第387話『ヒルドVSセカンドドライヴ③』
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彼はまだ動いている。身体中を刺されても、死に至るレベルの流血をしようと。
刺さった武器を1本1本引っこ抜きながら、ヒルドに伝えたい言葉を不器用ながら述べていく。
『ヒルド、話の続きだ』
『はなしのつづき?』
『ああ、なぜ今のお前の射的精度が下がってるかだ』
セカンドドライヴがそう言うと、ヒルドはバツが悪そうに下を向いた。
『それは……ちょっと調子が悪くて』
『身体の調子が悪いのか?』
デリカシーが無いともとれる質問に、ヒルドは無表情ながら若干不機嫌そうな声でこう答える。
『ちょっと、女性に身体の事は聞いちゃダメよ〜』
『そうか、すまない』
聞いてはいけないことを聞いたようだと、成長途中の彼は理解する。ただし“なぜ聞いてはいけないのか”は分かっていない。
『素直だね〜』
寡黙で冷酷でありえないくらいの効率厨の印象が強い彼が、素直に陳謝の言葉を述べるとは夢にも思わず、ヒルドは少し笑ったような明るい声を出した。無表情ではあるが。
彼女の心が多少解されたところで、セカンドドライヴは改めて険しい表情で質問を再開する。
『話を戻そう。何で調子が悪いのか自分で分かるか?』
『えっと……なんでだろ〜?』
指を頬に当てて思考を巡らすヒルド。記憶力は決して悪いわけではないが、まだ思い当たる記憶が頭に浮かばないようだ。
『なにか考え事でもしてるからではないか?』
なかなか答えを出せないヒルドに代わり、セカンドドライヴが正解に迫る質問をする。
『考え事……何でそう思ったの〜?』
『俺を串刺しにした時、お前は怯えているような顔をしていたからだ』
『それで?』
『お前はあの時、自分を残虐な人間だと思ったのではないか?』
『……!』
彼女はここでようやく思い出した。自分への恐怖と嫌悪感に。
『だとしたら、お前は勘違いをしている』
『勘違い?』
『お前は勝利に貪欲なだけだ。異常者ではない』
ヒルドの異常性の有無をハッキリと述べる。不器用だが洞察力が高い彼の言う事は正解である場合が多い。決して自慢をしたいわけではないが、彼自身もそれを自覚している。だからこそ絶対的な自信を持って言っているのだ。
しかし、ヒルドはそれをただの気遣いとしか捉えていない。だが、そもそもセカンドドライヴの普段の性格からして、気遣いなどするわけない。冷静に考えれば分かることなのだが、心が動揺しているヒルドにそんな余裕などあるはずがなかった。
『……そんなことない。私は危険な存在だ。それこそ勝利に貪欲すぎた結果、あんな残忍な方法であなたを……』
ヒルドはまるでこの手は全てを破壊すると言わんばかりに、自分の薄汚れた手を見た。他の者には薄汚れているようには見えないが。
『それは相手が怪物だからだろう。俺の治癒力を見た上でそうでもしなければ勝てないと判断したから、あのような方法を選んだのだろう? ならば勝つために最善を尽くしたといえる』
『……』
(それでも私は間違っている。無意識とはいえ勝つために私は沢山の武器をあなたに……)
『例えばお前の相手が俺ではなく、ルカやオーガスト・ディーンだったら同じように串刺しにしたのか?』
ヒルドは想像した。彼らが私と試合をした時に果たして同じ方法を取ったのか。結論は――
『それは……絶対ありえない』
どう考えても、彼ら相手にその手段はありえなかった。そもそも武器を大量に出して串刺しにする時は本気で相手を殺す気でいるときだけ。さすがにダストやルカ達にそんな大人げないことはしない。
『そうだろ? だからお前は最初から間違えてなどいない。むしろ戦況を素早く把握し、俺に大きなダメージを負わせた。素晴らしい判断だと思うが』
『……そうなのかな』
『そうだ』
『……でも、それでも怖いな自分が』
『なぜだ?』
『……』
彼女が1番恐れているのは無意識の自分。確かにヒルドはダストやルカ達を大切に思っている。しかし無意識の自分の中に、“私の大切な人リスト“があるのだろうか。
――分からない。自分という兵器には説明書もマニュアルもない。つまり無意識の自分を止められる保証がどこにもないのだ。
だから彼らを傷つけてしまう可能性があるのではないかと、彼女は思い、苦しんでいるのだ。
『……うむ、そんなに不安なら俺がお前に稽古をつけてやる』
『稽古……?』
『ああ、今後お前が理性を失わない為の修行をしてやる。そうすればお前はどんな状況でも“理性のない怪物”を出すことなく、自分を保っていられるだろう』
『それはありがたいけど、いいの? セカンドドライヴ君だって、少しでも強くなるために集中したいだろうに』
『構わない。確かに強くなるには時間が惜しいのも事実だが、俺が誰かに稽古をつけるのも貴重な体験だ。無駄だとも負担だとも思わない』
『そう?』
『ああ』
『……そっか、分かった〜。そういうことなら今日から私、セカンドドライヴ君の弟子になります〜、宜しくね師匠〜』
早速師匠呼びするヒルドの馴れ馴れしさに驚くことなく、師匠は眉1つ変えることなく、淡々と話を進める。
『うむ、ではこの大会が終わり次第早速ヒルドの修行の準備に取り掛かる。ヒルドはそれまで待機しているんだ』
『分かった〜!』
話がまとまったところで、視線を移すと蚊帳の外だった審判が困惑した表情をしていたので、大切な話題に切り替えた。
『ところで、まだ試合中だがどうするヒルド? 俺と引き続き戦ってみるか?』
セカンドドライヴはそう言って拳を構えた。
『ううん、私棄権する』
『いいのか? お前にも叶えたい願いがあるのだろう?』
『いいの、この試合はもう師匠が勝ったようなものだし』
『そんなことはないだろう、お前はまだ傷1つついてないのに対して、俺はかなりのダメージを受けた。むしろお前の方が優勢だろう』
『え〜、その傷も既に治ってるくせに何言ってるのさ〜』
セカンドドライヴは自分の身体を見てみると、既に傷は完治。まるで彼だけが試合する前に時が戻っていたようだった。
『む、本当だ。いつの間にか治っていた』
『ほら〜、私あれでも全力で師匠を倒すつもりだったのよ〜。でもその回復力があるんだったら、もう勝てるわけないのよ〜』
『そうか』
『うん、だから師匠と当たった時点でどの道負けてたの』
『うむ、そういうことなら分かった、では今回は俺が勝ち上がらせてもらう』
『うん、そうして〜』
勝敗の結果が審判の口からカメラ越しに伝わると、師匠と弟子は医務室に寄ることなく、控室へ足を運んだ。
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