???『記憶の/残滓』
誘われた世界は何処に?
魔王城での出来事――
朝になった。俺は目を擦っていつも通りの朝を迎える。
『あ、おはようお兄ちゃん』
『おはよう、ブロンズ様』
同室のブロンズ様と朝の挨拶を交わすと、彼女はまた不敵な笑みで悪巧みを考えている。
『今日はどういたずらしてやろうかしら?』
『いたずらもほどほどにな』
『はーい』
『じゃ、みんなの所に行くか』
『うん!』
扉を開けて食堂に向かうと、
『あ、ダストさん、ブロンズさん、おはようございます!』
緑髪の美女みどりちゃんがメイド姿で元気に挨拶を交わした。
相変わらず元気な娘だな。盛り上がった胸元も元気そうで何よりだ。
『お兄ちゃん?』
心が読める彼女には、ピンク色の思考などお見通しだ。スケベなんだから! とジト目で睨まれてしまったが、そんな顔の君も愛おしい、可愛い。
『なっ……!? ちょっと、心の中だからって私を口説くのはやめてよ!』
頬を赤くした彼女。あまりの恥ずかしさで微弱な力で俺をポコポコと殴ってきた。可愛い。
『ふふふ、相変わらずラブラブですね!』
愛し合う俺とブロンズ様の仲を見せつけてやったぜ。
『ちょっと、やめてよ! は、恥ずかしいわ……』
『『可愛すぎかよ』』
『声に出てるわよ! せめて心の中で喋りなさいよ!』
こうして3人で談笑していると、赤い髪の美少女が、
『おはようございます。だすとさま、ぶろんずさん、みどりせんぱい』
『おはよう、マゼンダちゃん』
メイド服姿でトコトコとやってきたのは、この魔王城のメイド見習いのマゼンダちゃん。赤い髪が特徴でメガネをかけている。
『マゼンダちゃん、今日も可愛いですね〜!!!』
マゼンダちゃんの可愛さに思わず抱きしめたみどりちゃん。
『はなしてください、みどりせんぱい。あつくるしいです。あとむねもうっとうしいです』
『あ、ごめんね〜! マゼンダちゃんが可愛くてつい〜!』
みどりちゃんの性格だと、このままお持ち帰りする〜なんて言いかねないので、俺はみんなにこう言った。
『あー、やべえお腹減ってきたな〜、早く食堂行こうぜ』
『そうね、私もお腹空いたわ』
『あ、そうですね! 今黄金さんと――』
――場面は変わって。
あれ?
いや、何でもない。
そうだ、俺は今日、我々の敵対勢力である大魔王マーブルを倒しに来たんだ。
でも――
『あ、もう儂、諦めました。どうぞ好きにしてください。どうせ儂なんて弱弱魔王ですよー』
敵の魔王城の門を叩いたと思ったら、当のボスはかなり自分に否定的になっており、とても戦いに来たという雰囲気ではない。
『これどうするの? お兄様?』
『そうだな、とりあえず邪魔するか』
俺はインターホンのマイクに向かって、
『上がっていい? 話聞くよ?』
『え、本当に? いいよ上がって上がって!』
声色が急に明るくなった。話し相手が欲しかったのかな?
家に上がると、マーブルは満面の笑みで歓迎の姿勢を見せて、客間に案内された。
『いや〜実はさ〜ちょっとヤなことあってさ〜』
俺と我が妹ブロンズは彼女の話を聞くことに。
何でも彼女のお友達の斑目愛という女の子と喧嘩したそうだ。
『それでさ〜』
その友達とは長い付き合いで、前世から共に過ごして――
――また場面は変わり。
あれ?
気のせいか? いや、何でもないか。
今日はゴールド皇帝陛下とシルバー大佐と共に戦場へ向かった。
我が国を侵略せんとするジャスティス王国との決戦だ。国民の為にも、今日まで戦ってくれた友の為にも、そして家族や恋人の為にも、勝利を掴まなければならない。
『ダストっち少佐! まず貴様が前へ出ろ!』
『ハッ!』
俺は陛下の命令通り、最前線へ出た。
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!』
俺は翼を生やし、この世の全てを破壊した。
――GAME OVER――
『んな、バカなことがあるか!!! ってあれ?』
気がつくと、俺は真っ暗な空間の中にいた。壁もない床もない。でもちゃんと地に足は付いてる感覚はあるので、床はあるんだろうけど。
『ここはどこだ?』
キョロキョロと辺りを見渡してみる。
『何もねえな』
あぁ、でも分かる。そうだ、俺は今、彼女と――
『そう、ここはあなたの記憶。その残滓の集合体』
『あぁ、やっぱそういうこと?』
要するにここは夢の中ってことか。
ずいぶんと変な夢だった。魔王城でブロンズ様と同じ部屋で寝ていたり、魔王が敵対勢力になったと思ったら、メンヘラってたし、なぜか俺が戦場に出てこの星ごと破壊しちまってたし、もう訳が分からなかった。
『そう、それが夢の世界。あなたの妄想と実在が混ざりあった混沌なる映画』
『まあ、そうだよな。夢なんてそんなもんだよ』
『あなたにはやることがある。帰還する』
夢の時間は終わり、世界が光に包まれた。
いつ見ても、夢って不思議だな。何で夢なんて見るんだろうな。
夢が覚めるようにやがて夜も明ける。
生きるとはそういうことだ。




