第458話『決勝戦⑦』
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龍の悲痛の叫びは止まらない。
聖剣は頭上に刺さったまま、少しずつ皮膚を切開していく。
龍は激痛故にかなり不安定な挙動をとっている。足場に激突したり、不規則にくねくねと動いたりと、目も当てられない状態だ。
そんな状況でも、聖剣は揺らぐことなく、強い意志を持って突き刺さっている。
(いいぞ、刺さったままでも確実にダメージが入ってる。このまま龍を斃すのも時間の問題だ。…………あの人が来なければの話だけど)
『――仕方ないですね』
ファースト・ドライヴは自ら龍の頭に転移し、聖剣を抜こうとする。
しかし、そうすると当然龍に更なる激痛が襲いかかる。なので、一時的に痛みを感じなくさせる必要がある。
『麻酔のような魔法をかけるのでちょっと我慢してくださいね』
医師のような事を言って、本物の医師のように治療を開始しようとする。
その後、龍は彼女の指示通りに動き、今は比較的大きな足場の上で大人しく横になっている。
(ちっ、やっぱり助けに入るか。まあでも予定は狂ったけど、これはこれでチャンス到来!)
剣となった黄昏のケルベロスは、治療に専念する彼女が無防備な状態を好機と捉え、すぐに龍の頭から引っこ抜いて、猛スピードでファースト・ドライヴを一直線に襲う。
しかし、その目的は達成されず、彼女の前にある透明の壁に阻まれてしまった。
『防壁魔法イヌか』
隙があるようで全くない。常に守られている状態では不意を突くなど全く無意味だった。
『どうやら聖剣でも、この防壁魔法を突破するのは難しそうですね』
ぐぬぬ、と図星をつかれる黄昏のケルベロス。
だが、これで分かった事も一つある。それは先程彼女が防壁魔法を発動していたのに、試合直後に戦った分身の彼女には防壁はなく普通に攻撃が通っていた。ということは今、目の前にいる彼女は絶対に守らなければいけない対象であり、それは間違いなく本物だと断定できるのだ。
しかし、それが分かったところで攻撃手段がないのであれば全くの無意味だが。
『確かに、ファースト・ドライヴさんの言う通りイヌ。どうあがいても貴女にダメージを与えられる気がしないイヌ』
実質敗北宣言と捉えられる事を口にする。
『では、諦めますか?』
『――うん、諦めるイヌ』
にこやかにそう答えた。
『あら? 本当に降参しますの?』
まさかの返答に、ファースト・ドライヴは少し驚いた表情を見せる。
『降参はまだしない』
『まだ?』
妙な言い方に違和感を覚えるファースト・ドライヴ。何か作戦があるに違いないと思わせるには十分な発言だ。
黄昏のケルベロスは目をつぶる。
『……』
会話が突如切れ、沈黙が続く。
『………………あの、もしかして眠いんですか? ちゃんと睡眠は取れてますの?』
目を閉め続ける黄昏のケルベロスに、ファースト・ドライヴは本気で心配の声を上げる。
『ん、あぁ、ごめんなさいイヌ。別に寝てたわけじゃないイヌよ。ただの瞑想イヌよ』
本当か嘘か分からない回答だが、ファースト・ドライヴはこれ以上は追及しなかった。
『そうですか。それならいいのです』
『ご心配をおかけしましたイヌ。さあ戦闘を再開させましょうイヌ』
さすがにこれ以上待たせるのも悪いと、黄昏のケルベロスは戦闘の再開を促す。
それぞれ向かい合って殺意を交わす前に、ファースト・ドライヴは加速的に思考を巡らせた。
(聖剣ケルちゃん、一体何を企んでますの? 勝ち目の無さすぎる戦いになぜまだ挑む? 実は隠し玉を持っているから? それともただの悪あがき? でもそのわりには聖剣の顔から絶望感が見えない。やはり何かを待っている? それは何だ? 魔法か? それとも――)
一つの仮説を立てたファースト・ドライヴは、とりあえず深く考えるのをやめ、黄昏のケルベロスと対峙する。
(一応、警戒しておくに越したことはないですね。何せ最近セカンド・ドライヴ君が稽古をつけているのです。きっと彼のことだから効率的に勝つための手段を叩き込んだに違いない)
警戒心を最大まで高めるファースト・ドライヴ。おそらくどこかで襲ってくるであろう“何か”への対策を講じる。
(一応、探知魔法に慧眼魔法を重ねて――)
『準備はよろしくて?』
『うん』
両者睨み合う。そして――
『では、こちらから行きます!』
ファースト・ドライヴは龍への治療を進めながら、上空に手を伸ばすと、岩石魔法で大きな岩石を出現させ、宙に浮かせた。
そして、砲丸投げのようなフォームでぶん投げると、それに反応するように岩石も動き出した。
一軒家の家を全部潰せるほどの大きさと威力を兼ね備えた岩石が襲いかかる。
これはまるで隕石だ。そう思わずにはいられない黄昏のケルベロス。聖剣は気合を入れるために雄叫びを上げると、その岩石に飛び乗り、足場のように踏み越え、彼女に牙を突き立てる。
『だから防壁が張ってあると言っているでしょう? もうお忘れですか?』
今でも彼女の目の前には、いかなる攻撃を通さない最強の壁が立っている。このままでは突進する黄昏のケルベロスの顔面は壁によって強打され、地面を転げ回りながら悶絶するほどの痛みが聖剣を襲うだろう。
『もちろん知ってるイヌよ』
今の状況はしっかりと把握していると断言する黄昏のケルベロス。
(ん? では一体何が目的――)
――ふと、空を見た。
――そこには、天に浮かぶいくつもの足場、それらを見下す雷雲の群れ。そして――光る刃物を持った少女が空から下降していた。
『あ、あれは……!?』
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