第460話『決勝戦⑨』
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『うっ……ぐはっ……!』
身体の異常を伝えるには十分な程に血を吐き出すファースト・ドライヴ。ちゃんと血が通っているということは、分身ではなく本体のようだ。
手応えを確かに感じたルカは、達成感に満ち溢れそうになったが、まだ戦闘は終わっていないと心に鞭を打って、さらなる追撃を行う。
『うわあっ!!』
まともに刃を受け、噴射する赤い液体。度重なる流血により、足場は殺害現場のように血生臭い光景が出来上がった。
十分にダメージを与えたと判断したルカは、追撃をやめて、剣の先だけを彼女に向けた。
黄昏のケルベロスも同じように警戒心を決して解かない。
『ファースト・ドライヴさん、降参してください。その傷じゃもう――』
このままだと彼女は死体となり、脱落するのも時間の問題だ。
そんなことはファースト・ドライヴ自身が一番よく分かっている。
『なめないで……くだ……さい。私には……まだ……手が………………治癒魔h――』
治癒される寸前――黄昏のケルベロスが素早く動き出し、ファースト・ドライヴの口元を前足で押さえた。
『んんん――――――!』
呪文さえ封じれば魔法は発動できない。黄昏のケルベロスの前足を退かすほどの力が彼女にはない。
『もう終わりです。とどめを刺しますね』
ルカは容赦なくその剣を彼女の首に定めて振り落とした。
とどめを刺したその姿は、戦士というより、まるで冷酷な処刑の執行人のようだった。
いかに仮想空間とはいえ、年端のいかない彼女にこのような残酷な光景は精神的に堪えるものがあるだろう。
しかし、ルカという少女はそれでも表情を崩すことなく、その光景をしっかりと目に焼き付けた。
そこにいるのは、ただの可憐な少女ではなく、己の願いの為に命を賭けた戦士――否、勇者である。
『ふぅ……終わったね』
無惨な死体となったファースト・ドライヴは塵となって、どこかへ消え去った。今頃現実世界で、ベッドの上に連れてかれてることだろう。
『やったよルカちゃん! 僕たちの勝利だ!』
勝利を確信し、歓喜の表情を見せる黄昏のケルベロス。
ルカも心の底からお祭りムードが押し寄せており、限りない喜びを身体全体で表した。
これにて、決勝戦の勝者は――
――これで本当に終わり?
『ん?』
彼女の本能が訴えている。本当にファースト・ドライヴを倒したのかと。
溢れていた歓喜の気持ちは一瞬にして引っ込み、代わりに警戒心が再びのし上がってきた。
『優勝のアナウンスまだかなー!』
不安を煽られる主人とは対象的に、るんるん気分で自分たちを称える声を待つ黄昏のケルベロス。
『ねえ、ケルちゃん』
ルカの深刻そうな表情で、シリアスな空気を作り出した。
『なに?』
『ファースト・ドライヴさんが召喚した龍はどこに行ったの?』
『え? あ、あぁ――その龍なら術者が脱落したからもういないんじゃないかな……?』
嫌な予感を覚えたルカは空を見上げる。ハッと驚き、次に指を上に向けて、
『……じゃあ、アレはなに?』
震えた声で疑問を呈する。
『え?』
黄昏のケルベロスも上を向いた。
『えっ――――なんで?』
黄昏のケルベロスにとっても、信じられない光景が目に浮かんだ。
先程、黄昏のケルベロスが倒したはずの龍だが、床に寝転ぶどころか、何事も無かったかのように元気に大空を舞っていた。
『そんな馬鹿な……だって、聖剣はあの時、確かに――』
あの時の記憶を掘り起こして確認する黄昏のケルベロス。それに一切の間違いはなく、現実で起こった事だ。
しかし、そうなると今見ている光景と矛盾してしまう。
『あら、今頃気づいたんですの?』
龍はルカ達に近づくと、どこかで聞いたことがある人間の女性の声で、お嬢様のような口調で話しかけてきた。
『えー!? 龍が喋った!??!?? 君喋れたの!?!?!?』
『というか、その声、喋り方……まさか……』
パズルのピースがハマるように、正体に気づき始めたルカ。
その名を口にする前に、本人が正体を打ち明ける。
『ええ、私が本物のファースト・ドライヴですわ』
身体の大きさに合わせて声も多少野太くなっているが、龍から聞こえるのは紛れもなくファースト・ドライヴの声だった。
『え、どういうこと?』
混乱する黄昏のケルベロス。一方横に立っている少女は冷静に状況を分析する。
『多分だけど、ファースト・ドライヴさんも私と同じなんじゃないかな。分身を作ってそこに魂を移したんだと思う』
『分身って、じゃあさっきのファースト・ドライヴさんは完全に偽物で、あの龍が本物のファースト・ドライヴさんなの?』
ファースト・ドライヴは人間ではなく、本当は龍だったのかと、黄昏のケルベロスは言った。
『いいえ、違いますよ。今の私は確かに龍の姿をしていますが、これはただの変身魔法ですよ』
本人が答えを言った。
『変身魔法って、確かあおいさんが覚えてる魔法だったよね。その名の通り他の人になりきれるすごい魔法みたい』
『ルカさんの仰る通り、変身魔法というのは他の何かに姿を変えられる珍しい魔法です』
『へぇ、だから龍にもなれたの?』
『はい。私の場合は人になるのはあまり得意ではありませんが、その代わり他の生物になるのは苦ではありません』
『そうなんだ。じゃあ今度こそ貴女が本物のファースト・ドライヴさんってことでいいんだよね?』
『ええ、そこだけは保証します。貴女こそ本物のルカさんですか?』
『うん、間違いない』
両者共にその言葉に嘘はない。
分身という名の弾丸はもう切れた。ようやく本物と本物の戦いが幕を切ったのだ。
『ずいぶん回りくどいやり方でしたが、ようやく本気の貴女と戦えます。私も全力でルカさんを倒します。遠慮せずにかかってきなさい。私に勝てるとは思うなら』
『それはこっちのセリフだよ。私をいつもの私と思わない方がいいですよ』
怯えるどころか、まるで歴戦の戦士のように不敵な笑みを浮かべるルカ。そんな彼女も非常に可愛らしいが、カッコよさと頼もしさも感じぜずにはいられない。
(ディーンさん……わたし絶対勝つよ)
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