第482話『パーシヴァルという騎士の話』
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《パーシヴァル視点》
――私はとある王国の騎士だった。
強い国だった。
我が武力を以てすれば、どんなに強い組織だろうと全てを蹂躙するほどの力があった。
私はそれが誇らしかった。
しかし、戦争そのものは起こしてはいけない。あくまで自分達の国を守る為に防衛したに過ぎない。
守りたいものがあるから。
私はほぼ毎日孤児院に行って、子供たちの相手をしている。それはたとえば、剣の修行を手伝ったり、ボール遊びや石を使った遊びもやっていた。
楽しかった。
子供達と関わった時間は私にとって何よりの宝物だ。
そんなある日、その宝を奪う者が現れた。
盗賊だ。とある巨大な盗賊団が屈強な幹部を引き連れて、襲撃に来たのだ。
これまで遭遇したこともない圧倒的な力を前に騎士たちは全滅し、国民は弄ばれるように殺され、民家や城には火が投げ込まれた。
平和だった国は一瞬にして火の海と成り果てた。
そんな中、私は孤児院の子供達を逃がそうと向かったのだが――
そこには――
人の尊厳をこれでもかというほどに踏みにじられたような異常な光景。
濁るような赤に彩られた孤児院。
嬉々として剣を振るう下衆な集団。
アア。
ユルサナイ。
そこからの記憶は曖昧だ。
私がこの後何をしたのか、どこへ向かったのか。それも分からないまま、気づいたら正義教団の国とやらでネヴィア王妃によって操られ、捨て駒になったところで主人に救われた。
そして私は今――
朝がやってきた。労働の朝だ。
何だか懐かしい夢を見ていた気がした。それもとても悲しくて、途方もない怒りを放出したような、狂気に満ち溢れた悪夢のようだった。
『ま、すぐに忘れるだろう』
私は眼をこすり、ベッドから起き上がる。
朝の支度を済ませ、リビングに足を運ぶとルームメイトが朝食を取っていた。
『みんな、おはよう』
『おはようございます。パーシヴァルさん』
『パーシー先生おはよう!』
『おはよう……ございます……』
『パーシー先生、おはようございます』
『おう、おはようパーシヴァル』
挨拶を済ませると、私は朝食の席についた。
マーリンはいつも通り、先に学校に向かっている。我らの学園長はいつも大忙しだ。
『ごちそうさま』
さて、朝食は済ませた。次は主人とルカ達と共に登校だ。
私達はあおいを残して、学校へ向かった。
そして、学校に着くと、私達教員組とルカ達生徒組は一旦別れる。ルカとバレスに関してはすぐ会うことになるが。
HRのあと、授業を行う。
私が受け持つ教科は体育。もちろん魔法の学校なので、魔法を活かした格闘術、剣術を叩き込む。
たとえば拳に炎を灯したり、剣に水を含ませる等、私が教えられることは全て教えるつもりだ。
――もう誰も失いたくないから。
なぜ、そう思うのかは分からない。誰かを失った経験をした覚えはない。
だけど、私の本能が、全員を守りたいと疼いている。
まあ、どちらにせよ守るつもりだ。どんな敵が襲ってこようと。守り抜いてみせる。たとえ私の命が燃え尽きたとしても。
しかし、この命は主人のもの。元々死んでいた私の所有権は主人にあるのだ。主人が私とのパスを切れば、私は死ぬ……はずだったが、事情が変わった。
そもそも一万年後の未来で主人が死んだ時点で私の肉体は滅んだ。しかし、それをマーリンが独自で再生し、今の私は誰にも依存しない完全な一人の人間として存在している。
生まれた時代も世界観も全く異なるが、完全に自由を手に入れた。
でも、私はそれでも主人を主人と呼び、力になりたいのだ。
彼は恩人だ。初めは敵だった私と真摯に向き合ってくれた。一時的ではあるが命を救ってくれた。考えることが苦手な私を見捨てないでくれた。
そんな主人を私は支えたい。未来に帰った後も、ゼウスを倒した後もずっと――
今日の授業が全て終了し、放課後になった。
生徒たちが下校する中、私達教員は職員室に残り、業務を片付ける。
どうやら普通の学校ならば、子供たちが帰った後も、まだまだやることがたんまりあるらしいが、この学校は比較的やることが少ないようだ。
なんでもブラック企業? というやつが昔流行ってて、それではいかんと、なるべく定時には帰らせるようにしてるらしい。
定時後に仕事をすることは稀にあるが、その当時を生きた人間は当たり前のように深夜まで仕事をしていたとかなんとか……。
セカンド・ドライヴではないが、それでは効率が悪すぎないか? 休む時間をある程度確保しなければ、疲労が重なり、仕事への集中力が落ちる上に過労死の原因にもなる。
私が勤めていた国は、当然そんなブラック環境は一切認めていない。もし見つかれば重い罰が下るようになっている。
……ん?
私が勤めていた国って何だ?
自然と言葉が出てしまったが、私の記憶にはない。
でも――なんでだろう――
涙が止まらない。
『パーシヴァル?』
主人の声が聞こえた。
『あ、え?』
『大丈夫か?』
私は涙を拭い、なんでもないと答える。
『大丈夫だ! 今日の夕飯なんだろうなー!』
私は無理やり話題をすり替える。
『……』
主人は私を見つめている。まるで私の嘘を全て見透かしているように。
『なあ、パーシヴァル』
『な、なんだ?』
『気づいてないかもしれないが、お前は感情が表に出やすい奴だ。そんな素直な奴が涙を流すってことは、本当は何かあったんだろ?』
『うっ……』
本当に見透かされていた。
『それも最近じゃないな。今までのお前は楽しそうだったし、まあ俺の見える範囲ではあるが、特別お前に何かあったわけじゃないのは分かってる。ならば……お前の過去だな』
『……さすがだな。その通りだ』
主人は何でもお見通しだな。
『話せるなら話してみろ。仕事中だけど聞いてやるよ』
『実は――』
私は今頭にある過去の記憶をかき集め、主人に共有した。
『なるほどな。少しずつ過去を思い出してきてると。そして生徒達を見てると、その孤児院の子供達を思い出すと』
『その通りだ』
『お前が泣いていた理由が分かった。それなら、そうならないように理想の未来を目指していこう。生徒達が幸せになる未来をな』
『主人……』
『ただ全員を幸せにって難しいかもしれない。何故なら幸せの定義は人それぞれだから、幸せとはコレだと一概に決められないからな』
確かにそうだ。私にとっては戦って守っていくのが幸せだが、そうじゃない奴もいる。
『なかなか難しいな……』
『ああ、だからこそ理想ってのは本当に理想なんだろうな。幸せの定義が人の数だけある以上、理想は所詮一人の妄想に過ぎないのかもしれない。押し付けた結果相手に不幸を招いてしまっては本末転倒だしな』
『そうだな』
『だが、それ以上にダメなのは理想を叶える為の挑戦する権利すら無くなることだ』
『どういうことだ?』
『要するに、死だ。それも老衰や病死事故死ではなく、理不尽な死だ』
『理不尽な死……』
あの時の光景は目に焼き付いている。ただ己の快楽の為に奪われた幼い命。紛れもない理不尽な死だろう。
『そんなことを許してはいけない。どんな敵だろうと蹂躙できる力を手に入れなければならない。それが守る者の使命だと思ってる』
『守る者の使命……』
私ができなかったことだ。元々戦いが好きだった私が、勝ち続けてきた私が招いた慢心。
より戦いを楽しみたいから、長く戦いたかったから、私はそれほど強さを求めなかった。
でも今は――
『そうだな。私も、いや私達全員ゼウスを余裕で倒せるくらい強くならないとな』
そうだ。次は失敗しない。
今度こそ救ってみせる。
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