第453話『決勝戦②』
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ルカの目の前にいるファースト・ドライヴは分身であった。
『驚きましたか?』
『分身……本当に?』
ハッタリではないと証明するように、負傷した肩に指を指す。
どんな強者でもこれだけの出血量で汗一つ流さず、余裕な態度を取るのは難しい。況してやファースト・ドライヴは身体能力がほぼ一般人レベルで低い。
彼女の言うことは嘘ではない。本当に分身であることは間違いないだろう。
『すごいね、本人が喋ってるみたいだよ』
分身魔法を賞賛するルカ。しかし苦い表情をしている。
『あら、分身魔法はあまりご存知ではない?』
『知ってるよ。この前のサバイバルの試合の時にディーンさんが分身魔法を使ってたから』
『ああ、そういえば使ってましたね。その時の動画閲覧させて頂きましたよ』
全試合をカメラに収めて、振り返り用の動画を閲覧できのるようにノルン様が用意したのだ。
『あなたも思ったより強くなられたようで、敵ながら嬉しい事です。でも勝つのは私ですけどね!』
ファースト・ドライヴの身体全体から紫色のオーラが溢れ、そこから剣や銃といった武器の数々が次々と浮かび現れた。
そんな光景を見て、次の展開を想像するのはむずかしくない。
ファースト・ドライヴの周りに浮かぶ武器達は一斉にルカに攻撃を仕掛けるだろう。
ルカは剣を構え直し、金色のオーラを纏う。
『一斉攻撃!!!』
命令を受けた武器達は役目を果たすため、それぞれの攻撃方法でルカを襲撃する。
『行くよ、ケルちゃん!』
『うん、あ、でも待って』
『どうしたの?』
『上に何かある』
『上?』
しかし、襲いかかる武器の数々を対処するため、ルカは目が離せない。何があるのかは分からないが、ケルちゃんが彼女の目となり、その何かを具体的に説明する。
『……なるほど』
理解したルカは、精霊の力を使用しながら、回避も兼ねて、その何かを取りに上空へ飛んだ。
それに向けて手を伸ばす彼女を見て、ファースト・ドライヴは少女の企みに気づき、転移魔法を使ってルカを妨害した。
『負けない!』
(これを取れば……有利に進める!)
手を伸ばした先にあるのは、六角形のガラスの結晶のようなもの。そこには疾走感ある青いブーツと上を向いた矢印が描かれていた。
絵から察するに、スピードが上がるアイテムなのだろう。足が速くなれば、相手の攻撃が当たりにくくなり、こちらの攻撃が相手の防御対応の速度を上回れれば、必ず隙が出るので、そこを突くこともできる。
素早さというものは、ゲームにおいても現実においてもどのような勝負においても、勝敗の鍵を握る重要な要素なのだ。
『渡しませんよ!』
ファースト・ドライヴは風魔法でルカを落とそうとする。
『くっ……風の精霊よ、私に力を与えたまえ』
一旦地面に着地したルカは、同じように風の力を彼女に向けて発射する。
――風と風が衝突する。
(今だ!)
ルカは風の間を風の力を利用しながらうまく潜り抜け、ファースト・ドライヴの目の前までたどり着く。
『なっ……!?』
そして、剣を振り落とす。
刃が彼女の柔肌に侵食するも、分身であるため本体に全くダメージはない。むしろ刃をその身で受け止めたまま、無防備なルカに攻撃することもできる。
『悪いですね。重力魔法』
ファースト・ドライヴは、重力をルカに付与し、地に引き寄せようとする。
その内に彼女は更に跳躍し、アイテムに手が触れ――
『ケルちゃん!!!』
その名を叫ぶと、ケルちゃんは再び犬の姿に変貌し、ファースト・ドライヴの手に渡る前にアイテムを口に加えて横取りした。それから、地に激突する主人を助けに、目にも止まらぬ速さで自らクッションとなって、ルカを助けた。
『ありがとう、ケルちゃん』
『ひにひなふてひいいう』
口に加えたままなので、言語がうまく話せないようだが、『気にしなくていいよ』と言いたいようだ。
『それじゃ喋れないでしょ。一旦それ預かるよ――きゃっ!』
ルカはそのアイテムに手を触れた瞬間、ガラスのようにパリーンと割れ、バラバラに散ってしまった。
『ルカちゃん、大丈夫イヌ!?』
『うん、大丈夫だけど……でも』
ルカは今の自分の身体の“軽さ”に気づいた。一挙一挙の動作が速く、今なら世界最速の陸上選手すら軽く抜かせるのではないかと思ってしまうほどだった。
何らかの事故で壊れたかと思ったアイテムは正常に作動したようだ。
『これ、すごいかも』
ルカは試しにステージの端から端まで走った。その間、僅か二秒。
あまりの速さに、本人はもちろん、未だに上空に浮かんでいるファースト・ドライヴも驚愕の表情を浮かべた。
(うそ……こんなに速いの?)
ルカの視線がファースト・ドライヴへ向けられた。
『まずい……!』
ファースト・ドライヴは別のステージ場に待機させていた他の分身達を呼び出し、一斉に攻撃魔法を連射する。
突如、自分へ向けられた大量の魔法。通常ならばこれを全てかわしたり、剣で弾くのは至難の技だ。しかし、今は――
『今の私は――強くて速い!』
そこからは無双だった。人類を超えた速さで全ての攻撃魔法を斬り、分身達を次々と薙ぎ払った。
気がつくと――
『あれ、もう終わり?』
全ての分身を倒していた。最初に戦った分身も含めて。
しかしまだ油断してはいけない。確かに周辺には誰もいないが、勝敗のアナウンスはない。つまり、まだ勝負はついていないということだ。
『まだ下にいるのかな』
ルカは肉眼で下のステージを見てみるも、その数が思ったよりも多い上に、ここから距離が遠いステージもいくつかあるので、把握しきれない。
『うーん、ここからじゃ見えないな……。仕方ない、一つ一つ下ってみようか。ね、ケルちゃん』
犬の姿になっているケルちゃんは返事をするように雄叫びを上げると、身体を少し大きくし、ルカが乗れるくらいのスペースができた。
ルカは遠慮なくケルちゃんに跨り、大空を舞うライダーのように、次の島へと進んだ。
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