第40話『泣いたっていいんだよ』
お待たせしました。
宜しくお願い致します。
※2022年5月15日改稿しました。
※文字数かなり多めです。
突如、幻の図書室で起こった地の女神アース刺傷事件。凶器であるナイフには謎のウイルスがついていた。犯人は完全に殺す気でいたと分かる。この魔王城の中でアースちゃんに面識があるのは俺とシルバーちゃんだけのはず。俺は当然のこと、シルバーちゃんが犯人だとは思えず、他の誰かが犯人だ。
――しかし今、シルバーちゃんの口からアースちゃんを刺したのは俺だと言った。シルバーちゃんはかなり戸惑った表情をしているものの、嘘をつくような娘では無い。彼女は本当のことを言っているのだ。
――ということは、犯人はやはり俺なのか……?
いやいや! 待て待て待て!
俺はアースちゃんを刺した覚えはないし、そもそも襲う動機もない。むしろこんな俺にあそこまで仲良くしてくれるような奴に刃を向けるなんてとんでもない。むしろ命に別状が無くて良かったと心の底から思っている。
一体どういうことだ? なぜ俺が犯人にされてるんだ? 実は誰かがアースちゃんを操っていて、俺に濡れ衣を着せようとしているってことなのか?
『な、何かの間違いじゃないのか?』
『い、いえ、アース様は、確かに自分を刺した犯人は、ダストさんだって言ってました』
おいおい、なんだよそれ……絶対俺はやってなんかないよ、そうだろ? アースちゃん?
『ちょっと待てよ! お、俺は犯人なんかじゃない! これは誰かの陰謀だ! 俺がアースちゃんを刺すわけないだろ!』
焦燥感に駆られた俺は思わずシルバーちゃんの肩を掴みながら、犯人ではないと主張した。
『あ、あわわ、お、落ち着いて下さい。アース様は、確かに、刺した犯人はダストさんだと言ってましたが、そのダストさんは、恐らく偽者だろうとも言ってました……よ?』
『え? 偽物……?』
『は、はい……ご、ごめんなさい……』
シルバーちゃんは、激しく憤る俺に怯えてしまったのか、一粒の涙を流してしまった。
『あ、ごめん……』
怯えているシルバーちゃんを見て、カーッとなった俺の頭が冷えたと同時にシルバーちゃんに対する罪悪感も覚えた。
『いえ、私も……ダストさんが……ぐすっ……犯人だと言う前に、ぐすっ……きちんと偽者について、ぐすっ……説明するべきでした。ご、ごめんなさい……』
シルバーちゃんは溢れ出る涙を拭き取りながら、何度も俺に謝罪をした。
正直な事を言うと、語弊が生じるような言い方をしたシルバーちゃんにも非があるのは確かだ。しかし、だからも言って冷静さを失って怒鳴ってしまった自分も対応としてはかなり良くない。冷静になれば最後まで話を聞くこともできたはずなのに、それができてない時点で俺は最悪な人間なのだ。これではあの脳筋クソ教師共と同じだ。
本当に何やってんだよ……俺。さっきの自分を殴りたいくらいには俺は俺を責め続けることになるだろうな。今後もずっとな。
『ダストさん、ぐすっ……ごめんなざい……。ぐすっ……ごんな時なのに、私……もう泣きません』
と言っているが、閉まりきってない蛇口のように涙が抑えられてない。無理して泣き止もうとしてるのが見え見えだ。
『シルバーちゃん……』
罪悪感MAXの俺は、シルバーちゃんの頭を撫でた。
『ダダダダストさん!?』
まさかの出来事にシルバーちゃんの涙は一瞬にして引っ込んで、顔も赤く染まり、恥じらいと困惑を見せた。
俺は俺の思いのまま、シルバーちゃんにこんな言葉を贈った。
『泣いたっていいんだよ』
『え……?』
『地下に行った時も、既に泣いてたけど、あれだけじゃ泣き足りなかったんじゃない?』
『そんなことは……』
『本当に?』
『……私が大泣きすると、みんなが私を責めるんです』
『責める?』
『はい、正義教団の方がそう言ってました』
『正義教団……!』
シルバーちゃんの話によると、シルバーちゃんがまだ幼かった頃に、厄介な正義教団の奴らに絡まれたことがあるらしい。
ただでさえ、照れ屋で人見知りだったシルバーちゃんに、清く正しい正義の挨拶を強要されたのだ。
正義教団の清く正しい挨拶とは、相手の目を見て、大きな声で、“正義の名のもとに、おはようございます! 正義万歳! 正義は褒め称えよ! 悪は滅ぶべし! 悪は死刑だ! 本日も正義のみを信じ、悪を滅する事を誓います!”と言わなければいけないらしい。
しかも、その目の前に現れた、正義教団の奴らは、屈強な男ばかりだった。目の前に立たれるだけで、相当の圧迫感があった。そんな相手に怯えずに、清く正しい挨拶なんてできるはずもなく、幼いシルバーちゃんは、泣き出してしまった。すると、その正義教団の男は、シルバーちゃんの頬を容赦なくはたいたのだ。シルバーちゃんは、恐怖で震え上がり、何も喋れない状態になってしまった。すると、正義教団の男はこう言った。
『挨拶もできない、泣くことしかできない貴様は悪だ!』
『そうだ! そうだ! 泣くことは悪だ! 貴様は悪だ!』
正義教団の男達全員がシルバーちゃんを責めた。泣くことは悪だと責め続けた。その後、シルバーちゃんの両親が責められてるシルバーちゃんを見つけ、正義教団の男達を完膚なきまでに叩きのめしたそうだが、シルバーちゃんには、トラウマが残ったままで、ずっと『正義じゃなくて、ごめんなさい。悪い子でごめんなさい』と繰り返し呟いていたのだ。この先もずっとフラッシュバックによって、泣くこともできなかった。
なあ正義教団よ……これが、本当に正義なのか。
くだらない。
いいか、それは正義じゃなくていじめ……いや強要罪という名の犯罪なんだよ!!!!! 正義って名がつけば何でも許されると思うなよ!!!!!
シルバーちゃんのトラウマ話を聞いて俺も嫌なことを思い出した。ある日俺の担当教師が俺に対してクソみたいな事を言い放った時のことだ。
『おい! 黒崎! お前、勉強もできないし、運動もできないし、友達もできないし、将来の夢もないって……先生悲しいぞ……お前みたいな出来の悪い生徒を持ってしまって……』
黙れ。
『葛木を見てみろ、あいつは素行こそ悪いが、勉強も運動も友達もできて、将来の夢もある素晴らしい生徒だ。俺はな、あいつこそ正義だと思うんだ』
あいつが正義だと……? 裏で俺を殴り蹴りを繰り返すあのゴミカス野郎が……? あーそうかよ……なら、俺は悪でいいよ。あれが正義だと言うなら俺は社会に何も役に立たないクズでいいよ。
正義なんてクソ喰らえだ!
今、目の前に居るシルバーちゃんは、ホントは思いっきり泣きたいんだ。だけど、泣けないんだ。過去を思い出すから。泣く事を悪と抜かす正義教団のせいで!
『シルバーちゃん、そんな奴等の言うことなんて気にするな……ってもう既にみんなに言われてるだろうね。だから俺からお願いしたいことがあるんだ』
『お願い……ですか?』
今、目の前にいる女の子を助けられるのか? 分からない。もしかしたら、言葉選びに失敗して、余計傷つけるかもしれない。でも……それでも……俺は……シルバーちゃんを助けたい!
『俺と一緒に泣かないか?』
『え……?』
『泣くのが怖いなら……一緒に泣こう、もしここに
君が泣くのを責める奴がいるなら、俺も一緒に責められるよ。君は1人じゃないんだよ』
俺がそう言うと、シルバーちゃんは今まで貯めてきたであろう涙が滝のように流れ出した。
『ダスト……さん……うぅ……うぅ……うわああああああああああ! 怖がっだよおおおおおおお! 辛がっだよおおおおおおおお!』
『シルバーちゃん! 正義なんでクソ喰らえだああああああああああああああ! うわあああああああああああああああああああ!』
俺とシルバーちゃんは、互いのこれまでの想いを大爆発させた。俺もシルバーちゃんも人生の中で1番の号泣ぶりだろう。
長いこと我慢してきたんだ。泣いたっていいだろ。
男のくせに情けない? 知るか。
たとえ情けなかろうが、男らしくなかろうが、俺はシルバーちゃんを助けたかった。泣くことすらできなかったシルバーちゃんを解放してあげたかった。ただそれだけだ。
『……ぐすっ』
体感的だが多分あれから30分間くらい泣き続けた。
『……』
お互いに言葉が出ない。あれだけ大声で泣いたんだから当然か。
『……』
それから10分経ち、やっと沈黙は破られた。
『ダストさん、ありがとうございます。なんかスッキリしました!』
先に沈黙を破ったのはシルバーちゃんだった。どこか吹っ切れたような顔をしていた。長いこと、大泣きできなかったから、一気に発散できて、スッキリできたようだな。
『こちらこそ、ありがとう。俺もこんなに泣いたのは、久しぶりだから、スッキリしたよ』
『いえ、ダストさんにはご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした』
『迷惑なんかじゃないよ。これからまたシルバーちゃんと、話をしに部屋に上がってもいいかな?』
『はい!』
俺とシルバーちゃんは友情の握手をした。生まれて始めての友達ができた時ってこんな感じなのかな。
『あ、そうだ、話変わるんだけど、さっき話してた俺の偽者? の話の続きをしてもらっていいかい?』
『あ、そうでした。そっちが本題でしたね』
シルバーちゃんは頬を染めて少し恥ずかしそうにしながらコホンと咳払いをし、アースちゃんに言われた事を話し始めた。
この話は俺とシルバーちゃん以外には内密にと釘を刺されてる。シルバーちゃんが自らの部屋に俺だけを招いたのも、それが理由である。
まあ、この後ブロンズちゃんに心を読まれて、全部バレるんだろうけど。
まず、アースちゃんの記憶についてだが、これはシルバーちゃんが言った通り、記憶を封印されてもないし、失ってもない。あの場に聞かれると都合の悪い人物が居たから、記憶が封印されたと嘘をついたのだ。
『都合の悪い人物って?』
『それは教えてくれませんでした』
『そっか』
教えてしまうとその人物を意識してしまうからなのかな、アースちゃんなりの気遣いだろう。
『次に、アース様が襲われた時の事です』
図書室には2人の来客がいた。1人目はアースちゃんに聞きたい事があったらしい。誰かは言えないがあまり良好な関係ではない人物のようだ。アースちゃんもその人物には、いつもと違う口調で話したそうだ。
2人目は姿は完全に俺そのものだが、オーラが違っていたらしい。実はアースちゃんはその時人のオーラが見える魔法を使っていた。だから俺の姿で襲ってきた人物を偽物だと見抜くことができたというわけだ。
『なるほどオーラか……そのオーラで偽者の俺が誰かって特定とかできないの?』
『特定まではできないそうです。アース様曰くオーラといっても、大まかに分かれた種類の色しかない上にそもそも、ダストさん以外の皆さんのオーラは同じような色ばかりで見分けがつかないそうで』
『そっか……他に何か言ってなかった?』
『いえ、これで全部です』
うーん、現状だと犯人は分かりそうにないな。もっと情報が欲しいところだけど、今は火の国に行って、あのバカ魔王を迎えに行かないといけないしな。
もう犯人探しは無理そうだし、今は火の国に行って魔王を連れ戻すことに集中しよう。それから犯人を探せばいい。
『分かった、ありがとう。今は考えても犯人は分からないだろうから、明日の事に集中しよう』
『そうですね』
シルバーちゃんも明日に向けて、準備しないといけない事があるとのことで、一旦、話を切り上げることにした。
『じゃあ、またあとでね』
『はい……また来て下さい』
『うん』
俺はシルバーちゃんの部屋を出て階段を下り、自分の部屋に戻ろうとした。今度こそ自分の部屋でゆっくりできる。そう思った時だった。
『ダストっち……』
ふらふらと千鳥足になっているゴールドちゃんが、後ろから話しかけてきた。
なにやら様子がおかしい。いつものハイテンションはどうした? 一体何があったんだ?
『アタシとキスして……』
『え』
第40話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、明日か明後日には、投稿する予定です。
宜しくお願い致します。




