第532話『勇者少女の葛藤』
お待たせしました。
第532話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
橋本ルカの朝はそんなに早くない。
平日は大体朝7時30分に起床し、朝の支度を済ませてから学校へ行く。休日はもっと遅い。ルカ・ヴァルキリーも同様である。
しかし、本日に限っては彼女達のルーティンを大幅に破壊することになる。
『なに……?』
現在は午前5時10分。緊張感を刺激するようなサイレンに叩き起こされた。
窓の外を見ると、謎の円盤、逃げ惑う住民、慌ただしく飛び回る精霊達。これだけ見れば、状況を理解するのに時間はそれほど要らなかった。
『あれって宇宙人?』
『宇宙人が侵略してきたんだ。まさかこんなオカルトが実在してたなんて……クラスメートの花澤さんが聞いたら発狂する』
オカルト狂の花澤さんの発狂ぶりを思い浮かべるルカ・ヴァルキリー。
『そんなこと言ってる場合じゃないよ! ルカ・ヴァルキリー!』
橋本ルカは、ルカ・ヴァルキリーの手を握って、外に出ようとする。
『みんなを守るために戦うよ!』
『戦う……なんで?』
ルカ・ヴァルキリーは戦いに乗り気ではなさそうだ。
『だって、じゃないとみんなが……』
『みんなって、誰のこと?』
『みんなは……みんなだよ。この国の人たちを守らないと……』
どうしても正義感が唸る橋本ルカ。
『私を傷つけたのに?』
橋本ルカは、この世界での思い出がある。彼女の視点上、自分を助けてくれた者はこの世界の中では誰一人いなかった。
『……うん、分かってるよ。あなたも私だものね。でもね、私を傷つける人はもうここにはいないの』
この世界に戻ってきてから、親切にしてくれたメイド、保護してくれたオベイロンを思う。
『………………』
彼女はこの世界に特別な思い入れはない。むしろ精神に害を及ぼす程の悪影響すら存在する。その思いは変わらない。今更どんなに親切にされようが、そのトラウマが消えることは決してありえない。
だが、それでも――
彼女を照らす光は、この世界にもあった。その事実があれば、助ける理由の一つは存在するのだ。
『そっか……そうだよね。でも分からない。だとしてもこの国を助ける義理はあるの?』
お客様扱いの彼女達に、国の防衛の義務は全くない。もし、義務があるのなら今頃オベイロンが彼女達を叩き起こし、戦場へ送り出しているだろう。
しかし、彼女達はここにいる。まるで守られているように。
『義理はないよ。これは私の善意……いやわがままだ。私が助けたいだけなんだ』
『助けたいの? こんな薄情な人たちなのに?』
『薄情? だからそんな人たちはもういないって――』
『嘘だ。他の住民はもうとっくに避難誘導されているのに、何で私達だけここに取り残されているの?』
本来であれば、お客様である彼女達も避難誘導されているはずだ。しかし、誰の何の説明もなく彼女達はここに取り残されてしまった。
『そ、それは――』
橋本ルカは、必死に弁解する手段を頭に浮かべようとするが、突然現れた小さな疑問が徐々に膨れ上がり、この世界の精霊達への不信感が募ってしまう。
(確かに、なんでだろう……? オベイロンさんは何で私達を避難させずに置いていったんだろう?)
『あ、そういえばディーンさんは?』
『探してみよう』
二人は豪邸内を探し回ったが、オーガスト・ディーンどころか、人っ子一人見当たらなかった。
『いない……』
『そっか、ディーン先生は避難したんだ。やっぱり私達はこの世界では嫌われ者なんだ……』
ルカ・ヴァルキリーの心は完全に折れた。オーガスト・ディーンに裏切られただけではなく、精霊達への疑念を晴らそうとすればするほど、逆に曇ってしまうこの状況に、もはや弁解する余地もない。
しかし、同じ彼女である橋本ルカは、
(ディーンさんが私達を置いていった? あのディーンさんが? 本当に? ……ありえない)
『いや、違うよルカ・ヴァルキリー』
『え……?』
『だって、ディーンさんが私達を置いて逃げるわけがない!』
オーガスト・ディーンと橋本ルカは、まだ短い付き合いだが、家族のように共に笑い、同じ屋根の下で暮らし、そして学び舎ですら一緒だ。互いの絆はより深まっている。
彼への理解が深い彼女だからこそ、信頼関係が崩れる未来が見えないのだ。
『……そっか。確かにディーン先生はそんなことしない』
ルカ・ヴァルキリーも彼への信頼は厚かったが、それでも一瞬疑ってしまった自分に嫌悪感を覚えた。
だが、これで精霊達への疑惑が晴れたわけではない。結局見捨てられている事には変わりないからだ。
『でも、私はまだオベイロンさんたちを信頼できない』
『うん』
『だけど、ディーン先生が戦ってるなら、私も行くよ』
『うん! うん! 行こう!』
二人は豪邸から飛び出し、未確認飛行物体の元へ精霊の力で空を駆ける。
オベイロンも含め、既にあちこちで戦闘が起きている。加勢しに割り込んでもよかったが、彼らのプライドに関わりそうなので、誰も相手にしていない宇宙人を探す。
すると、
『あ、あれ! あの円盤から誰か降りてくる!』
5つあるうちの1つの円盤から直線の光。その中にシルエットが2人。その2人には精霊軍の誰も対応できない状態だ。
『行こう!』
第532話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




