第429話『サバイバルバトル〜越えられない壁〜』
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会話という名の前哨戦が終わると、わかなは大地を強く蹴り、ファースト・ドライヴに向かって拳を振りかざす。
ファースト・ドライヴはいつも通り防壁魔法を張り、完全な防御態勢に入る。
『ぬぅ……!』
拳は透明な壁に阻まれ、相手に攻撃が通らなかった。
目の前に標的がいるのに拳が通らないもどかしさ。決して届かないと分かっていても、つい拳が前に出てしまう。
が、わかなは肉体だけでなく、精神も鍛えられている。それが彼女を冷静な心に引き戻す。
空気を裂く拳を止めて、
『……仕方あるまい』
わかなは一旦下がり、様子を伺う。
『賢明ですね。このまま殴り続けても私に攻撃は通りませんからね』
ファースト・ドライヴは教官面でわかなを褒めた。
しかし、称賛の言葉を貰ったところでわかなに歓喜の心は皆無だ。むしろ、どうやって攻撃を通せばいいのか分からず、思い悩んでいる。
一応、わかなも他の参加者のトーナメントを観戦して、対策を講じようとしていたが、特に名案はなく、ただ己の拳と肉体を磨くだけ磨いただけだ。マッスル。
やはり筋肉、筋肉は全てを解決……するわけもなく、魔法という科学兵器の前に跪くのみ。
筋肉に愛されし母は考えた。防壁魔法は魔法であるならば、同じように魔力が消費されるはずだ。その魔力が心許ない状態になった時、ファースト・ドライヴはさすがに防壁魔法を解除するのでは。
防壁魔法の攻略法としては正しい。が、それはあまりにも膨大な時間、体力を消費することになる。しかもファースト・ドライヴの魔力はほぼ無尽蔵。一日二日経ったくらいでは防壁は消えず、誇り高きその強靭な壁で主人を守り続けるだろう。
そうとも知らず、わかなはほぼ無いに等しい希望が見えた気でいる。
逃げ回る作戦に切り替えるとしても、周りの道が全て糸で塞がれており、行動できる範囲が限られている。
ファースト・ドライヴがここで広範囲の技を仕掛けさえすれば、ほぼ確実にわかなに攻撃が当たるようになっている。
ただでさえ不利な状況だ。その中で逃げ回るのは現実的じゃない。
(無理だ。別の作戦を考えるしかあるまい)
防壁魔法を突破する策を再び考え始める。
『どうしました? 来ないのですか?』
ファースト・ドライヴは、全く動かないわかなを挑発するも、対策を考える為に頭を回す彼女の耳には届かない。
『考え事ですか。防壁魔法の攻略はこの時代の人には難しいですからね。無理もないです。が、隙があるなら容赦なく攻めますよ!』
ファースト・ドライヴは武器生成魔法を使い、ライフルを二十丁程、この場に取り寄せると、浮遊魔法で全て浮かせ、銃口を全てわかなに向けた。
『……』
この時代にも銃という概念はある。この光景を見れば自分がハチの巣にされる危機を感じる場面ではあるが、わかなは未だ考える事をやめない。
『……』
表情一つ変えないわかなに、ファースト・ドライヴは容赦なく発砲命令を下す。
『一斉放射せよ!』
バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン――
――鳴り止まぬ銃声。充満する硝煙の香。ファースト・ドライヴの男装もあってか、危ない抗争をする映画のワンシーンのような光景がここに顕現している。
これから緑が赤く染まるはずだが――その血という色は一体どこにある。
放った弾丸の行方を探してみると、彼女の身体には傷一つついていなかった。その本人も、まるで何事もなかったように未だ思考を巡らせている。
『は? まさか弾丸全部避けたんですか?』
『あぁ、存外普通の弾丸と速度は変わらぬものでな。目を瞑っても回避は可である』
無論、強がりでもハッタリでもない。彼女の才能、経験が動体視力を異常に高めている故に、弾丸程度の速度を速いとは思わない。
『なるほど。確かに貴女ほどの人ならそれくらい当然か』
だから、突然の大爆発でも傷を負うことなく回避できたのか、とファースト・ドライヴは納得した。
(そうですよねぇ、だってこの人あのヘラクレスを簡単に倒してくれたんだから、簡単に勝てるわけがない。だからこそ私は危機を感じて防壁魔法を張ったんだ)
早乙女わかな、現代の人間でありながら、魔法をほとんど使わずにこれほどの実力を示している。その力、まさに突然変異級。もし魔法のない世界であれば、霊長類最強という称号を授けられたに違いない。
『解した』
『何をですか?』
わかなは不敵な笑みを見せる。
『その、防壁魔法であったか? その弱点を我は理解したのだ』
『なんですって……?』
険しい表情になるファースト・ドライヴ。確かに防壁魔法を破る方法はあるが、今すぐ破るには未来の魔法である結界を無効にする魔法や、空気に直接干渉する魔法のように壁を無意味にする状況にできる魔法が必要だ。もはや言うまでもないが、この時代の人間にそんな魔法を覚えているはずがない。
では、やはり時間稼ぎでもするつもりか。現状わかなが防壁魔法を攻略するにはそれしか方法はない。ファースト・ドライヴはそう思っていた。
『防壁魔法の弱点なんて存在しません。この魔法は例えどのような攻撃が来ようとも傷一つつかない無敵の壁です』
この時代においては正しい解説だ。
『そうだろうな。故に我の拳も一旦鞘に収めた』
『じゃあどうするんです? 貴女の唯一の武器が使えないんじゃ戦えないんじゃありません?』
ファースト・ドライヴの言う通り、わかなは格闘術のみを主体として戦闘に臨んでいる。魔法も使えないわけではないが、わざわざ使う機会が今まで巡り合わなかった為、埃かぶれの道具のように放置していた。
『その通りだ。しかし我はこの拳のみで防壁魔法を破る方法を着想したのだ』
『それはどんな方法で?』
『こうするのだ』
わかなは、地面に向けて拳を振り上げた。
『地面に? 一体何を?』
――拳に力を集める。それから勢いよく振り落とす。
すると、大地は割れ、足元が大きく揺らぐ。
『うわっ!』
ちょうどファースト・ドライヴの真下の地面が裂けると、体勢も崩壊し、尻もちをついた。
わかなはその隙を狙い、ファースト・ドライヴの足を掴んだ。
『しまった……!』
『どうやら我の思惑通りだったようだ。壁は確かに物理的ダメージを防げるが、それは前提が大地に支えられているからだ。だが、その大地が割られてしまえば、たとえ強固な壁であろうと、あっけなく落ちるのみだ』
わかなは掴んだファースト・ドライヴの足を振り回し、退路を塞いでいた糸に向けて投げ飛ばした。
『うああっ!』
すると、柔らかいその弾力性のある糸は破れずに、ボヨンとファースト・ドライヴを押し返す。
無防備になったファースト・ドライヴに、わかなは拳を振り上げて更なる一撃を叩き込んだ。
『ぐはあっ……!』
殴られた勢いで地面に叩きつけられると、なかなか起き上がれずに、その体勢のままわかなを睨みつけた。
『……くっ……や、やりますわ……ね……』
ファースト・ドライヴはわかなの拳一つで大きなダメージを負ったが、眼は死んでいない。そもそも彼女の魔法のレパートリーは防壁魔法だけではない。これでようやくダメージを与えられるようになっただけに過ぎない。
――本当の戦いはここからだ。
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