直接言ってやった。
『ちょっ、ストレート過ぎ……もう恥ずかしいわ』
頬を染めて恥ずかしがるブロンズちゃん、マジ可愛い……!
『お兄ちゃん……』
ブロンズちゃんは恥じらいながらも、再び俺に目線を合わせてくれた。
再びお互い見つめ合う2人……この感情は何だろう……この動悸の激しさは一体……。その動悸の正体はすぐに分かった。さっきからドドドドドと足音が大きくなってきてるのを薄々感じていたからだ。そして、その正体は……。
『グオオオオオオオオオ!』
大きな猪型のモンスターが、戦いの始まりだと言わんばかりに雄叫びを上げながら現れた。
さっきアミさんがここらへんならモンスターは来ないからと言ってしまったばかりに、フラグを回収してしまった……。
『モンスター!? ここならモンスターは、襲ってこないはずよ!』
『あのモンスターは倒せる?』
『え、ま、まあ、確かにあれくらいなら……大きいとはいえ1匹だけだし』
これはちょうどいい機会かもしれない。修練場が壊れてるせいで、俺もまともに魔法の練習が出来なかったし。
『ま、まあ確かに、せっかくアミお姉ちゃんから、銃を貰ったんだし、試し撃ちしたいわ!』
ブロンズちゃん……アミさんが来るまでは、あんなに怯えていたのに、今はあんなに目を輝かせてる。頼もしい限りだ。俺も負けてられないな。
『グオオオオオオオオオ!』
目の前にいるモンスターはただの大きな猪だ。突進さえ気を付けていれば、そんなに脅威ではないので練習相手としては割と最適だ。
『お兄ちゃん、行くわよ!』
『ああ!』
俺は後ろに下がり、まずはこの魔法の杖で、簡易魔法を試し撃ちをすることにした。すると、魔法の杖の先から大量の炎や雷や氷が猪に直撃した。どうやら、この魔法の杖は手から出すより、はるかにスムーズに撃つことができるようだ。めちゃくちゃ使いやすい! 中級、上級の魔法も撃ちやすくなるってアミさんも言ってたし、今後が楽しみだ!
『お兄ちゃん、やるじゃない! 次は私の番!』
ブロンズちゃんは銃に魔力を込めて、銃口を猪に向けた。
『喰らいなさい!』
バン! バン! バン! と3発の、青く光る弾丸が猪の頭に直撃した。すると猪は力尽き、そのまま倒れた。
『よしっ!』
俺はブロンズちゃんとハイタッチをした。お互い気持ちよく攻撃できたから、とても嬉しい。
『さて、この猪どうしようか?』
『猪料理作ってあげようか?』
『え? 作れるの?』
『忘れたの? 私、一応料理人よ、そりゃ作れるわよ、まあ、ゴールド姉やシルバー姉の方が上手だけどね』
と、話していた途中で、先ほど倒したはずの猪がまだ仕留めきれなかったのか、震えながらもゆっくりと立ち上がった。
『あら? まだ息があったのね、もう1回試し撃ちを……』
『ちょ、ちょっと待って下さああああああい!』
突然、どこかから可愛い声が聞こえた。
『え、ブロンズちゃん、何か言った?』
『いえ、何も言ってないわ』
俺もブロンズちゃんも、誰だ誰だと辺りをキョロキョロと見渡してみたが、俺とブロンズちゃんを除いても、猪以外の生物はいなかった。そう、猪以外は。
『……まさか』
『降参ですぅぅ、あなた達に従いますので、もう攻撃しないで下さいぃぃ』
凶暴そうな顔つきの猪が泣いて命乞いをしている。てめら人間なんざ、全員腹の中へ入れてやるぜ! とか言ってそうなのに。
あと声がめちゃくちゃ可愛い! いわゆる“アニメ声”ってやつだ。この外見と声はあまりにもミスマッチすぎるだろ。
『あの……あなた人の言葉を喋っているけど、猪……よね?』
『そうですけど、違いますよぉぉ……私、元々は人間なんですぅぅ』
『なん……だと……!?』
第46話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、そろそろ出勤の日も近いので、早ければ6日、遅ければ、8日には、投稿したいと思っています。
宜しくお願い致します。




