第488話『ヴァルハラの日常風景(修行)』
大変お待たせしました。
第488話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※エピソードタイトルの〇〇話の話が抜けてたので、修正しました。
――ヴァルハラの森の中にて。
これはこの森の管理者のエフちゃんが見守る日常風景の一つだ。
セカンド・ドライヴが、弟子のヒルド、槍使いの青年ヘラクレスに修行をつけるワンシーンだ。
今回はヒルドとヘラクレスがペアを組んで、セカンド・ドライヴと実戦しているようだ。
『はああああああああああああああ!!!!!!』
槍使いの青年ヘラクレスが、セカンド・ドライヴめがけて槍を真っ直ぐに放つ。
それをセカンド・ドライヴは最低限の動きだけで難なく回避する。
逆に隙ができたヘラクレスの脇腹に拳を打ち付けようとしたが、その拳にどこからか放たれた弾丸が命中し、皮膚を僅かにえぐった。
めり込んだ弾丸を抜くためにパンチをキャンセルし、一旦後ろに下がってから弾丸を引っこ抜いた。
『ふむ』
前回の試合よりもヒルドの弾丸の威力が上がっている。弾丸は込めた魔力によって威力を変えることができる。ヒルドは元々探究心が強い。試行錯誤で実験していたのだろう。それが今、この結果に繋がっているのだ。
ヒルドは前に試合した時に不安定な一面を見せていたが、今はそんな気など一ミリも感じない。ただ強くなる為に仲間と共に本気でセカンド・ドライヴを倒すつもりだ。
その仲間というのが、ヘラクレス。彼も同じく試合後も修行に集中し、相当の成長を遂げた。
そんな彼が放つ槍は、鋼鉄の盾すら簡単に貫けるほどの威力を誇る。
『はああああああああああ!!!』
ヘラクレスの槍が空気を裂くように放たれる。
セカンド・ドライヴはそれを跳躍して回避する。
空中で無防備になった瞬間、ヒルドの銃弾が連続で放たれる。
射的のズレなど一ミリもない。標的の降下速度と弾丸の速度を正確に計算したわけではないが、彼女の経験が、熟練度の高い連弾を繰り出すことができた。
軌道を走る弾丸は全てセカンド・ドライヴの急所に当たる事は確定だ。
このままでは致命傷どころではなく敗北を味わうことになるだろう。
セカンド・ドライヴは力いっぱい拳を振りかざすと、風圧だけで全ての弾丸を吹き飛ばした。
それだけでは済まず、周りの木は次々と倒れ、大地はヒビを起こした。
『くっ……!』
『なんて威力だ……!』
二人も足が地面を抉ってしまう程うしろに後退してしまった。セカンド・ドライヴのパンチ一つでこれほどの影響を及ぼした事に驚愕を隠せなかった。
だが、絶望したわけではない。そもそも二人は最初からセカンド・ドライヴの強さは理解しているつもりだ。
『すごいけど、相手は師匠だもん。これくらい当然だよ〜』
『ヒルド……ああ、そうだな。むしろここから燃えてくるってもんだ!』
不屈の闘志が彼らを再び戦場へ送り込む。
とはいえ相手の力量が生半可なものではないのも確か。ヒルドもヘラクレスも熱い心を持ってはいるが、冷静さを捨てきれない。
このままでは勝てないという事実は彼らに大きな負担を与えている。
二人はお互いに頷き合うと、ヒルドは後ろに下り、ヘラクレスは退かずに槍を振り回すパーフォーマンスを披露する。
『雷魔法』
ヘラクレスは槍の刃の部分に雷を付与し、猛突進でセカンド・ドライヴに攻撃する。
『無駄だ』
セカンド・ドライヴはヘラクレスの攻撃を回避し、腹に強烈な拳をぶつける。
『ぐあああっ……!!!』
意識が飛ぶほどの致命傷を喰らったヘラクレス。戦闘続行は困難だろう。
無論ヘラクレスの耐久力が無さすぎるわけではない。むしろ他の人と比較すると、かなり耐久力がある方だ。
相手が強すぎるのだ。まともに真正面から向かった時点で負けが確定する程だ。だからこそ大会の時に、彼と戦ったダストは事前に仕込みを入れた上で挑んだのだ。
一方でヒルドとヘラクレスは一切の仕込みなしで、真正面から挑んでしまっている。仕込むとすれば、戦闘中に状況に合わせてフェイクをしかけるくらいがせいぜいだろう。
『………………うっ…………………………ぐっ……………………』
落ちかける意識をギリギリ保とうとするヘラクレスだが、もはや時間の問題だ。
一方で彼の持つ雷の槍は未だに戦意があふれるようにビリビリと電気を垂れ流している。
『勝負あったな。あとはヒルドだが、どこにいる?』
辺りを見回してみるが、ヒルドの姿はない。
しかし、彼女に限って逃げ出すなんて事はありえない。ということは、どこかで隙を狙って撃ってくると考えた方が自然だ。
(どこに隠れた?)
セカンド・ドライヴが首をあちらこちらに振っている間にヘラクレスはとうとう槍を手放し、そのまま意識を失ってしまった。
すると、その槍の刃の部分がちょうどセカンド・ドライヴの肩に寄せるように倒れようとしている。
雷をしっかりと纏っている槍に当たれば、セカンド・ドライヴといえど、しっかりとダメージを受けることになる。
『おっと』
無論、危害を加える槍に肩を貸すわけにはいかない。横に避けて槍が地に落ちる様を見届けようとする。
しかし――
突然槍が引き寄せられるように、セカンド・ドライヴの肩に突撃する。
『なに!?』
回避する間がなく、雷を喰らうセカンド・ドライヴ。
『ぐっ……!』
(なぜ槍が動いた!?)
槍の柄の部分をよく見ると、微かにヘコみがあり、そこから煙が少し出ていた。
どうやら、倒れる槍の柄に弾丸を撃ち込むことで、セカンド・ドライヴの方へ倒れるように仕組んだようだ。
(これは……無音の弾丸……ヒルドのしわざか!)
犯人が分かった頃にはもう遅い。その犯人はいつの間にか姿を現し、相変わらずの無表情で銃口を向けた。
『師匠〜チェックメイトだよ〜』
表情は変わらないが、どこか嬉しそうに弾丸を放った。
しかも今度は弾丸は弾丸でも“水魔法で作った弾丸”だ。全身に雷が纏っている状態で水を加えれば――
『うっ……うおおおおおおおお!!!』
さらに大きなダメージを負う。
『どう〜? さすがに効くでしょ?』
煽るように聞くヒルド。
『ああ……これは、やられたな』
一本取られたのに、どこか満足そうに笑うセカンド・ドライヴ。純粋に弟子の成長を喜んでいるのだろう。
『やった〜!』
賛辞同然の言葉を貰い、喜ぶヒルド。ただし無表情だが。
しかし、それでもヒルドは最後までセカンド・ドライヴから目を離していない。
彼女の本能が囁いている。これだけでは師匠を倒しきれないと。
『ふっ、まだ銃口を向けたままとはな……お前は慢心しないのだな』
『油断大敵だからね〜』
『そうだな。お前の言う通り、俺はこの状態でもまだ戦える。ヒルドを倒すことも容易だ』
はっきりと自分の実力を口にする。
『やっぱりそっか〜。ならもう降参かな〜』
ヒルドはどこか悲しそうに、銃を下に落として、両手を上げた。
『うむ、ここまでにしよう。だが、落ち込むことはない。俺にここまでのダメージを負わせたのだ。試合の時とは違い、精神を安定させた上で』
さらにセカンド・ドライヴは、倒れたヘラクレスの方を見て、
『ヘラクレスも以前とは比べ物にならないほどに強くなっている。俺に一人で真正面から挑んだのも、咄嗟に思いついた作戦だったのだろう? 見事な連携だったぞ』
『でも勝てなかった〜!』
ヒルドは地べたに座り込んで、大きな声で愚痴をこぼす。
『落ち込むなと言ったはずだがな……。まあ、でもそれでいいのかもな』
セカンド・ドライヴは、背中を向けて歩き出す。
『師匠〜?』
『強くなれ、ヒルド、ヘラクレス。いつか俺を倒してみせろ』
『うん、必ず』
こうして今日の修行は終わった。
確かな成長を胸に、前に進むのであった。
――その夜。
意識を取り戻したヘラクレスは、休む間もなく、読書しながら筋トレをしていたという。
そして、さすがにノルン様に身体を酷使しすぎだと怒られた。
罰として“シュヴァルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”を食わされたという。
第488話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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