第478話『バレスの日常②』
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今日は休日だ。子供から学生なら鉛筆を置き、社会人ならば労働から解放される権利を与えられる日だ。
子供だろうが大人だろうが誰も彼もが歓喜で震え上がる素晴らしい日だ。
かくいう私も自由の日はつい高揚してしまう。何故なら身体を休めるだけではなく趣味の時間に没頭できるからだ。
その趣味とは――
可愛い動物を見ることと、動物のぬいぐるみを収集することだ。
“あの方”の元で働いていた頃はそんな趣味はなかったが、ある日クラスメートが動物の本を読んでいて、それをたまたま目にして、気づいたら趣味ができていた。
衝撃だった。まさかこの私にもこのような嗜好が存在するとは……。
私はその後、ありとあらゆる動物を調べてはグッズを揃えたり、癒やし動画を見て毎日を充実させた。だが“犬”と“猫”という可愛らしい動物がこの世に存在していないのが残念だ。どうやら空想上の生き物のようだが、この世のどこかで生きてるような気がしてならない。それほどまでに身近にいると感じてしまうのは気のせいだろうか?
まあ、ルカさんが所持している聖剣はケルちゃんという名の犬らしいから、それもあるのかもしれない。いつか対面してみたいものだ。
ところで今日だが、なんと私とルカさん(カレンちゃんさん付き)とパーシー先生ことパーシヴァルさんの三人で動物園に行くことになった。
ルカさんもケルちゃんの影響か、動物が結構好きらしい。パーシヴァルさんは私達の保護者として付き添いで来てくれるようだ。
パーシヴァルさんは考えるより身体を動かすタイプの人だが、子供の面倒見が良く、今回のように私達を見守る役目を自ら請け負ってくれた。もしかしてパーシヴァルさんは以前も子供の相手をしていたのだろうか? それくらい子供の扱いに慣れているようだった。
『よし、ルカ、バレス。そろそろ行くぞ』
緑のシャツに白のデニムパンツを着用したパーシヴァルさん。髪型はポニーテールといつもより爽やかな印象だ。
一方でルカさんは白のYシャツの上に紺色のベスト。下は赤と黒のチェック柄のミニスカートだ。洒落ているというか、なんと可愛らしいことか。
それに比べて私は白いシャツに黒の短パン。シンプルというか地味と言われてもおかしくない格好だ。
『バレスちゃん、それ部屋着じゃない?』
早速ルカさんから指摘されてしまった。しかも地味どころの話ではなかった。
その後、私は強制的に別の衣服に着替えさせられた。
ルカさんのように可愛らしい服装かと思いきや、シンプルな白のワンピースだった。まあ、これも十分可愛いのだが。
『可愛い〜!』
私を見て目を輝かせるルカさん。なんだか恥ずかしくなってきた。
私は頬を赤くして、スカートを抑える仕草を披露した。
『キャー! バレスちゃん照れてる!! 可愛いーーー!!!』
恥じらう私を見てさらにテンションを上げるルカさん。うぅ……なぜだろう? まともに顔が上がらないよぉ……。
『あ、もう限界。写真撮っていい? 三百枚くらい』
ルカさんは急に真顔になってそんなことを言い出した。
『お前そんなキャラだっけ?』
パーシヴァルさんが少し呆れるようにツッコミを入れた。次に少し笑みを浮かべながら軽くため息を吐くと、私達にこう言った。
『写真撮るのはいいが、ここじゃなくて動物園で撮ればいいじゃねえか。ほら早く行くぞ』
『あ、はい……ごめんねバレスちゃん』
危うく私の撮影会で今日の予定が埋まりそうだったが、パーシヴァルさんが本来の目的へ促してくれたおかげで、ルカさんの指針が正常に戻った。
『い、いえ、気にしないで下さい』
未だに火照った顔のまま私は二人の後をついていった。
そして数十分後――
無事動物園に到着した。
ここだけの話だが、どうやら動物園の動物は全て観賞用のモンスターで、それぞれに意志はなく、コンピューターによって行動がパターン化されているそうだ。だが、そんな機械的な動きなど感じさせないほどに精巧な作りになっていて、本物の動物と言われても違和感は皆無だ。
この世界はゲームだ。本当は動物など存在せず、代わりにモンスターという狩猟専用のシステムがあるだけ。それを知るのは本当に一部の人のみ。全人類の幸せの為、真実の口外は硬く禁じられている。
それを知っても尚、なぜ動物園に行きたかったのか。
それは、私が単に動物好きというだけではなく、動物を忘れたくなかったから……?
なんとなくだが、私は動物という生物に敬意があるのかもしれない。
この世界に逃げた9割の人類は記憶を全て失う。私も例外ではないが、動物に対する敬意だけは身体の中で確かに刻まれている。
前の私は一体どんな生活を送っていたのだろうか? 家族や友達は? 学校は?
全く想像もつかないが、あぁ――でもきっと動物オタクの“普通の女の子”だったのかもしれない。漠然としないが、それだけは何となく分かる。
『……』
思考の連鎖で足を止めてしまう私。
『バレスちゃん、どうしたの?』
そんな私を見兼ねたのか、ルカさんが心配そうな顔をしながら話しかけてきた。
『いえ、何でもありません。こういう場はあまり来たことが無かったので、少し戸惑ってしまっただけです。すみません。ご心配をおかけしました』
『バレスちゃん……笑ってる!』
ルカさんは私の顔を見て、嬉しそうにそう言ってきた。
『私、笑って……?』
『ああ、確かに笑ってたな。バレスもそんな顔するんだな』
全く自覚が無いが、どうやら凝り固まった私の表情はわずかに崩れたようだ。
『いつものバレスちゃんも可愛いけど、笑ったバレスちゃんも可愛いよ!』
『そ、そうですか……あ、ありがとうございます……』
こんなやり取りは初めてだが、居心地が良い。心がこんなにも暖かくなる。これなら冬も楽に過ごせそうだ。
幸せとはこういうものを指すのだろうか。
友達と好きな場所に出かける。楽しく話をする。笑う。
きっと私は、こういう日常をずっと待ち望んでいたんだろう。“あの人”の元で閉鎖的に過ごしてきた私が本当に望んでいたもの。
――色のない虚無の人生に光という色を差してくれた。
『ルカさんも、可愛いですよ』
『バレスちゃん……』
ルカさんは『えへへ』と少し照れくさそうに頬をかくと、私の手を握る。
『動物園行こっ!』
『はいっ!』
取り戻せるといいな。”本当の私”を。
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