第448話『試合のその後①』
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試合終了してから数時間が経過した。
とっくに目を覚ました俺はベッドの上で天井のシミを数えていた。この行為自体に特に意味はない。
ただ単に身体が満足に動けなくて暇なだけだ。
どうも試合中の魔法連射が身体に大きな負担がのしかかったようで、魔法もほとんど使えない。
完治するには、ある程度日を跨ぐ必要があるようだ。治らないわけではないので、そこは安心した。
学園長には連絡済みだが、今の俺には学校に行く術がないので、代わりの教員に一時的に担任になってもらうことになった。
生徒達には、オーガスト・ディーン先生は諸事情により少しの期間休みになると伝えてくれるそうだ。
『はぁ……休めるのは嬉しいが、生徒達の事も心配だし、動けないのは辛いなぁ……』
愚痴はこぼすものの、魔法連射については後悔はしていない。
デバフを付けたからなのもあるが、この俺が、あのセカンド・ドライヴに対し、一方的に攻撃して倒せるとは、あまりにも破格なメリットだ。
特定の条件であれば、ゼウス打倒の鍵にもなるかもしれない。そう思ったのだが、ノルン様によると、あの魔力消費ゼロの特典はあの仮想世界でしか発動できず、この世界でそれを適用するにはさらに上の権限が必要だ。
今のノルン様にはそのような権限はない。
本格的な改造を使うには、管理者の力が必要だ。
どこにいるかも分からない。ノルン様ですら管理者の情報がほとんどない。
自分は所詮AIだと、自画自賛の塊である女神様が珍しく自分を卑下していた。
まあ、つまりゼウス打倒に関して現状はまだお手上げ状態らしい。
だが、この大会を通して全員が確実に戦闘経験を積み、一歩一歩前に進んでいることは確かだ。決して停滞なんてしていない。
残りは決勝戦のみ。対戦カードはルカちゃんとファースト・ドライヴ。
セカンド・ドライヴとほぼ同等の力を持つ彼女と一人で戦わせるのは、なかなか酷な話だが、これも経験だと思って頑張ってほしい――なんて思ってるわけねえだろ。
何が頑張ってほしいだ。自分が不甲斐ないせいで脱落して、生徒に重要な役目を押し付けただけじゃねえか。綺麗事で誤魔化してんじゃねえ、ふざけんな俺。
おっと、自分を責めるのはこれくらいにして、先の事を考えよう。なってしまったものを嘆いていても何も始まらないからな。
正直、今のルカちゃんがファースト・ドライヴに勝てるとは思えない。
不意打ちを成功させて、何かしらの戦略でうまく視覚を封じればワンチャンあるかもしれないが、あまりにも理想的で都合が良すぎる考えだ。
彼女のレベル上げの為に、俺と模擬戦をしたり、巨人を狩りまくる手伝いをしたいが、今の俺がこのザマだ。
いつ回復するか分からないが、決勝戦まであと七日の猶予がある。それまでに身体が動けばいいが、無理だった場合は、あおいちゃんやパーシヴァルを頼るしかない。もちろん二人にも仕事があるから、まともに時間なんて取れないだろうな。
――何もできない自分に腹が立つ。自分を責めるのを一旦やめたはずなのに、心の火山が噴火を抑えられない。
レベル上げを手伝うどころか、ルカちゃんに会いに行って、決勝戦おめでとうの一言すらかけられないなんて、彼女をサポートする立場としてあってはならない。
それに、俺の快楽が満たせなくなるくらいまで人間関係が悪くなる可能性すらある。
“ディーンさん、だいっきらい”
なんて言われてしまうかもしれない!
ルカちゃん、医務室まで来てくれ!
俺は魔力のかけらも無い、気合だけのテレパシーを送った。
わるあがきする俺に幸運が訪れたのか、扉が開く音が聞こえた。誰か入ってきたようだ。
なんというタイミング……まさかルカちゃんに俺の想いが通じたのかと思った。
『ルカさんだと思いました? 残念、私でした!』
ここに現れたのは、にこやかな笑顔を浮かべたノルン様だった。明らかに嫌味たらしく話してきたので、俺のテレパシーを拾って嫌がらせをしようと企てたのだろう。
この女神マジで性格悪いな……。
彼女は俺の悔しがる顔を見たいはずだ。なので、俺は心と感情を無にしてから会話に応じた。
『あらあら、これはノルン様。本日も麗しゅうございます。此度は何の御用でしょうか?』
できる限り丁寧に接する。
『おほほほほ、ちょっとしたお見舞いですわ』
そう言って、お見舞い品をベッドの側の机の上に置いた。
ほほぅ、フルーツバスケットか。お見舞い品としては定番中の定番だな。
美味しそうという感想以外特に浮かばないが、ノルン様が真面目にお見舞いするところをみると、本当に俺を案じて来てくれたようだな。
『これはこれは、お見舞いありがとうございます』
『これくらいは当然です。貴方がこうなったのは私の責任でもありますから……』
ノルン様は柄にもなく、しゅんと顔を下げて反省の態度を見せた。
『へぇ、ノルン様が責任を感じるなんて、そんな真面目な一面があったんですね。体温計測ってはいかがですか?』
ノルン様がこんなに真面目な訳がない。きっと熱があるに違いない。
『最後の一文が余計ですわよ。というか心も読めてますわよ。貴方ホント失礼過ぎますわよ。“シュヴァルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”食わすぞこのガキが』
『最後の一文が余計ですわよ。口が悪すぎますわよ。というか、“シュヴァルツシルトトマトブラッドバーニングラインヴァイズ”の危険性分かってんじゃねえかですわよ』
そう反論すると、短気なノルン様は理性という名の線がプッツンと切れ、俺に罵倒のシャワーを浴びせた。
正直、何言ってるか分からなかったが、いつものノルン様に戻ったようで安心した。
やっぱり、こうじゃなくちゃな。
だって――
『俺の快楽、だからですか?』
当然のように俺の心を読んできたノルン様は、呆れたような表情でそう言った。
この女神に隠し事はできない。今更嘘をついたところで意味はないだろう。ここは正直に話そう。
『ええ、そうですよ。俺の快楽の為に一芝居打たせて頂きました』
今、俺の目はどうなっているんだろうか?
ヤバいサイコパスと同じような目をしているのだろうか?
鏡を見ればはっきりと分かるが、目の前にいるノルン様の引いたような顔を見て、俺は察した。
――あぁ、今の俺はきっと欲望のままに動く醜い生物なんだろうとな。
その後は、次のお客さんが来るまで、ノルン様からとある情報を共有してもらったり、しょうもない雑談をしたりした。
俺の欲望に引き気味だったはずだが、なんだかんだ態度を変えずにいつも通りに接してくれたのはありがたかった。
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