第457話『決勝戦⑥』
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『ケルちゃん!』
ルカが合図をするように呼ぶと、ケルちゃんは再び犬型フォルムになり、少女を乗せて、足場を飛び立つ。
龍の視界から外れるように動きつつ、ファースト・ドライヴに直接攻撃をしかけるつもりだ。
『風の精霊よ、私に力を与えたまえ』
竜巻のような突風をファースト・ドライヴに向けて放出する。
しかし、彼女の前に龍が素早い動きで立ちはだかり、竜巻を身体で受け止めると、四本の足で囲むように押さえ付け、最後にはそのまま押し潰して竜巻を殺した。
『なっ……!?』
作戦もへったくれもない超力技に、恐怖を感じたルカ。
さっきのは本気の攻撃ではなかったとはいえ、風船を割るが如く簡単に消されてしまった。
これだけでも既に力の差に絶望を叩きつけられたような感覚に陥ってしまいそうだが、彼女の目は死んでいない。
『ケルちゃん、聖剣になって』
聖剣は分かったと返事をし、指示通りの姿となった。
『でもルカちゃん、これからどうするの?』
『聖剣の斬撃を飛ばすよ!』
精霊の力がダメならば、聖剣の力であれば龍に攻撃が通るのではないかとルカは思った。
『でも、さっきそれも効かなかったんじゃなかった?』
『あの時は精霊の力と自然の力に頼っていたところがあったからね』
『それでもあの時は聖剣の力もちゃんと入ってたよ!』
その上に精霊と自然の力を足している。プラスされた結果ですらノーダメージで弾かれている。
ここで無闇に攻撃をしても無意味だとケルちゃんは言う。
『一旦引き返そう。もう一度作戦を立て直して、それから挑もう』
『……』
ルカは反論せずに黙って聖剣を引っ込める。
『おや、何もしないのですか?』
攻撃をやめた彼女を不審に思ったファースト・ドライヴは思わずそう聞いた。
『……』
ルカは質問には答えず、犬型フォルムのケルちゃんに乗って、空へ飛び立った。
逃さないと龍は追いかけようとするが、ファースト・ドライヴに止められた。
『今は追わなくてもいいでしょう。少ししたら彼女らの方から必ず姿を現します。……それに私もちょっと疲れました』
ファースト・ドライヴは腰を落とし、息を切らして、苦悶の表情を浮かべる。
龍を召喚した代償に、ファースト・ドライヴの魔力も体力もかなり消費している。
『私は少し休みます。あなたは見張りをお願いします』
ファースト・ドライヴは魔法でベッドを出して横になった。
龍は主人の命令に少しも頷かなかったが、特に彼女に反対するような意志はないようだ。
龍は何を思ったのか、その辺を飛び回りながら、静かに主人を見守った。
――――――――――
撤退を選択したケルちゃんは、主人を乗せて上へ登る。
視界から敵が完全に消えたところで、近くの足場に身を置いた。
『ここまで来ればもう大丈夫イヌ』
『どうやら追ってはこないみたいだね』
とはいえ完全に安心できるような状況ではない。あの龍が今後絶対に追ってこないという保証はどこにもないからだ。
『一応警戒はしておくイヌよ』
『うん、そうだね』
ルカはどこか悲しそうな声で体育座りをした。
『ルカちゃん?』
明らかにテンションが低い彼女を案じて声をかけたが、返事をする気力すらないようだ。
『どうしたイヌ?』
『……』
どう声をかけようと反応はない。まるで魂を抜かれているようだ。
『ケルちゃん……わ……た……し……もう……』
ルカは何とか力を振り絞り、声を放出する。
『ルカちゃん……そっか、もう限界イヌか。ずっと慣れない事してたもんね。ここまでよく頑張ったと思うイヌよ』
労いの言葉にルカはどこか嬉しそうにコクンと頷いた。
『ルカちゃんもしんどいだろうから、もう終わりにしようか』
『うん、よろしくね』
黄昏のケルベロスは、彼女に引導を渡した。
そして、そこに主人はいなくなり、聖剣は役目を果たすため、すぐに下へ飛び降りた。
――――――――――
それから数十分後――
雄々しき犬は新たな決意を胸に、ファースト・ドライヴの元へ向かう。
『ファースト・ドライヴさん』
睨みつける龍に臆せず、近くの足場に降り立った黄昏のケルベロス。
『戻ってきましたか。思ったよりも早かったですね。一人足りないようですが、彼女はどうかされたんですか?』
そこに主人の姿はない事に違和感を覚えないはずもなく、ファースト・ドライヴは素直に疑問を呈した。
『……さあね』
答えは言わずに、すっとぼける黄昏のケルベロス。
『なるほど、答える気はないと』
『……うん』
『まあそれはそうでしょうね。敵にわざわざ情報を送りつける人なんて、迂闊な人か、よほどの舐めプ野郎くらいしか居ませんもんね』
両者共に会話の弾丸が切れると、静寂な空気が支配する。これから始まるのは殺し合いだと、空気が伝えているようだ。
数秒後――合図をするかのように不敵に笑うファースト・ドライヴ。
その瞬間、黄昏のケルベロスは隣のステージにいるファースト・ドライヴに向かって猛突進する。
しかし、このまま体当たりさせてくれるわけもなく、龍が立ちはだかる。
龍はハエを追い払うが如く獰猛な爪を振るう。が、黄昏のケルベロスはその爪の上にタイミングよく着地した。
一方で龍視点では、攻撃の手応えは全く皆無。しかもターゲットが消失しており、一瞬困惑したが、爪の感触がようやく脳に届くと、そこに何かがいることに気づいた。
しかし、そこに視線を向ける頃には何もいなかったが、代わりに胴体に何かが登ってくるような感触を覚えた。
黄昏のケルベロスは、爪に乗っかったあと、見つからないように速やかに胴体を這い登り、頭上に着いた。
そして一度跳躍し、それから自ら聖剣に戻り、刃が下に向いたまま勢いよく下降した。
すると、見事に刃が龍の頭に入り込んだ。
頭上の痛みに怒りがこもった叫び声を上げる。
犯人は分かっているので、龍は黄昏のケルベロスを振り落とすために身体を回転しながら猛スピードで空を飛び回る。
しかし、聖剣は深くめり込んでいるので振り落とすのは難しい。むしろ刃が更なる開拓を進めているので、余計なダメージを受けるばかりだ。
もはやどうすることもできない地獄に龍は天に助けを乞うように悲痛の叫びを上げ続ける。
(よし、いいぞ。このままあの伝説の龍を倒してルカちゃんに自慢してやるイヌ!)
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