第45話『壊れた歯車』
お待たせしました。
第45話できましたので、宜しくお願い致します。
※2022年6月19日改稿しました。
※文字数多めです。
『まず、聖剣って何の事か分かる?』
聖剣といえば、アニメやゲームで死ぬほど聞く単語だが、あくまで物語上での重要な武器だとか、攻撃力が上がる剣くらいにしか思っていない。
だから、本来の聖剣の意味を説明しろと言われても、聖なる剣ってなんか厨二心がくすぐられて、めっちゃかっこいいよねとしか言えない。
記憶を失う前の俺だって、それに関しては全く知識がないし、色々な事を話したがりの親友だって、一度も聖剣という言葉を口にしていない。
『えっと……神から授けられた聖なる剣みたいな感じですか?』
『まあ、そんなところよ』
あ、それでいいんだ。だとしたら異世界でいう聖剣のイメージに近いんだな。
『――でも、その剣を持つにはある資格がいる。その資格というのはね、壊れた歯車を持ってるかどうかなの』
『ワールド……キャンサー?』
『壊れた歯車とも呼ぶわ』
『壊れた歯車……!?』
聞き馴染みがある単語に、俺は驚愕の色を隠せなかった。それはまさに俺が持ってるやつだからだ。
ん、赤髪ちゃんがその聖剣使いと呼ばれていたということは……?
『赤髪ちゃんも、“壊れた歯車”なんですね?』
『そうだよ』
そっか。じゃあ赤髪ちゃんもあの男の声が聞こえたりするのかな。
『そもそも壊れた歯車って何の事か分かるかい?』
『壊れた歯車は、俺のように協調性もなく思考回路が異常な人間の事だと、ちょっと前までは思ってました』
『確かに壊れた歯車を持つ者は、思考回路が異常な人間が多い。でも、それだけじゃない』
『それだけじゃない……?』
『うん、思い出したくないかもしれないが、ベンリ街へ行った時の事を思い出してほしい』
『……思い出したくない? えっと……武器屋でアミさんと会って……合う武器が無くて落ち込んで……』
『その後だよ』
『その……後……?』
――あれ? あの後は……あ、そうだ。
『思い出しました。俺の大嫌いな奴に会って、暴行されてしまったんですよ……』
『違う、更にその後!』
『え? 更に……その後……?』
……………………………………………………………………?
全然思い出せないんだが。
『何かありましたっけ?』
『あれ? 思い出せないの? うーん、ということは……』
『どうしました?』
『いや、何でもない。忘れて』
『分かりました』
でも俺自身も何か違和感がある。記憶に穴が空いているような……何か思い出してはいけない何かが鎖でつながれているような気がしてならない。
『コホン、話を戻そうか』
『はい』
というか、壊れた歯車は俺が考えたオリジナルの単語かと思ってたんだが、まさか、この世界でも使われていて、しかもワールドキャンサーとも呼ばれていて、挙げ句の果てには、特別な力を持っている……か。
とんでもない偶然だな。これを名付けた奴は俺と同じような思考なのかもな。話し合ったら案外気が合ったりして。
『壊れた歯車はね、大体100万人に1人の確率で現れると言われてる』
『そんなに低い確率なんですか?』
『まあ、そう言われているってだけで、確証はないよ。ただ、この世界全ての人口と壊れた歯車持ちの人口を対比させたら、大体そのくらいだってだけだよ』
『なるほど』
つまり壊れた歯車を持った人間は神に選ばれた人間だと言うことか。
重度の厨二病を患った者なら、自分が特別なんだと歓喜するだろう。
俺も厨二病ではあるが、実際は面倒な事ばかりだし、珍しい特性だから共感できる人は少ないし、正直もううんざりしている。
『で、その壊れた歯車持ちの人間が聖剣を持ったら……どうなると思う?』
まるで結果が混ぜるな危険になりそうな聞き方をされて、俺は思わず固唾を呑んだ。
『どうなるんですか?』
『聖剣から溢れ出る聖なる力によって、心身共に服従させられる』
『服従……?』
『そうさ、まるで聖剣に心を乗っ取られているみたいにね。まあ聖剣といっても種類があるから、ちょっと違うのもあるかもだけど……赤髪ちゃんが手にした聖剣は……残酷で容赦なくて、全てを破壊する化身のようだった……』
それからアミさんの声は消えゆくように弱くなっていった。親しい仲とはいえ他人事でもあるアミさんが話す事を拒んでいるようだった。
それでも俺は必死にアミさんの話を全部聞き取りきった。
――どうやら、聖剣に操られた赤髪ちゃんは破壊兵器のように使い回され、敵国であれば例え戦えない大人でも老人でも、子供でさえも――
その聖剣という名の狂気の刃の血肉となったわけか。本人は決してそれを望まないのに、増してや赤髪ちゃんは変態でも心優しい人間なのに……そんな人に老若男女を殺させるって……。
そんな沢山の十字架を背負う彼女は、俺達にそんな悲壮感を一切出させずに、毎日を過ごしているんだな……。
赤髪ちゃんの笑顔を思い浮かべるだけで胸が痛い。この時でさえ罪の意識が常に心を苛むはずだ。
そんなの……俺だったら耐えられねえよ。
『酷い話だろう?』
『ああ……許せねえ……正義教団!』
――もし正義教団の連中に会うことがあれば、もれなく全員ぶちのめしてやりたい。俺は正義教団に対する怒りで手を強く握りしめた。
『おっと、そろそろ武器の調整をさせてほしいであろうゴールドちゃんあたりが痺れを切らして、私を探す頃だろうし、続きはまた今度でいい?』
『はい、分かりました。あ、赤髪ちゃん本人には、俺にこの話したこと秘密にした方がいいですよね』
『そうだね、よろしく頼むよ』
『はい』
出発の時間までまだ余裕がある為、外ではあまり撃てないけど俺は魔法の練習を、アミさんはなんと全員分の武器の調整や調達をしてくれたようだ。
アミさんがゴールドちゃんに会いにその場をあとにする前に、俺は最後に気になることを質問した。
『あの、最後に1つだけいいですか?』
『いいよ、なに?』
『アミさんは魔王とどういう関係なんですか?』
『あー、私、元はここの魔王城の幹部だったんだ』
『え!?』
『当時の私の武器屋の店主は私のお父さんだったんだけど、ある日お父さんの病気が進行しちゃって……仕事ができなくなっちゃったから、私が店主引き継ぐしかなかったんだ。お母さんは武器とかさっぱりだから、とてもじゃないけど武器屋を引き継ぐのは無理だったし……だから私がやるしかなくて、一旦魔王城を抜けることになったんだ』
『へえ……そんなことが』
だから、みんなアミさんの事を知っていたのか。アミさんもこの魔王城の事をよく知っていたようだし。
『赤髪ちゃんも、あおいちゃんも、ゴールドちゃん達も、そして魔王も寂しがってたね……あの時の忌々しい血のお別れ会事件が懐かしいよ……』
アミさんが空を見上げて、悟ったようにそう言った。
いや待て、血のお別れ会事件って何だ?
気になってしょうがないんだが。何があったの?
『だから魔王が突然いなくなったって聞いてさ……ちょっと不安になったんだ……まあ、あの魔王の事だから大丈夫だと思うけどさ……でも、魔王……いや、まーちゃんは、私の妹みたいなものだから……もし、万が一の事があったら……いなくなって欲しくないんだ、あの娘には』
アミさんはまたしても一粒の涙を流した。どうやら、アミさんと魔王の間には、俺が思った以上に絆が深いようだ。
『あ、ごめんね。私、泣いてばかりで……』
『いえ、あの……絶対、魔王を連れ戻しましょうね!』
『うん!』
アミさんは涙跡がくっきりと残ったまま、笑顔で返事をしてくれた。
俺はアミさんの為にも、みんなのためにも、魔王を絶対に連れ戻そうと、改めて意識を持ち直した。
『じゃあダスト君、魔法の上達、頑張ってね!』
アミさんは、またしても2つの胸を揺らしながら両手でガッツポーズして、俺にエールを送ってくれた。可愛い。
『はい!』
アミさんは満足げにその場をあとにした。
そういえばもう1つ聞きそびれたことがあったな。失礼だと思って聞かなかったけど、年齢いくつなんだろう?
『20代前半くらいらしいわよ』
真横からよく聞く可愛らしい声が聞こえた。
鼻腔をくすぐる香水の香りを漂わせている美少女が、いつの間にか俺の側にいた。
『ブロンズちゃん!? いつからそこに?』
『今、さっきよ』
『そ、そうなんだ』
俺がアミさんの話に脳が囚われていたからなのか、何の気配も音も耳に入らなかった。
しかも、ブロンズちゃん。また無防備に胸を当てながら、俺の腕を組んで離れようとしない。
端から見たら、まるで熱々のカップルだ。公園の裏でイチャイチャしてる彼氏彼女にしか見えない。
『……早く気付きなさいよ』
ブロンズちゃんはボソボソと何かを呟いたが、何を言っていたのかは分からなかった。
『え? 何か言った?』
『何でもないわ……それより、お兄ちゃん、今から魔法の練習するの?』
『あ、ああ、そうだよ』
『ふ、ふーん……』
ブロンズちゃんは頭を俺の腕にくっつけて、更に密着しようとする。
何かいつもと様子が変だ。焦っているような、落ち着かないような、辺りを見回して何かを警戒しているようだった。
俺はブロンズちゃんに、どうしたの? と聞く前に、俺の心を読んだ彼女が問いに答えてくれた。
『……ねえ……もし私が今、誰かに狙われてるって言ったら、どうする?』
『え……!?』
第45話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、明日か明後日には投稿する予定です。
宜しくお願い致します。




