第533話『橋本ルカは彼女が理解できない』
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精霊の星に降り立った領域外の女がいた。
それは美しき者。
全宇宙で1、2を争う絶世の美女。
艷やかで長い黒髪を靡かせて、現れた。
白のワンピースを纏いて、美しき部下を率いて、ただ当然のように自らの美しさを披露する。
『さて、この星に私を超えた美貌を持つ女はいるのかしら?』
ハイヒールを地面に刺しながら前に進む。
『全く……男どもはホント野蛮ね。だから男って嫌いなのよね』
特にイカロスを見ながらそう言った。
『イカロスと戦ってる、あの綺麗な羽の生えたあの人は何者かしら? なかなか強いわね。それに、とても美しい顔をしているのね。うん、私的にポイント高めね』
一方でオベイロンには勝手に高評価を与えた。尚、美女はオベイロンが男である事は知らない。
『さて、進みましょう。この星を征服して、全女性を私好みの美女に変えてあげるわ。え、男? 知らないわよ、勝手にしてちょうだい』
己の欲望を隠さないまま、ほぼ無人の街を歩いていく。
『待って下さい!』
そこで立ち塞がるは二人組の少女。橋本ルカとルカ・ヴァルキリー。瓜二つの容姿に誰もが双子と思うだろう。
『ここは通しません!』
年端の行かない少女ではあるが、勇ましく、それでいて信念がある。美女はそう感じ取った。何よりも――
『あなたたち……可愛いわね!』
ルカ達を見て、目をハートにする美女。彼女達の容姿にメロメロになったようだ。
『え……?』
想定外の反応を見せた敵に本気で困惑する二人。一瞬だが戦闘の緊張感はどこへなりへと消え失せてしまった。
『待っててね、今この私、パトライブ号艦長であるパトラがこの星を征服して、あなたたちを私の部下に加えてあげる』
二人を勧誘する名目で人形のように保護しようとするパトラ。女好きと分かった時点で嫌な予感しかしない。
ルカ達はどうであれ、この星を守る為に戦うことには変わりない。たとえ憎き故郷であろうとも。
『征服なんてさせません!』
剣を向けるルカ。術の準備をするルカ・ヴァルキリー。
『あら、私の邪魔をするの?』
先ほどとは打って変わって、刺すような殺気を放つパトラ。その視線にルカ達は思わず恐怖心を抱くが、戦意は削がれない。むしろ緊張感が再燃して、引き締まった精神で戦意に臨める。――はずだった。
『うぅ……なんで……なんでよ!!!』
突然声を荒げて涙を流すパトラ。
『え……?』
再燃した緊張感は、ロクソクの火に息を吹きかけるが如く消え去ってしまった。
『あの、何で泣いてるの……?』
美女の感情表現に本気で疑問に思うルカは、つい反射的にそう質問してしまった。
『だって、私……女の子が好きなんだもん!』
さらに滝のように涙を流すパトラ。最初の凛々しさはどこに消えたのか。ギャップ萌えを超えてもはや恐怖である。
『つまり、女の子には手を出せないと?』
『うん……無理。特にあなた達みたいな美少女には手を出せないわ……』
『び、美少女……』
美少女という最高の賛辞にルカ達は頬を赤くした。
『照れるもの可愛いわーーーーーー!!!!!』
限界オタクのように叫ぶパトラ。ペンライトでも持ち出そうものなら、本能慄くままに振り回すであろう。さらに泣き出すまでがセット。既に泣いてるが。
『…………どうしよ、これ』
火照った頬はすっかり色褪せて、代わりに困惑の表情を見せる橋本ルカ。しかし、ルカ・ヴァルキリーは、
『でも、この人悪い人なんだよね』
冷めたような表情をしながら、戦意を込めて両手を前に出す。
『ルカ・ヴァルキリー?』
ルカ・ヴァルキリーは今まで誰にも見せなかった冷酷な一面を顕にした。それはこの星を守る為なので正義と言える行為ではあるが、とはいえ戦意がない相手を一方的に攻撃するなんていつもの彼女らしくない。
『風の精霊よ、私に力を与えたまえ』
彼女の手の前に吸収されるようにいくつもの風が集まる。それはやがて球状に圧縮する。
明らかな攻撃に、パトラはそれでも同じ体勢で反撃する意志も回避する素振りすら見せない。
『悪いけど、みんなの為なの』
完全な正義に偏るルカ・ヴァルキリー。その目に偽りはない。ただ向かってくる敵は余すことなく排除する。そんなスタンスを今の彼女は掲げていた。
『ふっ……美少女に倒されるなら、本望よ……』
パトラは本気で死を悟るような顔をする。その場にいた部下は血相を変えて、彼女を守ろうとするが、突然石化してしまった。おそらくパトラの能力だろう。
『ごめんね、部下たち。私を守ろうとしてくれてありがとう。愛してるわ』
パトラは最後に石化した部下たちにお礼を口にした。
『本気なの?』
橋本ルカは、あまりに潔い彼女に疑問を抱く。これまで戦ってきた者たちは皆、少なからず欲望と信念を併せ持っていた。欲望という点ではパトラも負けず劣らずだが、それを諦めるどころか、命さえも差し出してしまう。
『ええ、ひと思いにやってちょうだい』
橋本ルカは彼女が理解できない。
(本当に何しに来たのこの人……?)
『…………』
この時、ルカ・ヴァルキリーに迷いが生じた。元々悪い人だからという理由で攻撃しようとしたが、彼女にとって、そこに膝をつくパトラは果たして本当に悪い人間なのか? 刹那、彼女の中で自問自答が激しく交差する。その結果、
『………………!』
ルカ・ヴァルキリーは手を降ろした。すっかり戦意も失い、せっかく蓄えた精霊の力も空気と化した。
『できない……私にはこの人を攻撃できない……』
膝をつき、涙を流すルカ・ヴァルキリー。何よりも冷たい氷に覆われた心もすっかり溶けてしまった。
ルカ・ヴァルキリーは冷酷になりきれなかった。
そんな彼女をパトラは優しく抱きしめた。
『……そう、あなたは人が殺せないのね。あなたは優しくて素敵な女の子。ありがとう』
刹那、パトラは懐からナイフを取り出して――
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