第461話『決勝戦⑩』
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『――――――行くよ』
ルカは大きく跳躍すると、黄昏のケルベロスは宙を飛ぶ主人を乗せてから、そのまま龍に飛び乗った。
『振り落としてあげますわ!』
龍はルカを落とすため、高速でなるべく曲がりくねった動きをして、乗り心地を劣悪にさせる。
何度か落ちそうになったが、なんとかしがみつきながらも上に登り、頂上である頭に到着する。
『もう一回聖剣を頭に突き刺すイヌ!』
黄昏のケルベロスは聖剣に変化し、その役目をルカに委ねた。
『分かった』
ルカは聖剣を龍の頭に向け、あとはそのまま振り下ろすだけだったのだが、
『同じ攻撃を受けると思わないで下さい!』
龍は突然、近くのステージに向けて超高速で飛び出した。
どうやら、自分の頭をルカと聖剣ごとステージにぶつけて、本格的に落とす気だ。
このままではルカも硬いステージに叩きつけられて、大打撃を負うことになるだろう。
『くっ……一旦退くイヌ!』
ルカはうんと頷くと、聖剣を持ってその場から離脱した。
その瞬間、龍はこの時を待っていたと言わんばかりに、自傷行為をキャンセルし、空中で無防備になっているルカに向けて、口を大きく開いた。
『食べられる!?』
そう思ったのだが、龍は口の前で氷魔法を発動し、まるでビームを放つように氷の塊を発射しようとしている。
やはり龍が放つものなだけあり、威力も大きさも並大抵のものではない。これ一つでビルや施設が容易に潰されるレベルだ。
『うわあ! ヤバい!』
黄昏のケルベロスの犬型フォルムに乗って、安全圏まで逃避したいところだが、距離や時間を考慮すると、とても間に合いそうにない。
なので、可能な限りダメージを最小に抑えるために防御手段を取るか、最大限の威力の攻撃を放って迎え撃つか、その二択しかない。
『よし、ケルちゃん!』
ルカは後者を選択した。
聖剣を持った少女は現在進行形で落下しながらも、聖剣にありとあらゆる力を送り、迎え撃つ準備を進めるルカ。
『炎の精霊よ、できるだけ多くの力を、聖剣に与えたまえ』
聖剣も同調するように紅く輝き出した。それは燃えるような闘志を表しているようにも見える。
『十分イヌ! これならあの巨大な氷の塊も斬れるイヌよ!』
『よし、じゃあ斬るよ!』
紅い聖剣を振りかざすと、さらに燃えるようにオーラが盛り上がる。
そして、それを振り下ろした。
『いっけええええええええええええ!!!!!』
黄昏のケルベロスの影響か、放たれた斬撃は巨大な狼の形となり、氷の塊に衝突する。
すると、氷の塊は真っ二つに切り裂かれ、ろくに使命を果たせないまま、奈落の底へ落ちていった。
『よし!』
ひとまず危機を回避したが、放たれた斬撃はこれで終わりではなかった。
狼型の斬撃は役目を果たしても尚、鎮まる気配はなく、龍へ特攻する。
まるで本物の生物のように雄叫びのようなものを上げると、龍の身体にしがみつき、獲物を頬張るように歯を立てた。
『うっ……あああああああ!』
激痛に顔を歪ませる龍だが、さらなる火傷を覚悟で狼を口の中に入れ、そのまま噛み砕いた。
『うっ……うわあああああああ!!!』
悲痛の悲鳴を上げる龍。飲み込んだものは狼そのものではなくオーラを纏った斬撃だ。熱したトゲの塊をそのまま食べるようなものだ。その痛みは計り知れない。
それでも何とか気合と根性で斬撃を飲み込み、口内に傷跡は残してしまったが、一つの脅威は消え去った。
しかし、ルカの攻撃は止む気配がない。
聖剣にありったけの力を込めたのかと思われたが、まだまだ力は有り余っていた。
一旦ステージに足をつけた彼女だが、先程と同じように斬撃を繰り出すだろう。
『それは……さすがに困りますね……!』
いよいよ本気で焦りを感じ始めたファースト・ドライヴ。
(防壁魔法を使いたいところですが、龍に変身し続けたせいで魔力が心許ない。それにルカさんは、その眼が機能してなくても魔法の根源に攻撃ができてしまうので、結局無意味になる可能性が高い)
『それなら……!』
龍はルカがいるステージの周りを高速でぐるぐると徘徊し続けた。
不自然極まりない行動だが、ルカは気にせず聖剣に力を込めて、次の攻撃の準備を進めた。
『ルカちゃん!』
黄昏のケルベロスは龍の意図に気づき、主人を強く呼び立てる。
『え――――』
しかし、気づいた時にはもう遅かった。
彼女の周りは既に風の中。果てが見えないほどの長く巨大な暴風だ。
『これは……風魔法!?』
『いや、違うイヌ。これはただの風イヌ』
『ただの風?』
龍が高速で動き回ったことで、その摩擦だけで嵐のような風を引き起こしただけだ。魔力などは一切使われておらず、無論魔法の根源など存在しない。そのように聖剣は主人に説明した。
『なるほど。魔法じゃないんだね』
『うん、だから魔法の根源なんて有りはしない。よほど強い力でもない限り普通に剣を振るだけじゃ、この嵐は晴れないよ』
物理法則に則った風の対処法は、それ以上の力で吹き飛ばせばいい。
『それならさっきみたいにケルちゃんに力をいっぱいあげるから、それでこの嵐を吹き飛ばせないかな?』
『やってみよう』
ルカは急いで聖剣に力を込めて、嵐を吹き飛ばす準備を始めるも、それをこの風は許してはくれず、上空へ連れ去られた。
『きゃああああああっ!!!』
『ルカちゃん! くっ……!』
少女は宙を舞いながら衣服が脱げそうなくらい強い風に翻弄され、あられもない姿へと変えられた。
攻撃はおろか防御すらできない状態で、龍は容赦なく彼女に風の斬撃を連続で与える。
ひたすら身体中に傷が刻まれ、風が止んだ頃には遥か上空に打ち上げられていた。
しかし龍はこれだけでは満足できず、追撃として勢いよく少女に頭突きをし、そのままステージへ叩きつけた。
『………………』
傷だらけの身体になった時点で少女の意識は途絶えているので、悲鳴はないが、ダメージの証である流血だけは機能している。
これがもし現実の出来事であれば、身体に関してはほぼ普通の少女である彼女は確実に死亡。無論この仮想空間であろうと同様だ。
――少女は敗北した。もうこの仮想空間で意識を取り戻すことはないだろう。
『はぁ……はぁ……』
龍だった彼女は、見慣れた男装姿に戻り、光の粒子となって消えていく少女を最期まで見守った。
『これで……私の……勝利……ですわ……』
ファースト・ドライヴも既にわりと限界寸前まで魔力を消費しており、もう一度龍に変身することは難しいだろう。
今はもう多少魔法を放つことくらいしかできないが、もう試合は終わりだ。今戦う理由はない。
これから試合結果がアナウンスされ、勝者である彼女も現実世界に――
『まだだよ』
『え……?』
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