第487話『金色の希望』
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『寒いな』
寒空の下、大きめのコートとマフラーを纏った彼女がそう呟いた。
ヒューっと風が次々と通行する。その度に自前の金髪が風に連れられるように靡く。
『銀河と銅は今頃楽しんでいるんだろうな』
白鳥三姉妹は、ダークの嫌がらせ騒動が沈静化してからしばらく経ち、ようやく護衛なしで行動できるようになったので、学校にも通えるようになった。
二人の妹はそれぞれ仲の良いクラスメートと遊ぶ約束があるとのことで、別行動をしている。
黄金は、これまでの素行や性格上どうしても独りになることが多く、とても友達など作れるような状態ではない。
『買い物してから帰るか』
宣言通り、夕飯の用意をしてそのまま何事もなく帰宅した。
『ただいま』
帰宅宣言をするも誰からも返事はない。当然だ。今は誰もいないのだから。
『……』
少し前まではマーリンの家に住んでいたが、騒動が完全に落ち着いたので、我が家に戻ってきた。
完全にいつもの日常を取り戻したはずなのだが、彼女の心は沈黙したままだ。
『別に寂しいなんて思ってねえけどよぉ……』
誰も聞いてないのに、わざわざ声に出して否定する黄金。
『ちくしょう……なんだこの気持ち……』
黄金は部屋着に着替えながら、初めて生まれた気持ちに困惑を覚えた。
耐えられない彼女は、倒れるようにベッドの上に転がる。
『これ、どうすりゃいいんだ』
拭いたくても拭えない何かに心を支配される黄金。
どれだけ身体を休めようと解決することはないだろう。
『……寂しい』
黄金はようやく孤独を理解した。さらに何かを求めるようにリビングに向かう。
しーん、と静寂が空間を支配する。
マーリン家の次くらいに金がある家なので、リビングもそれなりに広い。その面積に対して、まだ身体の小さい女の子が一人。まるで黄金だけが閉鎖された別世界に飛ばされたようだ。
『……』
夢を見たつもりはなかった。分かってはいた。だが、求めずにはいられない。自分以外の誰かが居てほしい。一人では何もすることがない。
『……はぁ……』
思わずため息をこぼす彼女。
寂しそうな顔で再び外着を纏い、外の世界へ旅に出た。
『寒っ』
冷風が再び黄金を襲う。まるで世界が彼女の外出を歓迎していないようだ。
『こんな寒さに負けてたまるか!』
なぜか負けず嫌いに火がついて、先に進もうとする。
その時、冷風が黄金のスカートの下を通り、下着が完全に見えてしまうほど捲り上がってしまう。
黄金はすぐにスカートを押さえると、キョロキョロと周りを見た。
『ふぅ、人はいないみたいだな』
安堵の息を吐くと、何故かいつの間にか霧が発生し、辺り一面を白で埋め尽くした。
『うわっ、いつの間に霧が……!』
何も見えない。どこを見ても白、白、白。白って一色しかないねんと言わんばかりのたった一つの白がこの世界の色を全て塗りつぶした。
黄金は、またしても別世界に転移したような気分に陥る。
『こりゃもう外出は無理だな。帰るか』
踵を返して家に戻ろうとする。どんなに霧が濃かろうと、まだ家から出てまだ一歩の距離だ。迷うことなどないだろう。そう思っていた。
『あれ?』
手探りで我が家の扉を触ろうとしたが、どこにもない。
『おかしいな、まだ庭からも出てないんだが』
方向感覚が狂ったのかと思う黄金。諦めずに家の扉を探し続けるも、霧を掴むだけで何も成果がない。
『どうなってんだ……?』
黄金は異常事態を認識し、慌ててドアノブを探すが、やはりどこにもない。
『くっ……!』
黄金は逃げるように走り出した。きっとどこかにゴールがあると信じて。
『はぁ、はぁ、はぁ……』
どれだけ走っても、走っても、走っても、走っても走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る――
白、白、白、白、白、白白白白白白白白白白――。
『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――』
一向に変わらない景色。何一つ手かがりもなく、ただ白い空間を走り続けるのみ。
『どうなってんだよ……!』
ついに息が切れ、その場でへたり込む黄金。体力的にも精神的にも走る気力はとうとう底をつきた。
『何がどうなってんだよーーーーー!!!!!!』
訳も分からず叫ぶ黄金。しかし、どれだけ叫ぼうとも誰にも声は届かない。
ここは閉鎖された空間。何者かが彼女をこの霧の中に閉じ込めている。
『今何時だ……早く……帰らねえと……さすがにあいつらも家にいるんじゃねえか…………心配させるわけには……いかねえ……!』
妹達への想いをエネルギーに変換し、また走り出す。
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
すると、ようやく白いだけの景色に異なる色が加えられた。それは人型で黒いシルエットが形成されたもの。要するに人間だ。目の前に黄金以外の者がいるのだ。
『人だ! 人がいる!』
その人間は黄金の存在に気づいたのか、彼女の方へ振り向き、シルエットのまま口を開いた。
『あぁ、やっと見つけたよ』
大人の女性の声だ。声色を分析する限り、性格は明るめだがテンションはそれほど高いわけでもない。
『アンタもか、何なんだこの霧は?』
『いや、この霧は私のしわざなんだけどさ』
『は? どういうことだよ!』
黄金から怒号が飛んだ。
『いや、ホントにごめんね……これは私の霧魔法で作り出した“霧の結界”なんだよね』
『霧魔法……霧の結界?』
聞いたこともない単語に頭が回らない。そもそも黄金の中では相手を理解するよりも、自分を閉じ込めた奴が目の前に居るという思考が働いている。
『訳わかんねえこと言ってんじゃねえ! 何でアタシを閉じ込めたんだ! 今すぐ出しやがれ!』
大きな怒りを込めた怒号に、女はあわわと慌て始めた。
『ほ、本当に申し訳ない。実は君と二人で話したいことがあるんだ』
『アタシと話したいことだあ? それならこんな小細工なんてしてねえで正々堂々話しやがれってんだ!』
『そうしたいけど、そうはできない理由があるんだ!』
『そんな理由あるか!』
『あるんだよ! すぐに終わるから話を聞いて!』
『すぐ終わるんだろうな!』
『うん、約束する!』
『分かった! さっさと話せ!』
黄金はその場であぐらをかいて、ようやく話を聞く体勢に入った。
すると、女は気まずそうに、
『あの……』
『なんだ! 早く話せ!』
憤る黄金に少し押され気味な彼女だが、勇気を出して声に出した。
『パ……パンツ見えてるよ?』
座り方のせいで、スカートの中の中央部分を覗くと、はっきりと下着が見えてしまう状態だ。
状況を即座に理解した黄金は、直ちに下着が見えない正座に座り直した。
同性とはいえ下着を見せてしまった彼女は、赤く頬を染め、身体も少し震えているが、これでも彼女なりにリアクションしないように抑えている。
『話をしていい?』
『あ、あぁ……』
気まずい空気が流れる中、女は気を取り直してとんでもないことを口にする。
『私は未来から来た者だ。名前はミスト。霧の女神と呼ばれているよ』
『未来から来ただって……?』
案の定少しも信じてはもらえず、怪訝な顔をする黄金。
『何言ってんだお前?』
『まあ、そういう反応になるよね。でも信じてほしい。もう時間がないんだ』
『は、どういうことだよ?』
『いいかい、今から君にある物を見てもらいます』
『おい、話が全然分からねえ。もっと分かりやすく――』
『見てもらった方が早い』
質疑応答の時間は与えられず、話が進んでいく。
『おい! 話を聞け!』
その刹那、白かった世界が一変し、別世界の光景が映し出された。
『なんだこれ……』
愕然とする黄金。
『これはね――』
この後、黄金は衝撃の真実を知ると共に、ありえざる体験をすることになる。そして、彼女はとてつもなく大きな使命を背負うことになる。
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