第400話『特別扱いは時に人を傷つける』
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性悪女神からストレスを与えられた俺は、気晴らしというか八つ当たりをするように不良ゾンビを一人残らず蹴散らした。特に強い個体というものはいなかったので、決して難しいことではなかった。
『これで終わりか』
――いいえ、ここからすぐ近くにゾンビがいます――が援軍に来た方々が今終わらせてしまったようです――
遠くからナビをしてくれる女神が、用意した援軍の手によって任務の終了を宣告した。
どうやら援軍の人達は、ノルン様の未来予知によって不良ゾンビの発生場所をマークしており、そこで待ち伏せすることで探す時間を省いてスムーズに殲滅できたようだ。
『あぁ、そうですか……お疲れ様でした』
俺は仕事の達成感と同時にサンドバッグが使い物にならなくなり、物足りないという気持ちが複雑に絡み合った。
『せんせーおつかれ〜』
銅は上目遣いで見上げながら、労いの言葉をくれた。
『ありがとな、3人共怪我はないか?』
大切な生徒の安否を聞いてみると、3人はそれぞれ姉妹の顔を向き合ってから、俺の方へ顔を向けて、
『大丈夫よ』
傷ひとつないという最高の結果を聞けて、俺は心底安堵を得た。しかも銅は最高の笑顔を見せてくれた。
その顔を一万年後の彼女を重ねた。あまりにもその姿が酷似していた故に、俺は彼女を抱きしめそうになったが、今はその気持ちをぐっと堪えて、教師として言葉を発した。
『無事で良かった。もうそろそろ外も暗くなるし家に帰ろうか。送るよ』
気がついたら、空は子供はそろそろ帰る時間だぞと告げるようにオレンジ色を強く示していた。
夜に出歩くとロクなことがない事を学習していた3人は拒否せずに俺と共に家へ向かった。せっかくなので話しながら道を歩いていると、あっという間に家に着く。もう少し話していたかったが、引き止めるわけにもいかない。
手を振りながらドアの向こうへ消えていく彼女達を見送ると、俺はすぐに大会へ戻るため転移魔法でヴァルハラへ飛んだ。
さすがにもう俺の不戦敗で処理されてしまっただろうか。まあそれならそれで仕方がない。教師として生徒達を守る方を優先するしかなかったのだから、ノルン様も許してくれる……と信じたい。
まあ、教師じゃなくたって助けたけどな。だって彼女達は俺の大切な――。
――ヴァルハラの控え室に姿を現した俺は、選手のみんなから一斉に視線を浴びると、磁石に引き寄せられたように俺の周りに集まってきた。
『ディーンさん!』
『おいおい、どこ行ってたんだよ』
『ダス……ディーン様、ご無事に戻られてなによりです』
それぞれの反応が俺の視界に映し出すと、どう反応すればいいか分からなくなったが、とりあえず俺を心配していたことは確かなので『ごめん、色々あってさ』と、先程の出来事を雑にまとめた言葉を投げた。
というか、それよりも――
『今試合はどうなってる?』
俺が最も聞きたかった事を聞いてみると、みんなは何とも言えない顔で第7試合の出来事を話してくれた。
――勝者はファーストドライヴ。
試合の終盤、オベイロンの根源を斬る力で彼女を圧倒し、絶体絶命のピンチのところで、彼女は最後の最後で“自爆魔法”を発動した。この魔法は文字通り自らを爆発させることで相手に多大なダメージを与えるが、その代わり自分も瀕死の重傷を負うことになる。
自爆魔法のあと、先に倒れたのはオベイロンで、それまで僅かに意識を保ち、根性だけで何とか立っていられたファーストドライヴの勝利ということで第7試合は幕を閉じた。
しかし、その勝者は今ベッドの上で生死の境を彷徨っている。もしもの事態が起きてもノルン様が生き返らせてくれるから心配はないだろう。
だが本来ならば第7試合、もっと早く終わらせることができた。なぜなら彼女にはいくつもの戦略を立てられるほどの魔力と経験があり、根源を斬れない状態のオベイロン相手ならば速攻で決着をつけることができたのだが、俺が戻るまで時間稼ぎをしなければいけなかったため、オベイロンが覚醒するまでは防御に徹していた。
そのせいで、オベイロンは覚醒してしまい、ファーストドライヴにとって致命的に相性の悪い相手と戦うことになってしまったのだ。
つまり、俺がもっと早く任務を終わらせて戻ってこれれば、ファーストドライヴは今頃ピンピンしてる状態で勝利を味わっていたのだ。
もちろん、俺のためなんかじゃなくてノルン様からの命令だったのだろうが、とはいえ俺のせいでこうなってしまったんだ。彼女が目を覚ましたあとに感謝でも謝罪でもお礼でも出来る限りのことはやるべきだろう。
でも、そういうことなら俺は不戦敗でも良かったのだがな。確かに優勝賞品は魅力的だし、願いを叶えられる権利をくれるのなら他の人を蹴落としてでも手に入れたいとは思うが、前の試合の選手に理不尽に時間稼ぎを強いてほしくはなかった。
考えてみれば不自然な話だ。公平的な思考を持つノルン様が俺を不戦敗にしないために選手に時間稼ぎを命じるなんて、ちょっと俺に肩入れしすぎじゃないか?
もしかして、俺がこの大会に出なければタイムパラドックスでも起こるのか?
だとしたら、今回のノルン様の行動にも頷けるが。
まあ、考えても仕方ないか。どうせノルン様には逆らえない。俺がこの大会に出ることは決定事項なのだろう。
『とにかくディーンさんが試合に間に合って良かったよ。オベイロンさんの試合が終わったすぐあとに、テレビの故障で大会が一旦中断になったから』
テレビの故障か、確かに画面には何も映ってないな。
おそらくそれもノルン様による時間稼ぎだろうな。第7試合が終わっても戻ってこなかったから、意図的に液晶を映らなくさせて、それを理由に大会を中断したのだろう。
『そうだったんだ。運が良かったな俺』
『うん!』
ルカちゃんは自分のことのように喜んでくれているが、俺は自分だけ特別扱いされているみたいで複雑だ。素直に喜べないが、表面上は喜ばないと不自然だろう。
俺は感情を無理やり変えて精一杯の喜びを表した。
そうしていると、真っ黒だった画面が色を取り戻した。誰もいないバトルフィールドが映ると、ノックして現れた従者が次の試合の開始を知らせてくれた。
『じゃあ行ってくるよ』
『行ってらっしゃい! 絶対勝ってねディーンさん!』
俺は手を軽く上げて任せろと表現した。
――さて、相手はフーか。この時代のあいつはどんな戦い方をするのだろうか。
第400話を見て下さり、ありがとうございます。
記念すべき400話ですが、特に変わったことはありません。しかし、ここ最近ブクマ増加頻度が上がった気がします。
とても嬉しい限りです。
まだまだ未熟ですが、これからも見守って頂けると幸いです。
次回も宜しくお願い致します。




