第462話『決勝戦〜決着〜』
お待たせしました。
第462話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※文字数少し多めです。
――数分前、風の中にて。
『きゃああああああっ!!!』
『ルカちゃん! くっ……!』
ルカが風に弄ばれる前に、黄昏のケルベロスは自らの機能を使用し、自分が橋本ルカと瓜二つの姿となった。
そして、主人の身代わりとして自分が連続攻撃を受け、龍にトドメを刺されて、最期まで主人の姿のままこの世界から退去した。
一方で本物のルカはステージの裏側に身を潜めて、ファースト・ドライヴが無防備になる瞬間を待っていた。
流す予定の涙を必死に堪えて――
――そして現時刻。
『な、なぜ貴女がここに……?』
倒したはずのルカが背後にいて、唖然とするファースト・ドライヴ。後ろを振り返る前に光り輝く剣を向けられ、下手に身動きが取れない状況だ。
『さっきファースト・ドライヴさんが倒したのは私じゃなくてケルちゃんだよ』
『なっ……!? あの聖剣がルカさんに変身して、身代わりになったとでもいうのですか……?』
『……うん』
ルカは悲しそうな声で答えた。いつも右手にあるはずの感触を思い出すように、空虚を握りしめていた。
『そうですか……犠牲は出ましたが見事な作戦でした。私をここまで追い詰めるなんて、本当に強くなりましたね。ルカさん』
ファースト・ドライヴは素直に彼女を称賛するが、ルカは首を横に振って、
『ううん、この作戦を咄嗟に考えたのはケルちゃんだよ。私を守るために自分が犠牲に……』
今にも泣きそうな声で真相を語るルカ。
ファースト・ドライヴは、それでも十分なチームワークが活かされていると続いて称賛を送るも、彼女がそれを素直に受け取ることはなかった。
仮想空間の出来事とはいえ、相棒同然の聖剣が世界に存在しない事実が、彼女の精神に大きなダメージを与えている。
だが、それでも彼女は涙一つ流さず剣を取った。ケルちゃんが現実で待っているから――
『で、どうしますか?』
ファースト・ドライヴは前を向いたまま、分かりきった事を聞く。
『決まってます。このまま貴女に剣を振り下ろします』
ルカは精霊の力で創作した剣をファースト・ドライヴに向ける。聖剣ほどの威力はないものの、今の彼女を斬り伏せるには十分である。
状況は完全にファースト・ドライヴの詰みだと思われた。
『そうですよね……ですが――』
ファースト・ドライヴは言いかけて、途端に前のめりになり、あまりにも自然にステージ外に落下した。
『なっ……!? ま、待って!』
ファースト・ドライヴのまさかの行動に、ルカは追いかけようとするが、ステージ外に身体を出した瞬間に、下から鋭い岩石が空気を裂くように、ルカに襲いかかる。
『う、うわあっ!』
ルカは当たる直前に尻もちをつくことで直撃を回避した。
これは追撃しようとステージ外に出ると、魔法攻撃を撃たれてしまう。そう思ったルカは別方向に走り出し、気づかれないように反対側からステージを飛び降りた。
攻撃されることなく無事に下降すると、現在進行形で落下しているファースト・ドライヴに狙いを定めて、剣を真っ直ぐに投擲した。
弾丸のように軌道を走る剣は、彼女の腕の皮膚をわずかにエグり、そのまま彼方へ消えていった。
次の瞬間、ファースト・ドライヴも負けじと返り討ちとして炎魔法と雷魔法を投げつける。
ルカはそれらを精霊の力で放った攻撃で相殺した。
『……』
『……』
下へ落ちていく二人はお互いに目を合わせると、言葉を交わさずに頷いた。
『はああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
――魔法。
『はああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
――精霊の力と剣。
撃ち合う。撃ち合う。撃ち合う。
世界一の魔法使いは、容赦なく未知の魔法を放ちつつ、転移や瞬間的な防壁で身を守る。
精霊に守られし少女は、あらゆる精霊に力を借り、集中砲火を浴びせ、防御手段は剣で弾くだけ。
――景色と共に流れていくステージ。二人はどこに足場を置くまでもなく、このまま奈落へ落ちるまでに決着をつけるつもりだ。
(ダメだ。このままじゃファースト・ドライヴさんに押し負ける……!)
ペースを落とすことなく攻撃の弾を投げ合う二人。現状では拮抗しているが、ルカの精霊の力を使うための体力と気力が二割を下回っているのに対し、ファースト・ドライヴは三割ほど魔力を残している。
精霊の力と魔力は似て非なるものだ。エネルギー使い方も減り方も異なる部分はあるものの、やはりファースト・ドライヴが優勢と言える。単純に残ってるエネルギーが多いからなのもあるが、彼女は魔法に関して、右に出る者はいない。
ただでさえ魔法レベルが高いのに、魔力が減った時の対処法や節約方法を理解している。
唯一の欠点は身体能力が低いことくらいだが、それは魔法で十分カバーできるので実質弱点はない。
しかし、今のファースト・ドライヴは思ったよりも疲弊している。となると当然パフォーマンスも下がる。それはルカも同じではあるが、セカンド・ドライヴに鍛えられた事実。
――そして、敬愛するあの人からの言葉。
『君にこの言葉を贈るよ。この大会だけじゃなくて今後何が起きても、この言葉を思い出して欲しい。君は――』
“この世界の主人公だ”
(この言葉だけで、私は――)
『負けない』
刹那――ルカの身体に異変が起きた。
全身が虹色の光に包まれると、白く輝く羽根が衣服の上から僅かに浮かぶように出現し、虹色のオーラが身体中を纏う。
羽根があるおかげか、下降が止まり、常に宙を足場のように歩くことができる。
『な、なに……!?』
想定外の事態に驚愕を隠せないファースト・ドライヴ。何もせずにその変貌をつい最後まで見届けてしまった。
『この姿は……?』
自分の姿に内心一番驚いているルカ。
これはオベイロン曰く、精霊の血を引く者の覚醒状態。覚醒条件は不明だが、戦いの最中でこうして覚醒する事があるようだ。
『そっか。確かオベイロンさんが言ってたな』
彼の言葉を思い出し、自分の姿に納得したルカは早速その力を振るうために、力を剣に込めて縦に大きく振った。
すると、今までにないほど大きく素早い斬撃がファースト・ドライヴの右腕を斬り離した。
『ああああああああああああああああ!!!!!』
抑えきれない激痛に悶えるファースト・ドライヴ。切断面から溢れる赤い液体が宙を舞う。
『だけど……この腕も……この血も……所詮は仮想の話!』
自分にそう言い聞かせて、ファースト・ドライヴは残った腕で引き続き魔法を放ち続ける。
精霊ルカは目にも止まらぬ速さで、襲いかかる魔法を全て斬った。
そして、ファースト・ドライヴへ向かって進撃する。
『強い……だけど!』
生半可な攻撃は無駄であると結論付けたファースト・ドライヴは、残った魔力をほぼ全て使う覚悟で最終決戦に臨む。
そのおかげで使い渋っていた防壁魔法を躊躇いなく使うことで、精霊ルカの攻撃を防ぎ、彼女に隙ができた。
『今だ!』
雷魔法で生成した槍を精霊ルカの心臓に向けて投擲する。
『これで、最後です!!!』
しかし、それも難なく弾かれてしまい、精霊ルカは覚醒した“精霊眼”で防壁を斬り、術者に斬撃を与えた。
『ぐはっ……!』
防御もろくに展開できず、赤い液体が噴射した。
『う……うぅ……あ……』
血を大量に流しながらも、諦めずに魔法を放とうと左腕を差し出すも、その前に意識を失い、そのまま果ての見えない奈落へと落ちていった。
『……ケルちゃん、ディーンさん。私勝ったよ』
――此れにて勝者が決定した。
今大会の優勝者は、”聖剣使いの精霊”橋本ルカ。皆に愛されし主人公である。
第462話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




