第430話『サバイバルバトル〜未知のファンタジーと努力の拳〜』
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《ファースト・ドライヴ視点》
――熱い。
――痛い。
――滾る。
戦うってこんなにも熱いものなのか。抽象的な表現だが、自分の魂が震えているような、身体全体が燃えているような、そんな感覚だ。
もちろん、痛いし辛い。早く怪我を治して帰りたいとすら思う。
しかし、そんな弱音は私の魂に焼かれて消滅した。
こんな気持ちは初めてだ。
勝ちたい。私は早乙女わかなという強き者をこの手で倒したい。
前世の私は戦闘を知らなかった。知っていてもせいぜい画面の中でしか目にしたことがない。
どれだけ血を流しても、どんなに残酷な出来事があっても、常に他人事のように、現実世界から見世物を見ていた。
もちろん感情移入をすることもあるけど、それだけだ。どんなに素晴らしいゲームだろうと、超大ヒット映画だろうと、所詮は誰かが考えたストーリーでしかない。実際にこの世界で起きた出来事を題材にしてる作品もあるにはあるが、それでも私は結局画面の中の物語としてしか見ていない。
だから、画面越しで見てる私達には何の関係のない話。喧騒や犯罪自体は現実世界にも実際にあるが、私は遭遇した事がない。毎日ニュースとかで事件が起きたと報道されるが、あまりにも実感が無さすぎる。平和脳とはまさにこの事だろう。
そんな私が魔法蔓延るこの世界に転生しても、VRゲームの世界に入り込んだような感覚しかなく、どこか他人事であった。
――まあ、ダメだったら仕方ない。とりあえず“セーブ”しよう。失敗してもやり直せる。なあに焦ることはない。ちょっとずつでも攻略法を見つけて、ミッションクリアしていけばいいさ。ガチ勢じゃあるまいし。
でも、それはゲームの話。今の私は初めて身体に損傷を負ったことで、そんな遊び感覚は忘却の彼方へ消え去った。
――痛い。辛い。熱い。
私は思い知った。そうだ。これはゲームじゃない。いやまあ厳密に言うとゲームの世界だけど、そうじゃなくて。
偽物の世界でも、今はれっきとした現実だ。
魔法も未来人も精霊も女神も何でもありの現代ファンタジー。それがこの壊れた世界。
そんな世界に私は足を踏み入れたんだ――
『……』
――私は今さっき、わかなさんに超痛いパンチを喰らってしまい、土の上で横になっている。
『……チユ……マホウ……』
私は小声で治癒魔法を唱えて、自分の身体を癒やす。そうでもしなければ、まず立ち上がることができないからね。
痛みが引っ込むように消えていく――身体の熱も分解され、重くなった身体が次第に軽くなっていく。
ついでに体重も軽くなってくれればいいのに、なんて考えるくらいには心に余裕が現れた。
大怪我が完全に回復すると、私は軽い腰を上げる。
『よっと。ふぅ、わかなさん。なかなかやるじゃないですか! 私にダメージを与えるなんて!』
いや、これ本当に驚いた。オベイロンさんのように魔力の根源が見えているわけでもないのに、本体のように未来の魔法が使えるわけでもないのに、彼女はただ己の筋肉だけで防壁魔法を完全攻略してしまったのだ。これを名誉と呼ばずに何と呼ぶ。
『貴様、なぜ立ち上がれる?』
わかなさんが驚かれるのも無理はない。先程まで私は確かに改心の一撃とも呼べる攻撃を受けて、地に背中を預けてしまった。にも関わらず、今の私はまるで何事も無かったかのようにピンピンしているではありませんか。これを不思議に思わないわけがないだろう。
『これは治癒魔法ですよ。どんな重傷を負っても完全に治る革新的な魔法です。たださすがに病気や一部の強力な呪いには効きませんけどね』
『むぅ、それも未来の魔法というやつか。なんと多彩であることか……』
わかなさんは、これまでに見ないような渋い顔をしていた。よほど想定外だったのだろう。
この状況をゲームで例えるなら、城塞無敵の敵キャラにやっとの思いでダメージを与えたのに、突然全回復するようなものだ。
そんな場面に出くわせば、きっと多くのユーザーが、バアン! と台を叩きつけるだろう。私も多分やっちゃうかも。
要するにこれは理不尽なのだ。戦いに情けは不要ではあるのだが、これにはさすがの私も“大人げない”と罪悪感を覚えてしまう。
『なんか、ごめんなさいね』
本心からの謝罪の気持ちを込めて、そう口に出した。
だって、彼女は未来の魔法なんて一切使えないのに私は遠慮なく使ってるから、ズルいと思われても仕方がない。別の意図があるとはいえ大会なのに一部の人だけ大きなアドバンテージを得ているなんて、よくよく考えたら不公平過ぎるよ……。
『なぜ貴様が陳謝する?』
『え、だって私ばかりこの時代にはない未来の魔法使ってるから、ずるいかなって』
『気にすることはない。時代のギャップは確かに感じてはいるが、我自身はそもそも魔法はあまり使わないのでな。大きな変化は無に等しい』
『わかなさん……』
気を遣って言っているわけではなく、わかなさんは心の底からそう思っている。
でも、もし貴女が未来の魔法を学んだら、もしかしたら新しい戦い方が見つかってたかもしれない。彼女はどういうわけか今朝から強くなりたいとますます意気込んでいるようだし、まあ、だからこそ私達のような未知の相手と戦える事に喜びを感じているのもあるのだろう。
『未来の魔法、大いに結構。我はこの拳だけで貴様という未知の相手を打ち破ってみせよう』
わかなさんはあふれ出る戦意を掲げるように再び構えた。どうやら彼女もとっくに覚悟はできているようだ。たとえ私が未来というアドバンテージを持っていても、彼女はどんな壁でも乗り越えてきた猛者だ。この程度で挫折などするわけがなかったのだ。
すごい、すごいなぁ。
『わかなさん、私は貴女に心からの敬意を表するよ』
でも、嫉妬しちゃうなぁ。だって私に持ってないもの、欲しかったものを貴女は持っているんだから。
『む、そうか。厚意は素直に受け取ろう。しかし我も貴様の強さには感服する』
そう言ってくれるのか。でもね、この力は“自分で得た物”じゃなくて“与えられた物”なんだ。私の努力なんて一ミリも込められていない。
ゲームで言うならこれはチートだ。他のユーザーを差し置いて、私だけ最初から最強の状態で始まっているだけなのだ。
分かってる。これは女神に依頼された重大な任務だ。必ず遂行しなくてはいけない。たとえ卑怯者と罵られようとも。
『……本当にごめんなさいね』
『何か言ったか?』
『いや、何でもないですよ』
『そうか。なら試合を再開しよう』
わかなさんは大地を蹴り、私に向けて拳を振りかざした。数々の思いを胸に――
なんて言うけれど、思いは結局己の欲だよ。エゴだよ。
でもそれでいい。その方がよほど人らしい。
だから私も、もっと人らしく――
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