第520話『銅色の恋』
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第520話の執筆が完了しました。
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※文字数少し短めです。
《心を読む少女の想い》
分かってる。今そこにいるお兄ちゃんは、この世界のお兄ちゃんではないから、元の世界に戻らないといけないことは。
彼がここに居続けるということは、本来のお兄ちゃんは眠ったまま目を覚まさない植物状態同然だ。当然そのままではいけない。私も彼が眠ったままなのは困る。
それでも、私はもっとお話したかったな。たとえ彼が彼ではなくとも、私は彼とは別に目の前の“彼”と、仲良くなりたかった。何回でも何十回でも、百、千、万……デートをしたかった。
――思えば、私と彼との出会いは唐突だった。ああ、その彼というのは、今目の前にいる彼ではなく、本来の彼のことだ。
彼とは、私が魔王城に来たばかりの頃にお世話になった人だ。つまり、私にとって彼は先輩であり、上司でもある。だけど、魔王城の方針上、家族のように接するようにしている為、本当の兄妹のように共に過ごしてきた。が、私が彼を兄ではなく、異性として意識し始めたのは、私が魔王城に来てから数ヶ月の事だった。特段ビジュアルが良かったわけではない、聖人でも人格者でもなく、頭はそこそこ良いくらいで、それなりに強い人だ。客観的に見ても、魅力的な人間とはいえないだろう。でも、一緒に過ごしていたら、気づいたら好きになっていたのだ。
その彼は私が来る前から魔王城の幹部として、世に蔓延る悪を倒し続けていた。そもそも魔王というと、悪の組織というイメージが強いが、そうではなく、何らかの理由で職が決まらない者が集まる組織だ。たとえば冤罪をかけられて身を潜めたい者や、集団行動が苦手な者等、様々だ。
――まあ、これは昔の話。私が来た頃には、魔王城のメンバーは、私含めて7人のみ。何故少なくなってしまったかというと、どうやら昔と比べて、今の世の中は働き方が大きく変わり、どのような人物であれ、働きやすいような環境が作られた。冤罪に関しても、ロンドディウム王国のルシウス様が裁判の法律を変えて、冤罪者を一切出させないように動いてくれたからだ。
具体的には、被告人の本当か嘘かを正確に暴けるように、魔法を用いたマジックアイテムをラピスさんとラズリさんが開発し、世界各国に普及したそうだ。
かつての世界の脅威を退いたルシウス様は、冤罪者を出さず、個性を重んじる優しい世の中を作り出した大英雄だ。文明が一斉に壊滅しない限り、ほぼ確実に後世に語り継がれる存在と言えるだろう。
私が生まれた頃には、既にそういう世の中になっていた。故に私は暗黒時代を知らない。魔王城が人で賑わっていた時代を知らない。昔の彼を知らない。
恋は病だとよく言ったものだ。私は彼の知らない情報を知りたい、知り尽くしたい。私の頭の中に一生保管したい。本気でそう思ってしまうくらいに貪欲だ。他の人間にはこれほどの執着は無いのに、彼だけは、彼だけは私の物にしたい。これを病と言わずなんと言うのか。
私が恋するのはあくまでこの世界線での彼、違う世界線から来た彼ではない――はずなのに、私は彼の事を想ってしまっている。だって、その振る舞いも性格も、何かもかもが彼と同じだもの。まあ、同一人物だから当然ではある。
だからこそ、今とても苦しい。もう僅かな時間で彼が去っていく。旅行から帰るのとは訳が違う。元の世界線に戻るのだ。一度こちらに来れたとはいえ、本来ならあり得ない事態だ。ルシウス様は遊びに来いよと言っていたが、彼はおそらく世界には二度と来ないだろう。本人がそう言っていたわけではないが、直感的には分かる。
――さみしい。私はきっと彼と離れたくないのだろう。
理解はしている。
理解はしている。
――でも、私は、私は、私は……お兄ちゃんを私の物にしたい――
――ううん、それじゃあダメ。彼には彼の帰る場所がある。そこには大切な人達がいる。違う私もいる。奪っちゃ可哀想よ。分かるわ。だって私だもの。愛しの彼がいなくなるなんて考えられない。
私は貪欲だ。でも、度が過ぎたらただの傲慢。盗賊が誰かの大切なものを奪うように、私が彼を奪うわけにはいかない。
だから――ここで大人しくお別れをするの。彼が彼の未来を救うために、大切な人達を守るために。引き止めるのではなく、今後の健闘を祈るの。応援するの。そうでなくてはいけない。そうしなくてはいけない。
……。
……。
……。
涙腺が熱い。でも、でも、
うん、辛いけど、引き止めたいけど、
分かってる。
うん。
さよなら、別の世界線からやって来た素敵なお兄ちゃん。バカでスケベなお兄ちゃん。強欲で貪欲なお兄ちゃん。
でも、あなたは私にとって――
あぁ――あなたの旅路に、どうか輝かしい幸福が訪れますように。
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