第422話『サバイバルバトル〜騒音から始まるノスタルジック〜』
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フレイの中には変身魔法に対する攻略法など存在しない。何が起ころうと、とりあえずぶん殴るというコマンドしか表示されていない。
勝機も作戦も皆無なまま、標的に向けて拳を突き出すも、フレイとなったあおいちゃんが張った炎の防壁によって防ぐことができた。
フレイの拳に纏った炎はその防壁に吸収されるように縮んでいき、当然威力も下がる。
が、フレイは燃え尽きそうな炎に魔力を注ぎ、再び燃え上がらせる。そしてそのまま防壁が壊れるまで殴り続けるという脳筋行為に及んだ。
『うおおおおおおおおおおおお!!!』
そもそも防壁は力だけでどうにかなるものではないのだが、それをフレイが知るはずもなく、こうして殴り続けていればいつかぶっ壊れるだろうと信じている。
あおいちゃんからしたら、フレイのその行為がよほど滑稽に見えるだろう。壊せないものを壊すなど世界の理をひっくり返すようなものなのだから。
だが、
『うおおおおおおおおおおおお!!!』
殴る。
『うおおおおおおおおおおおお!!!!』
殴る。殴る。
『うおおおおおおおおおおおお!!!!!』
殴る。殴る。殴る。
『うおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
殴る殴る殴る殴る殴る殴殴殴殴殴――
『はぁ……はぁ……』
いくら殴ってもビクともしない絶対的な防壁。
主人を守る為に磨き抜かれた圧倒的な防御力。それはいかなる暴力を通さない正義の壁。
力だけで勝負をしてきたフレイにとっては天敵だろう。もっとも壁を避けて別方向から攻撃するなどの工夫をすれば、こんな徒労などせずに済むのだが、フレイにそのような柔軟な対応などできるわけがない。
炎に愛されし脳筋は、ただまっすぐに拳を撃ちつけるのみ。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!
鉄板を叩いているような騒音が次々と響き渡る。聞く者によっては工事の音を聞かされているような不快感を覚えるだろう。現場にいるあおいちゃんも五月蝿い音が常に耳の中に入り続け、頭痛が発生してしまうほどに負担がかかっている。
騒音の犯人であるフレイは炎の防壁を壊す事に夢中なのか、全く気にする様子もなく、何なら殴る頻度を増している。
『……』
(うるさい、これはうるさいですね。こんな騒音久々に聞きましたよ。あの時以来です。そう、あれは私がお姉様と魔王城の朝の清掃をする約束をしていたのに私が寝坊をするという愚行を冒してしまった時、すやすやと寝ていた私の元にスーパーウルトラ素敵すぎるお姉様がフライパンで、“早く起きなさい!!!!!!”と、カンカンカンではなくガンガンガンガンという、相当強く叩かないと出ない音が私の睡眠を強制遮断してry)
『うぅ……トラウマが……』
防壁を張ることで物理的な攻撃は防げるのに、精神的なダメージを受けるという皮肉な状況。
ただでさえ常に思い浮かべていたお姉様のお説教が、防壁サンドバッグによって、さらに鮮明な場面を再生する。
だが、そんな嫌な日常すら、ノスタルジックに心を揺さぶられる。
それも時間的にはずいぶん前の話だが、彼女は昨日の事のようだ。
色々と耐えられなくなったあおいちゃんは防壁を解くと、殴り続けていたフレイの拳は空振りし、その隙を狙い、猛スピードでフレイを斬った。
『ぐっ……! てめえ……!』
生暖かい赤き液体が身体の危険を視覚的に思い知っても尚、笑みを浮かべた。やるじゃねえか、と言いたげに。
『血が出たくらいで俺は沈まねえぞ!』
フレイの拳の炎は先ほどよりも勢いを増した。まるで彼女の感情の昂りに反応しているように。
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
拳を振りかぶる。何が来ようとも立ち塞がる者は殴り壊すだけ。力だけを示すだけの炎の拳。
そこに炎の防壁を張れば、不快な騒音はあれど攻撃を完全に防ぐことができる。
あおいちゃんが取った選択は――
『分かりました。フレイさんの想い……受け止めましょう』
あおいちゃんは両腕のひじを曲げながら剣を構える。
フレイお得意の炎魔法を剣に纏わせた上で自分の魔力を注ぐと、赤いオーラと青いオーラが炎のように燃え上がり、互いを避けるように剣の周りを渦巻いた。
――両者、前に出る。
そして、衝突する――はずだった。
互いの武器を交わり、後退し、前進する。そんな死合を長時間繰り広げるはずだった。
しかし、忘れてはならない。これは2人だけの試合ではないことを――。
当然、横槍はやってくる。それも突然に――。
『!?』
異変を察知した2人は戦いを止め、後ろに下がった。
『なんだ……?』
目を惹くマーブル模様の青紫色の羽を広げる美しい蝶が一匹、割り込むように現れた。
蝶の周りにはキラキラとした粒のようなものが常に舞っている。まるでその蝶が頂点に立つスターだと主張しているようだ。
戦場に似つかわしくない蝶は空気を読まずに、バタバタと羽を動かし続ける。
すると、蝶は分裂したように二匹に増えた。サイズそのものは変わっておらず、羽の色だけが異なっていた。
1番最初に見たのは青い羽の蝶。分裂した二匹目の蝶の羽の色は黄色。
『なんで蝶がここに……?』
このフィールドは自然で溢れているので、他の動物や虫が住んでいてもおかしくはないと思われがちだが、そもそも仮想空間であり、もちろん他の生物が出現する仕様にはしていないはずだ。
にも関わらず、ここに蝶がいるということは、これは他の何者かの仕業だ。さらに言うなら現代の魔法では蝶そのものを出現させるのは不可能なので、未来の魔法であることが分かる。
参加者の中で未来の魔法が使えるのは、ダスト、あおいちゃん、ファースト・ドライヴ、セカンド・ドライヴの4人だ。
あおいちゃん自身はフレイとの戦いの最中で他の魔法を発動する余裕がないので、他の3人の誰かということになる。
現状で考えられるとしたら、ダストである可能性が高い。なぜなら、橋本ルカがダストと合流し、今頃こちらに向かっていると思われるからだ。そして今、あおいちゃんとフレイを見つけ、加勢しにきた結果がこの現状と考えるのが1番自然だ。この蝶がどんな魔法でどのような意図で作られたのかは知るところではないが。
あおいちゃん自身もそう考えてはいるが、彼女の本能が“そうじゃない”と警告音を鳴らしている。
直感。あおいちゃんは論理的に考える方ではあるが、それ以前に自身の経験則を優先するタイプだ。嫌な予感がすると思ったら、その時点で警戒する。
『……』
あおいちゃんは自分の本能に問いかける。あの蝶が敵ならば私はどうすればいいのか。
“逃げろ”
『!!』
あおいちゃんはすぐさまその場を離れる。
『おい! なに逃げてんだよ!』
まだ俺との戦いは終わってねえぞと怒鳴りつけるが、あおいちゃんの足は止まらない。
『フレイさん! 逃げてください!』
むしろその場から逃走することを通告した。
『あ? 何で俺が逃げ――』
――疑問を抱く暇など無かった。
島の中心から左斜め辺り、木々の間から海が見えるその場所は爆炎に包まれた。
それによりその部分の地面は抉られ、代わりに海が下から溢れようとしていたが、すぐに修正され、元の形に戻った。
――しかし、そこで戦っていた2人の姿は無かった。
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