第522話『もう桜の季節か』
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――それから一週間が経過した。その間、一度魔王城に戻って、修行したり、彼女達と楽しく有意義に過ごした。ルカちゃんとカヴァちゃんもゴールドちゃん達と仲良く過ごせたようだ。
そして、ついに今日、世界線の転移の準備ができた。
《ラピスとラズリの研究所》
まるで卒業式を迎えるような気分だ。
『ダストっち〜ルカ〜カヴァ〜、元気でな〜!』
『寂しい……』
在校生のように泣き出す後輩たち。昔のアニメみたいな滂沱の涙をかもめ状に垂れ流している魔王。少しだけ微笑みながら見守る双子。
そして、俺達は旅立つ時が来たのだ。
転移の方法が異なるルカちゃんとカヴァちゃんも、俺と同時に元の世界に帰れるようなので、卒業式ならぬお見送り会が執り行われているわけだ。ご丁寧に紅白幕まで貼り付けている。
全く……やれやれだぜ。
俺からは特に贈る言葉はない。ここに来るまでに既に一生分の話をしたからだ。
『ん?』
別れと始まりの象徴である桜の花びらが、どこからか流れてきた。確かにこの世界では、ちょうどそういう季節だが、たまたま窓が空いていたのだろうか? それとも粋なはからいってやつかな。
こんなふざけた世界だが、この光景は、とても綺麗だ。
『綺麗〜』
宙に踊り狂う桜の花びらに感動する女子達。彼女達の視線を卒業生の俺達から見事に奪ってみせた。憎い奴め。――だが、それは俺も同じだ。
――風に翻弄されながら、桜の木に別れを告げながら、存在感をアピールしながら、花びらはどこまでも舞っていく。たとえ最終的に地面に落ちようとも、屍のように踏まれようとも、どこまでもどこまでも、人々の門出を祝ってくれることだろう。
時計の針が戻らない以上、先に進まなければならない。どんなに恋しい時間だろうと――
だけど、その時過ごした思い出だけは、いつまでも心の中に残っていく。忘れない限り、それは時々顔を出して、笑ったり、悲しんだり。
あぁ、でも、やっぱり寂しいな。
まさか、こんな俺がこんな気持ちになるなんて思わなかった。友達も恋人もいない、むしろ敵だらけだった俺には、この光景は眩しすぎる。
『お兄ちゃん……』
少し悲しそうな顔をするブロンズ様。
『ブロンズちゃん……』
この時、彼女がどう思っているか分からない。寂しいのか、それとも憐れみの目を向けているだけなのか。
『時空のゲート開くよ』
ラピスが空中に手をかざすと、そこから渦巻き状に空間が歪み、時空のゲートができあがる。その中には宇宙を思わせる光景が広がっている。
『ルカとカヴァはこっちに』
『ダストはラズリのところに』
俺は意識だけがここに来ている状態らしいので、時空ゲートではなく、魔法によって意識を元の世界線に戻すようだ。
それぞれ配置についた。一歩踏み出せば、いよいよ別れの時だ。
『じゃあな、みんな』
俺は手を振った。
『じゃあねーーーーー!!!!!』
『また遊びに来いよーーーーー!!!!!』
『ありがとうございました!』
『お兄ちゃん……ルカちゃん……カヴァちゃん……大好き!!!!!』
たくさんの笑顔に、綺麗な花びらに囲まれて、俺達は元の世界線に帰っていったのだった。
さらばだ、平和で優しい世界。どうか、この先も最高の快楽をもたらしてくれますように――
――――――――――
《???》
さて、みんなは知ってるかな?
“精霊”を。
はるか大昔のことなんだけど、人間界だった世界に“妖精”が現れたんだ。その妖精が人間界を支配しようとすると、人間側もそうはさせないと反抗したんだけど、ダメだった。それも当然さ。妖精が強すぎるんだもん。
敗北した人間は、妖精の支配下に置かれた。けれど、妖精達も鬼じゃない。逆らわない人間には特別何もしなかった。いつも通りの生活を保障してくれた上に、良い結果をもたらしてくれた者には、それに見合う報酬をくれた。
逆に人間のみだった頃は、どんなに結果を出してもトップの人間が甘い汁を独占するだけで、何にも与えてくれなかったんだ。ひどいよね。まるで君の世界のようだ。
多分だけど、妖精達は私利私欲で人間を支配したかったわけじゃなくて、虐げられた人々を助けたかったんじゃないかなって思うの。少なくとも私はそう思うな。
でもね、そう思わない人の方が多かったんだ。
人は妖精から魔法のような力を教わったんだ。より便利に楽に生きていけるようにね。
でも、それがいけなかったんだろうね。
ある時、人は妖精に反逆し始めたんだ。
なんでだろうね。あれだけ親切にしてもらったのに。支配されたとはいえ、助けてもらったも同然なのに。
いいや、反逆したのは助かってない人達か。今まで人を奴隷のように扱い、甘い汁を独占してきた愚かな人類。その人たちが妖精から過去の栄光を取り戻そうと躍起になったのだろう。
そいつらが、目を盗んで妖精を殺し始めたんだ。
ある者は殺戮を、ある者は洗脳。
妖精側も黙っていられず、反撃した。
妖精と人間の戦争。結末は――
引き分けさ。
妖精側も人間側も半分以上失った。文明も7割近く滅びた。
残された者達には戦意はない。これ以上は戦わなかった。
けれど、妖精と人間が戦争したという事実は後世に残る可能性は高い。だから、妖精は妖精と名乗るのをやめた。
代わりに成ったのが――
“精霊”さ。姿形を変えたわけじゃないし、その時代の者達からすれば、種族名を変えただけ。何の意味もないかもしれない。
でも、彼らはね、戦争そのものにうんざりしていたんだ。だって戦えば、未来を生きるはずの者が沢山いなくなるんだから。そんなの妖精だって人間だって悲しいだけじゃないか。
だから、これから先の子孫達が互いに戦争を起こさない為に、互いの怨念をこの時代に置いてきたんだ。
これがこの精霊世界の真実さ。
最初に言ったけど、これは大昔の話。今を生きる精霊と人間は誰一人としてこの話を知らない。
うん、それでいい。それでいいんだ。
だって、今は平和そのものだろう? 命懸けの戦いなんてないほうがいい。
まあ、中には殺人衝動が強い者が紛れてるけど、それでも異種族同士の争いはほとんどない。侵略等は別だけどね。
え? 何でこの話を君にしたのかって?
だって、君がちょうどここに来たからだよ。
え? ここはどこ? だって?
『ふふふ……ようこそ精霊界へ』
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