第392話『試合前の雑談②』
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――第6試合終了直後。
控室でマリンと雑談していたフーは飲み物を買いに行きたいと、ヴァルハラの城の中にある購買部に向かった。その最中、同じく購買部に用があるファーストドライヴと鉢合わせた。すると、ファーストドライヴがフーに話があると引き止めた。
これまで全く接点がない2人だったが、ギクシャクすることなく、スムーズに会話が進んだ。しかし、それは歓談をしているわけではなく、至って真面目な話であった。それはファーストドライヴの正体だったり、世界の命運に関わるような未来だったり。
『――以上ですわ。何か質問はありますか?』
『色々ある。けど頭が混乱して何から聞けばいいか分からない』
普段あまり表情が変わらない彼女だが、珍しく眉をひそめていることから本当に混乱していることが見て取れる。
『ですわよねー』
『でも1つ聞きたい』
『ええ、いいですわ。何でしょう?』
『その記憶、私に引き継ぐことはできる?』
『ええ、可能ですけど……そっちの方が情報量が多くて対処しづらいと思いますわよ』
『構わない。その方が効率がいい』
『彼みたいな事を仰るのですね』
彼とは、セカンドドライヴの事を指す。
『効率求める人、嫌いじゃない』
『そう。分かりましたわ、今あなたに記憶を送ります』
――それは、“彼女”が積み上げた冒険の記録。
――それは、“時の女神”として得た経験。
――これは、1万年分の生き様を圧縮した記憶。
本来であれば、未来の記憶など過去の人間に知られてはならない。タイムパラドックスを引き起こす危険性があるからだ。
しかし、“彼女”は彼女であって後の時の女神。タイムパラドックスの危険性を誰よりも理解している。
そして、それをこの時代の彼女が知ることによって、破滅の未来を変えられると、“ある者”は考えたのである。
『……』
フーは全てを視た。これから起こる破滅も絶望も――何もかもを――
それでも尚、フーは表情1つ変えることなく、ゴミ屋敷のゴミを片付けるように1つ1つ情報をかき分けた。
『どうですか? 難しいでしょうけど、情報は頭の中で纏まりましたか?』
『……なんとか。すごく大変だった』
『すごく大変だった、で済ませられるあなたが凄いですわ』
『そう?』
『そうですわ。普通の人間なら、とてつもない情報量に耐えられなくて頭がパンクするどころか精神崩壊すらありえるのに』
『この世界はゲーム。そういう事態を予測することは可能』
『つまり想定内だと?』
フーはコクンと頭を縦に振った。
『そういえば次、あなたの試合のはず。こんなところにいてもいいの?』
『それは大丈夫ですわ。次の試合まであと29分32秒ほどかかりますから』
『そうなの?』
『ええ、なぜなら――』
――第6試合が終わり、次は第7試合に進行する予定だったが、出場予定だった皇帝陛下が急遽仕事が入り、来れなくなってしまった。
皇帝陛下は、こんなことしてる場合じゃねえ! とサボろうと何回か抜け出しを試みたのだが、幾度もなく秘書に見つかり、とうとう仕事部屋に監禁される事態になってしまった。どんなに早く仕事を進めても、少なくとも今日中に外に出ることは適わないだろう。
なので、ノルン様が皇帝陛下の代わりの選手を探すということで、ひとまず選手全員に30分間の休息を与えることとなった。
選手達は特に何もするわけでもなく、ただその場でそこにいる者達とそれぞれ雑談を交えたのだった。
『それにしても、あのわかなという婦人。なかなかの強者だな、そう思うだろうマリン』
『そうね、下手したらシャイよりも強いんじゃない?』
『私が負けるなどありはしない』
『え〜、あなたさっきの試合でルカ・ヴァルキリーちゃんに負けそうになったじゃない』
『あれは油断しただけだ。今度はもう相手がどんな容姿であれ、気を抜かない。最初から本気の私が負けるはずないのだ』
シャイは先程の試合の油断は認めてはいるものの、自信過剰な所は一ミリも変わっていなかった。真面目な所もあるので、きっと同じミスをすることはないのだろうが、マリンからすれば、その自信過剰な性格自体が別の油断を生むのでは、と思ったが面倒なので口に出さなかった。
『はいはい、分かったわよ』
そんな会話を繰り広げている内に、フーとファーストドライヴが帰ってきた。2人が同時に帰ってきた事に関しては、皆あまり関心が無いのか、誰にも聞かれることはなかった。
『ただいま』
『おかえりなさいフー』
『シャイと何話した?』
『シャイが油断したって話よ』
『さっきの試合?』
『ええ、そうよ』
シャイをバカにしたような態度を取るマリンに、さすがの本人も良い気はせず、挑発されたように思わず反論をしてしまう。
『マリン、私の悪口ばかり言っているようだが、貴様なんて試合に負けたではないか』
『うっ……』
マリンは痛い所を突かれ、いつも何かと言い返す彼女でさえ反論できないようだ。
そんな彼女に追い打ちをかけるようにシャイが更にこう言った。
『なぜ敗者のお前が勝者である私に口答えするんだ?』
『うぅ……すみません……』
完全論破されたマリンは敗北を認め、それから何も言わなくなったのであった。
一方でルカとあおいちゃんは――
『ディーンさん、まだ帰って来ないのかな?』
ルカはオーガスト・ディーンの帰還を強く待ち望んでいる。30分の休息が与えられたとはいえ、彼の出番は次の次の試合だ。もしかしたら間に合わないのではという危惧があるからだ。いや、あるいは――
『うーん、想定外のトラブルで対処に時間がかかってるのかもしれませんね』
『そっか……早く帰ってきてくれないかな……』
寂しそうな表情で窓の外を見つめるルカ。空の彼方の愛しい人に向けるように――。
――その彼は今、とんでもない事態に巻き込まれていた。
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